真と匠
匠は翼のうちのあるマンションに到着した。駐輪場に自転車を停めようとして、普段は停まっていないバイクが停めてあることに気づいた。
「来客か……型は古いけど、丁寧に乗られてるバイクだな……」
思わず観察してしまってから、当初の目的を思い出した。
「おっとまこまこだよ」
自転車を停めて、翼の家のインターホンを押す。一瞬の間の後、真の声が聞こえた。
『はーい!誰ですかー!』
「よっ、まこまこ。匠だよ」
『たくみん!お兄ちゃんまことのことたくみんにおしつけてあそび行っちゃったんでしょー!まったくもー!』
真は玄関を開けて匠を招き入れる。と、見覚えのない男性物の靴が目に入った。
「誰か来てるのか?」
「ん?うん。お兄ちゃんのお友だちだって」
「でも真は知らないんだろ?ダメじゃん?知らない人おうちの中に入れちゃ」
「でもうち来たことあるって言ってたもん!」
ムッとしている真に一応確認してみる。
「名前は聞いたか?」
「うん!とおるお兄さんだよ!」
「……えっ!?」
驚きのあまり眼鏡がずり落ちる。
「たくみんメガネずれてるよ?」
「ああ、いやいやいや……」
匠は眼鏡を直しつつ、動揺する気持ちを落ち着かせていた。
「変なたくみん」
真はよくわからない顔をしたまま、匠を置いて部屋に戻っていった。
「お兄さん、たくみん知ってる?お兄ちゃんのおともだち」
真は部屋に戻り、早速透に聞く。
「たくみん?匠くんのことかな……?眼鏡掛けててバイク乗ってる子?」
「うん、でもがっこうのときは自転車のってる。バイクはお休みの日にのってるよ」
匠は部屋に近づき、聞き耳を立てた。二人の会話が聞こえる。
「じゃあ、匠くんが遊びに来たんだね」
「うん!連れてくるね!」
……なんだか嫌な予感がする。
真の走ってるであろう足音の直後、ドアが勢いよく開いた。
「…………~!!!」
思い切り顔面をぶつけ、匠は声にならない叫びと共にその場にしゃがむ。
「あっ!!!たくみん!!!!」
「匠くん!!大丈夫!?」
顔を押さえている手には何やら暖かい液体が落ちてきている。
「ヤバイ……鼻血……」
「えっ!?ティッシュティッシュ!!」
「ごめんなさいー!!あわ、あわわ!!」
透は急いでティッシュボックスを取りに行き、真はその場であわあわしている。匠はというと自分じゃなく眼鏡の心配をしていた。
「め、めがね……平気かな……」
匠は鼻にティッシュを突っ込んで、ひとまず血まみれの手を洗った。戻ってきて眼鏡を外すと真ん中から折れた。
「あっ」
「あーーー!!たくみんほんとうにー!!ごめんなさいー!!」
真が泣きながら謝る。
「泣くなよ、大丈夫だから。あそこに俺がいたのが悪いんだし、眼鏡だって結構長いこと使ってたからそろそろ新しいの買おうと思ってたところだったんだよ」
「……ほんとに?」
「ほんと。ほら、ここだいぶ塗装はげてきてるだろ?」
泣きつく真をなだめる。なんとか泣き止んだようだ。
「なんか、お兄ちゃんみたいだね」
「何言ってんだ。俺にとっても真は妹みたいなもんだ」
匠はすごい細目で透を見る。
「……匠くん……にらまれてるみたいで怖い……」
「じゃあ、あえてこのままだ。で?何であんたがここにいるんだ」
「遊びに来たんだ」
「殴るぞ」
拳を握られて、透は慌てて訂正した。
「ごめんごめん!本当はみんなに改めてお礼を言いたくて」
「しかし急だな」
「僕も急に押し掛けちゃったことは悪いと思ってるんだ。余裕がなかなか出来なくて、連絡したのが今朝になっちゃったんだ」
「まことでんわ出たよ」
「ほんとか?」
「うん」
真は朝の電話メモを匠に渡した。
匠はメモを目の前10センチくらいのところまで近づけてメモを読む。
「まこまこ字うまくなったなー」
「えっへん!」
「ところで、どうして匠くんが翼くんの家に?」
匠はさすがに細目に疲れてきたのか、鞄から予備の眼鏡を取り出す。ついでに鼻に突っ込んでいたティッシュも捨てた。鼻血は止まったようだ。
「留守番を引き受けたんだ。あいつにオムライス作ってもらう代わりに」
「そうだったんだね。なるほど」
「じゃあ、とりあえず翼のとこ行きますか。まこまこも行くだろ?」
「いくー!あきぽんとこでしょ?」
「翼行動読まれてんなー。正解だ」
「え、いいの?待つつもりでいたんだけど」
「たぶん行った方が早いぞ?一人で待つなら別だけど」
「ありがとう、匠くん!」
「まあ、途中メガネや寄るけどな」
匠は折れた眼鏡をハンカチにくるんで鞄にいれた。
3人で家を出て、真が鍵を掛けている間に匠は秋人に電話をする。
「あ、秋人?今からまこまこつれてくから。ん、ちょっとしたアクシデントがあってな。翼に伝えといて」
電話を切ると匠は自転車を持ってきた。
真を後ろに乗せ、自分も自転車に乗る。
「よっし、まこまこ乗ったな?ちゃんと落ちないように掴まったか?」
「うんっ!」
真がしっかり掴まったのを確認すると匠はペダルを踏み込んだ。
透はその後ろからバイクで付いていった。




