エピローグ
帰宅した翼は色々家事をしつつ、ぼんやり考える。
「お兄ちゃん、まこともなんかする」
「ん、じゃあ洗濯機回してきてくれ」
「わかった!!」
バスルームに真は走っていく。
「あっ、洗剤は半分だからな!」
「わかってるー!」
一ヶ月前、真がいなかった時期だ。色々あった。
刺されて入院したり、不良に絡まれたり、透を匿ったり、透を助けにいったり。
逆に真がいなくてよかったと思う。真がいたらまず刺されてる時点でそれどころではない。
ちなみに刺された当時の記憶は未だに戻っていない。結局、あのときに部屋を燃やした男は翼と雨崎を刺した犯人で、退院と同時に捕まったと神宮に聞いた。まあ、そこまでわかってれば別に記憶か戻らなくてもいいかなと、翼は思っていた。
「うわあああ!おにーちゃーんー!!!」
「なんだ!どうした!?」
真の叫び声。バスルームに行くと、真と床が泡まみれになっていた。洗濯槽からモコモコと泡が吹き出ている。
「……洗剤は半分って、言ったよな?」
「……ごめんなさい、こぼしちゃったの……」
「どうやったらこんなになるんだ……真、しょんぼりしてる暇があったらここどうにかするぞ」
「……うん」
二人で手分けして泡を掃除した。床がきれいになる頃には二人はびしょびしょになっていた。
「……ついでだし、風呂入っちゃうか」
「うん!」
うっかりしていた。二人で風呂ということは胸の傷がばれる。
「あれ?お兄ちゃん、こんなとこにキズあったっけ?」
ばれた。
「えっ?あー、真がいない間になー」
「いたくないの?」
「うん、全然」
「そうなの?それならいいけど……」
真はそれ以上気にするでもなく、シャンプーハットをかぶり、シャンプーし始めた。翼は湯船に浸かってその様子を眺めている。
怪我したことは確かだ。傷も残ってる。でも、そのときの記憶はない。あったところでどうということもないし、なくてもいい。
もしかしたら、なかったからこそ透と出会ったのかもしれないし、もし記憶があったら雨崎と会う必要もないので、その繋がりは生まれなかった。
「……スゲーな、運命だな」
「なにが?」
「透さんと友達になったことだよ」
「お兄ちゃん、とおるお兄さんと何でお友だちになったの?」
「風呂から出たら教えてやるよ」
現実ではあまり起こらないであろう出会い方をした。でも、あの日、あの時間に翼があそこを歩いていなければ起こらない出会いだ。
関わらないはずの運命がちょっとした出来事で繋がっていく。
この出会いを、繋がりを大切にしたい。
少しずつ変わっていく環境のなかで、新しく生まれた関わりを嬉しく思いながら、翼は真に透との出会いを話すのだった。




