避難訓練
赤く赤い炎が、学校を包み込む
慌てて逃げる生徒に先生
ものぬけになった教室で、静かに自分の席に座る
ゆっくりと瞳を閉じれば
徐々に炎が回ってきて、私を囲みこんでゆき
赤い赤い炎は全てを包み込んでくれるのだろう
〈火災が発生しました。
生徒の皆さんは先生の指示に従い、速やかに校庭へ避難してください〉
そんな放送がかかったのは、睡魔が襲い掛かってくるような退屈な授業を受けている最中だった。
「えっ、火災?」
「莫ぁ迦、今日避難訓練があるって言ってただろ」
後ろから聞こえるクラスメイトの声。
そう、今日は一年に一度の避難訓練の日だった。
もちろん授業は中止となり、廊下へ並んで校庭へと向かう。
こんなことをしても意味がない。
そう思う。
実際に火事になった時、こんな風に避難できるはずなどないというのに。
「静かに行くように」
先生はそういうけど、それを皆が聞くわけもなく。
皆、好き勝手に喋っていた。
どうせなら、本当に火事になればいいのに。
赤い赤い炎がこの校舎を包み、全て燃やしてくれればいい。
何もかも、跡形もなく。
三年間の思い出も、三年間の傷跡も。
全て燃えて灰だけになればいい。
誰も居ない教室で
ポケットの中からマッチを取り出す。
軽く箱に擦り付ければ
マッチは音を立て、簡単に炎を作り出した。
赤い赤い炎の中で
逃げるわけもなく立っている
炎は激しく燃え盛り
ゆっくりと瞳を閉じれば
炎が全てを包み込み灰にしてくれるのだろう
あれから、十数年の年月が流れた。
今もまだ、同じ場所に、同じ校舎が建っている。
赤い赤い夕焼けが
校舎を赤く包み込んだ。