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透の決断

透がお願いしたこと、それは、自分をしばらく行方不明扱いにしてほしいということだった。

「……どういうことです?」

「いっそ死んだことにしてくれてもいいです。僕と組織の関係は正式なものじゃありません。……上層部の人間っていうのは実は兄なんです。ですが、兄弟といっても関係は希薄で……お互いの現住所すら知りません。連絡手段はその、携帯電話のみ。だから、それがなくなってしまえば、繋がりはなくなります」

「ですがそれでは他の家族の方は……?」

「他の血縁者は親戚くらいで祖父母や両親はいません。なので、僕がいなくなって困るのは兄くらいです」

透は遠回しに兄との縁を切りたいと思っているようだ。

「透さん、それで、本当にいいんですか?」

だが、翼は口を挟んでしまった。

「そんな簡単に兄弟の関係って切れないんじゃないかなって。例え不仲だとしても、一応は兄弟な訳だし……」

「……僕にとっては理不尽なだけの兄だったんだ。今回の事も何を言われるか……」

「透さんはお兄さんのやってることが悪いことだと思ったから、持って帰らないで処分しようとしたんですよね。だったらその事を素直に伝えたらいいんじゃないですか。それでダメなら縁切っちゃえばいいです」

「……翼くん、とても……難しいこというね」

「警察の人についていってもらえばいいですよ。ね?」

翼は神宮と秋山を振り返った。

「えっ!?な、何のために?」

「……ボディーガード?」

「私たちはそういうの専門外なんだけどなぁ……」

「…………」

透は黙る。わからないわけではないのだ。さっき自分の考えた幕の引き方では後味が悪すぎる。翼の方法ならば、きれいに終わらせられる可能性は高い。

「……わかった。けじめは付けよう。僕は兄にすべてを話して、反応によっては縁を切る。……なるべく縁を切る方向にいかないようにするつもりではいるけど」

透は不安げな面持ちでため息をつく。

「向かうのならば早い方がいいと思うんですが、僕の体調次第で動くことになると思います。ご迷惑をお掛けすることになりますが……よろしくお願いします」

透は神宮と秋山にペコリと頭を下げた。



とりあえず今日のところはこれで解散となった。透は親戚に兄の連絡先を聞き、約束を取り付けるようだ。

翼は透に言われた通り、自宅に戻って洗面台の下を覗き込む。本当にパイプの裏に鍵が貼り付けてあった。

「あ、これだな」

「山下くん、見つかったかい?」

「はい。これですよね」

「うん、ありがとう」

神宮にロッカーの鍵を渡した。

「山下くん、どうして西屋さんを匿ったんだい?」

「えっ?」

不意打ちの質問に翼は一瞬悩んだ。

「普通ならバイクで事故ってたなら救急車とか呼ぶんじゃないかな。でも君は彼に言われた通り匿った。なにか理由があったんじゃないかと思って」

「えーと……悪い人じゃないと思ったんです。事故った原因だって猫をひきそうになって避け損ねたからですし、なんか警察が介入したらまずい何かを抱えているような気がして、そのまま匿ったんです」

「まあ、事故ったときは何もなかったみたいだからよかったけど……今度そういう状況に出くわしたらちゃんと救急車と警察呼ぶんだよ」

「……はい、すんません」



数日後、透は退院手続きを済ませたあと、神宮と秋山を呼び出した。神宮から連絡をもらった翼は他のメンバーにも知らせて急いで病院に向かった。

「みんな?どうして……」

「な、なんで退院なんですか!?一時退院じゃなくて」

「ああ、その事か。ちょっと場所が遠くてね、片道で1日かかりそうだから、色々終わったあとダメそうだったら向こうで入院し直そうと思って」

「透さーーーーーん!行っちゃやだー!!!」

みちるは今にも泣きそうだ。

「みちる、なんでそんなに泣きそうなのよ……」

「透さん、ダメそうならって、あんた今体調よくないのか?」

「今はいいよ。じゃないと退院させてもらえないでしょ?」

「あ、そうか……」

匠も心配していたようだ。

「……心配しなくても大丈夫だよ。落ち着いたらちゃんと連絡するから。……それに、みんなで遊ぶ約束したじゃないか。だから、戻ってくる」

「どーるざーん!!!」

号泣しているみちるはついに透に抱きついた。また空気がピリッとする。

「みちるちゃん、あの……この前もそうだったんだけど、もしかしてあの刑事さん……みちるちゃんのお父さんなのかな……?」

「えっ!?な、なんでわかったの!」

「だって……すごく怖い顔してるもの……」

みちるは透から離れて秋山の様子をうかがう。だが、怖い顔はしていない。

「……えーと、西屋さん、準備はよろしいですか?」

「あ、はい」

普通の空気と表情に戻った秋山が透に尋ねた。

「じゃあ……みんな、またね。雨崎くんにもよろしく伝えておいてね」

「わかりました」

神宮が運転する車に透は乗り込んだ。

翼たち4人は小さくなっていく車をしばらく見送っていた。

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