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ディーヴァマトリョーシカ  作者: 黒砂シグマ
第一章『背徳のマトリョーシカ』
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第四幕「死ねぇぇぇ!!」

「ワシに用があるらしいの。して、何用じゃ?」


 歪に笑みを浮かべ、セツカは答える。


「貴様を消し去りに来た」


 周囲は無論、その言葉を聞いて更に殺気立った。今にもセツカを取り押えたいところだが、ディーヴァを信頼し、その指示に背くまいと今はまだこらえる。


「ほう、理由は何じゃ?」


「理由……だと」


 ギロリと剣呑な目付き。かと思えば、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「クク……そうか、今の貴様には何も分からないのか。ひどく滑稽だな……銀華ぎんか!」


 一瞬の内に焦翼、練刃の二つを凝負ぎょうふ。高速で間合いを詰め、黒き刀で斬りかかる。


(くっ、早い!)


 その速度に最も近くにいるトキとホムラでさえ割り込めない。


 凶刃が差し迫った刹那、ディーヴァの手に負の情念が集約した。

 作り出したのはセツカと同じ黒刀。

 しかしそれは通常のものより遥かに長刀で、容易く奇襲の一撃を受け止めてしまう。

 その防御に余裕はあるのだが、何故かディーヴァは反撃をしない。

 ニヤリとまた笑みを浮かべて、セツカは後ろに飛び退いて距離を空ける。


(何じゃ……この感覚は……懐かしい?)


「ククク……アーッハッハァ! 脆い、この程度の揺さぶりで揺らぐのか」


「ヌシは……いったい……」


「クク……さしずめ、名を呼ばれかつての記憶が過ぎったか? 自分が本当は何者なのかも忘れ、冥界のディーヴァを名乗っているなど、もはや哀れだな」


 セツカの言動に周囲はただ疑問符を浮かべるしか無いが、ディーヴァだけは困惑を極めていた。


(名だと……もしやワシの名前……か? こやつ、ワシの何を知っている?)


「クク……思い出してみろ。そもそもお前らは何時から、誰に命じられてこの冥界で役割をまっとうしている?」


 煽るように両手を広げ、周囲のマトリョーシカ達を見渡しながらセツカは問う。


「何を言い出すのかと思えば」


 言ってトキは呆れたように肩を竦めた。


「何の話をしているのかは分かりませんが、我々を創造し、魂の浄化を託すなど、神の御技に決まっています」


「……本気でそう思っているのか?」


「何が、言いたいのじゃ」


 挑発的に、刀の切っ先をディーヴァへと向け、言い放つ。


「逆なんだよ、銀華。貴様らのやっていることはエゴそのもの。神にとってはむしろ邪魔な存在だ」


 憎悪を言葉や仕草に溢れさせながら、更に続ける。


「全能なる神が、貴様ら如きに何を託す? 託されたなど勝手な戯言ざれごとだ。貴様らは存在しているだけで神の意志に反している。神が自分たちの従うべき存在だと言うのなら、今ここで……散れ!」


 猛然と真っ向から突進してくるセツカ。爆発的な速力を乗せた貫く一撃は、ディーヴァの喉元を掠める。

 最小限身を反らしセツカの突きをかわしたディーヴァは、一歩踏み込み拳を握り締めた。

 間合いの広い長刀ではなく、コンパクトに振るえるその拳で、隙の生じたセツカの腹部に鋭い一打を叩き込む。

 怯んだところへすかさず上段蹴りを繰り出し、顔面を大きく吹き飛ばした。

 宙へ投げ出された体は無抵抗なままに地面へ叩きつけられ、派手に転がりうつ伏せに沈黙した。


「すまんの。ヌシの言いたいことは良くわからん。何せ神に直接どうこう言われた記憶など無いからの」


「………………」


 倒れているセツカに語りかけるディーヴァ。

 ピクリともせず意識があるかどうかも定かではないが、向

けられた刃と敵意に、どれだけの重さがあったのかを、想った。


「神の思うところなぞはどうでもいい。肝要かんようなのは今成すべきをワシらが成せているか否か。それだけのはずじゃろう? ヌシは何故、神の意志とやらに拘る?」


 神の意志がなんであれ、役割を全うするディーヴァ達を否定することにはならない。

 全ての世界が存続するためには、魂の輪廻を保つ必要があり、それが出来なければあっと言う間に負の情念に蝕まれ、全ての世界が崩壊を始めるからだ。


 仮に神という存在が真にディーヴァ達の存在を認めないのなら、直接的に何らかの淘汰を受けているはず。少なくともディーヴァ達が滅びねばならない必然性は無い。


 セツカの言葉だけでは、冥界の住人が聞く限り矛盾しかない。それでもディーヴァは彼女に言葉を求めた。


「どうでもいい……だと?」


 それまで微動だにしていなかった体がゆっくり起き上がる。顔面を蹴り飛ばされた反動からか、眼帯の紐が緩み足元に落ちた。顔を上げたセツカは、憎悪と憤怒に満ちた声で叫ぶ。


「神を弄んだ貴様らがぁ! ふざけたことをぬかすなあぁぁぁぁ!」


 眼帯の外れたセツカの瞳は白色を宿し、見開く双眸は白黒のオッドアイ。さらに背に生やす焦翼も片羽だけが白く変わり、刀を握っていない方の手に白い光が集う。

 まるで凝負のようにその手には物質が形成された。それは真っ白な回転式拳銃リボルバーだった。


(馬鹿な……!)


「死ねぇぇぇ!!」


 怒りに任せ、リボルバーであるにも構わず、弾丸を乱射し始める変わり果てたセツカ。対し動揺しながらもディーヴァは焦翼を展開した。


 一見すれば面積を広げてしまうことで弾丸を浴びやすくなる印象だが、焦翼には飛行能力以外に特筆すべき力があった。それは速力強化である。


 そもそも人の身では無いディーヴァやマトリョーシカ達の身体は魔物に近く、魂を核とし情念によって形作られている。その筋力や体力の殆どが情念を根源としているのである。

 

 凝負は、内なる情念と周囲の情念を集めて己が力とする法。

 形作られる表面上の物質化だけが真価ではなく、内的にも大きな恩恵を生じさせている。


 練刃では攻撃力、焦翼では速力と飛行能力を主として能力に情念が反映される。

 それにより、ディーヴァは弾丸を回避出来るだけの速度を手に入れたのだ。


 次々に襲い来る弾丸を舞うように、時には素早く緩急を付けた動きでかわしていく。


(どうなっておる、この力は冥界には無いはずのもの…)


 セツカの変貌とその異能に戸惑うも、少しずつ間合いを詰めていくディーヴァ。

 不思議とセツカが乱射している拳銃に弾切れの気配は無いようだが、取り乱しているためか、狙いはお粗末。

 ここぞというところで一気に踏み込み、長刀を脇で構えた。

 距離にして約一メートル。

 十二分に長刀の間合いであるが、同時にセツカの銃弾が確実に的を射る距離でもある。

 次弾が放たれるまで半秒もない。その僅かな瞬きの中を一閃で切り払う自信がディーヴァにはあった。

 だがその瞬間、セツカの口元が歪んだ。その背後から回り込むように二本の白い鎖が飛び出し、ディーヴァの体に巻きついて動きを封じてしまう。


「終わりだ……!」

       

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