02.新たな人生
短めですが、更新しました。
能力の解説が多すぎるかな?と思いましたが、多少の感覚がわからないので気にしても仕方がないという結果に落ち着きました!
今後も、少しずつ更新していく予定です。
未だに混乱したまま、私はしばらく廊下に立ち尽くしていた。
我に返ったのは、一連の騒ぎが終わってからなんと十分も経ってからの事だったらしい。
ようやく動き出すきっかけになったのは、スカートのポケットに突っ込んだままの携帯電話だった。
廊下で棒立ち状態だった私は、今の心境とは全く不釣り合いなコミカルな着信音によって、現実に戻される事になった。
右手でポケットを探り、目当ての携帯電話を取り出す。
取り出した携帯電話は可愛らしいピンク色で、本体には人気キャラクターのストラップが付けてあったり、友人と撮ったプリクラが貼ってある。
最近の若者が持っている機種よりは、どちらかといえば旧世代的な印象を受けるデザインで、つまりはガラケーという奴だ。
この携帯電話を見ていると、何故かモヤモヤしたような気持ちに襲われた。
……思い出した。どうやら彼女は、友人と同じように最新のスマートフォンを買い与えてもらいたかったらしい。だが、母親がそれに猛烈に反対したため、今でもガラケーを使用しているのだ。実際に携帯電話について母親と激しい口論をした時の記憶が私の脳裏に蘇っていた。
複雑な心境になりながらも、二つ折りの携帯電話を片手で開き、メールの内容を確認する。
差出人は本郷勝と表示されている。
『差出人:本郷勝』
『タイトル:無題』
『本文:よっ! 最近、調子はどうだ? 鍛錬、サボってねーだろうな?笑』
本郷勝というのは、どうやら彼女の親しい男友達らしい。
同じ高校に通っていて、幼い頃から知っている幼馴染という奴だ。
「……鍛錬って、なんの鍛錬なのかしら」
筋トレとかそういうのだろうか?
しかし、私が辿った記憶の範囲だと、彼女にはそういった日課はないようだ。もちろん、歳相応にダイエット(と呼べるかは怪しい類の努力)はしていたみたいだが。
とにかく、どうやらあの影達も一応は敵ではないようだし、母親の持つあの『異能』についても、彼女の記憶を辿れば詳しく掴めるだろう。早急に記憶の整理をする必要がある。
そう思い立った頃には、もう既に落ち着いていた両足だが、念の為にその場で一度足踏みをして、きちんと動く事を確認した私は、今度こそ記憶の整理のため、再び自室へと向かうために階段を登った。
部屋に入った私は、先ほどベッドの上に作っておいた転がり込むスペースに仰向けに倒れこみ、愚痴をこぼす。
「転生初日からこんな目に遭うなんて……」
こう見えて、私はトラブルにめっぽう弱いのだ。数々の転生を繰り返してはいるものの、その実、緊急事態に陥ると、どうしても冷静さを欠いてしまい、思ったように行動できないのが私だ。
だからこそ、転生した身体でトラブルを起こさないように『記憶の整理』はなるべく早く行う必要がある。昔にも、彼女のような特異な家系の人間に転生した事はあるが、所詮、幽霊が見えるとか、軽い念動力を持っているとか、伏せたカードの札が透けて見える程度の能力だったので、今回の件は正直驚かされた。
あそこまで自由自在に操れる『異能』というのは初めて見たし、あの言葉を話す影達にもかなり驚かされた。
もしかしたら、今回の魂交換によって、私はとんでもない人物と入れ替わってしまったのかもしれない……。
やや憂鬱になりながらも、せっかく手に入れた身体を早々に手放す訳にもいかないので、記憶の整理をする事にした。
深く、肺にある空気を全て入れ替えるように、何度も深呼吸をする。
瞼を閉じて、リラックスした状態で意識的に身体から不要な力を逃す。すると、次第に全身から力が抜けて行くのがわかる。
しばらくすると全身から緊張が無くなり、脱力していく。今の状態では、強く意識しない限りは指一本も動かせない。トランス状態と呼ばれるものと似たようなものだろう。
今感じるのは、《彼女》の身体から発せられる、心地よい心臓の鼓動音だけ。
そして、次はその鼓動音すらも、徐々に意識の外に追いやっていく。
次第に鼓動音が聞こえなくなると、この状態で知覚できるものは《私自身の記憶》と《彼女の記憶》だけになる。
ここからが本番だ。
この先で記憶の回想を行うための特殊な技術を身につけるのには、とても苦労した覚えがある。魂交換を使い始めた初期の頃に、転生した身体と記憶に上手く馴染めなかった私は、頻繁にトラブルを起こして、そりゃもう大変な目にあったものだ。
困り果てた私は《生前の記憶が蘇る》とか《前世の自分に会ってみよう》とか、なんだかもう怪しさ抜群のキャッチコピーを掲げる怪しい宗教なんかにも手を出してみたりしていたのだ。
それらのほとんどは、当然のように嘘っぱちであったが、その中の一つにあった《科学的に証明されている催眠療法の応用》という謳い文句のセラピーで、この技術を得る事が出来た。
まず、自身を深いトランス状態にする事ができたら、二つの大きな色違いの扉を強くイメージする。この時、扉自体はどんな物をイメージしても良いのだが、頻繁にこの作業を行う場合は、イメージに使う色を固定した方が良いらしい。
私の場合、左が赤色、右が青色、扉自体は中世ヨーロッパ辺りにありそうな模様の大きな鉄製の扉だ。
次に、左の赤い扉を《自分の記憶》、右の青い扉を《彼女の記憶》とし、勢いよく、扉をぶち破るつもりで右の青い扉に飛び込む。
しかし、ここで間違って《自分の記憶》へ飛び込んでしまうと、現在持ち合わせている《自分の記憶》と《扉の中の自分の記憶》が同時に存在する事になってしまい、大変危険らしい。
場合によっては、廃人になってしまうような事もありえるとか……ありえないとか。
まあ、現在までそういったトラブルは起きていないし、この方法で上手く《記憶の整理》自体は行えているので、問題はないだろう。
雑念が入ってしまったため、一度トランス状態を解き、机に置いてあったミネラルウォーターを一口分だけ飲み込む。再度ベッドに横になると、先ほどと同じように脱力を行ってトランス状態になり、慣れた感覚で扉の前まで辿り着く。
そして、いつもよりも少しだけ固めの決意をした私は、青い鉄製の扉をぶち破らんとする勢いで、扉に飛び込む。
すると、彼女が生まれてから私に魂交換をされるまでの間に起きた様々な出来事が、雷光のような勢いで、一気に私の脳に襲いかかっ――。
次回の更新は未定ですが、恐らく、03か04辺りで男の子を登場させると思います。
そして次話、転生の苗床にした《彼女》に秘められた特異能力に気付いた少女は、一体どのような展開になるのか!知っていたら誰か教えてください!