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ディーヴァマトリョーシカ  作者: 黒砂シグマ
第三章『三界の長』
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第十九幕「礼はいらないよ。修羅を討つのもあたしらの仕事だからさ」

 天界のディーヴァからクローディアへ、華麗(?)な変身を遂げた解説キャラ。

 驚きなどの反応や、それを楽しむための数秒の沈黙の後、第一声を発したのは冥界のディーヴァだった。


「それでヌシの解説とやら、今が出番ではないのか」


「まぁまぁ。道すがら話すからさぁ、とりあえず目的地も変んないし行こうよ」


 ネタはそれで終わりか? というような白けムード全開のジト目で睨みながらの状況解説要請。

 その質問を一旦かわしつつ、クローディアは一同に行進を求めた。

 一先ず成すべきこともあるため、皆それに従い歩き出す。


 暫く微妙な空気のまま歩き続けていると。


「ちなみ、私は気付いてましたよ」


 ふと、クローディアの直ぐ後ろを歩いていたトキがそんなことを言った。


「うそだぁ。自分で言うのもなんだけど、生き写しと言っても過言じゃないレベルだったと思うけどぉ」


「私の鼻を侮らない方がいい。以前抱擁した時に彼女の香りは覚えましたし、話し方も敬語だけでらしさが足りていなかった。外見にしても、ロリ度が及んでいない」


「きめぇ、マジできめぇ」


 特別小声で話しているわけでもないので会話は全員に聞こえている。

 なのでオルガだけでなく、冥界のディーヴァもトキの発言にはドン引き中。

 ちなみにザクロは時々路を挟んでそびえる左右の壁に掛けられた松明の灯りなどを、ポカーンと口を半開きにして呆然と眺めたりしている。

 彼女は二人の会話には別段興味は無かったらしい。

 トキのまともなのか変態なのか良く分からない指摘に、クローディアは肩を竦ませながら渋々敗因を口にする。


「まあ、ディーヴァは全体的に小振りだしねぇ、流石に体形までは完コピ出来なかったのは認めるけどぉ」


「嘆かわしい話しです。貴方がせめてもう少しちっぱいだったら愛せたのに」


「ウケケ、それは残念だった」


 二人がそんなやり取りを交していると、ふと何かを思い出したように近づいてきたザクロが、しきりに顔を覗き込んでくることに気付き、クローディアが疑問符を顔に出して目を合わせると、ネコミミ少女は不思議そうに訊ねてきた。


「ていうかおまえ誰にゃ。天界のディーヴァじゃないのかにゃ」


 ザクロからしてみれば先の変装というか仮装というか、どちらにしても意味の分からない展開だったのだ。

 いや、クローディアの奇行に関して意味が分からないのは全員同じだが。


「ああ、そうだったね。僕はクローディア。天界のマトリョーシカだよ。さっきの格好が天界のディーヴァの真似でぇ、今のこの姿が普段の僕。よろしくねぇ」


「おい、いい加減に訳を話せ」


 と、いつまでたっても解説キャラが働こうとしないので、冥界のディーヴァが後ろから苛立ち混じりで解説を要求する。

 だが彼女はあくまでバトルものの解説以外はそこまで乗り気ではないらしく、肩を竦ませながら顔半分振り返ってテキトーに応じる。


「はいはい。それで? 逆に聞くけど何が知りたいのさ?」


「馬鹿にしとるのか。……まあ良い。先ず何故なにゆえ天界の長の真似をしておった」


「面白いからぁ」


「よし、歯を食いしばれ」


 硬く握り締められた拳を見たクローディアは血相を変えて前言を撤回する。


「待って待って冗談だって。もう、気が短いのはオルガだけにしてよぉ」


 冥界のディーヴァの怪力ぶりは既に良く分かっているため、彼女の物理的脅しには少々肝を冷さざるを得ない。

 正直その怪力の餌食になり続けるトキには尊敬の念すら覚えるほどだ。


「一応理由はあるのじゃな? ならいちいち冗談を挟むでない!」


「はいはい僕が悪かったよ。まあ、でもディーヴァの代理ってこと以外、別にこれといって理由は無いかな? 何となく真似してみたら似てたから何処まで騙せるか試してみたくなったっていう感じ?」


「結局面白半分か。……代理ということは、天界の長は別件か何かか?」


 現在この魔界を調査することは天界で最重要とされているはず。

 そこに天界のディーヴァの姿が無い事を少なからず肩透かしのように思っていた。


 そもそも天界のディーヴァを含む三人が冥界へ現地調査に来ていたのは、統括長の中でその三人だけが仕事を片付け、時間的余裕があった、という理由からだったのだが、そのことを冥界勢が知るよしもない。


「別件というより別行動。あれこれ解説の必要があったから僕とオルガが冥界への協力要請をしに来たわけ。ディーヴァも来てるよ、この魔界に。多分煉獄の間で合流できると思うけど」


「そうなのか」


 喜ばしいという程でもないが、幾らか安堵のような思考の緩みを感じる。

 恐らくディーヴァという共通の立場以外にも、二人の長は何処か惹かれ合うものを持っている。

 その一つと思われる失われた記憶や、それにまつわる謎について、出来ることなら彼女ともっと語らいたいと冥界のディーヴァは思っていたが、時が時だ。

 異常事態を片付けなければ長である二人にそのようなゆとりはあまり無い。


 長い長い路のりを、談笑を交えつつ一行は煉獄の間を目指す。




 場所が変り、とある魔界の路。


「あれはなんなのでふかぁ!」


「た、多分修羅と呼ばれる意思体だと……思います」


「二人とも下がって、ここは私が」


 ヴァイスと天界のディーヴァ、そしてテノンという名のマトリョーシカの、計三人は今、修羅と呼ばれる存在を目の前にしている。


 それは『過孤かこ』という名の種で、黒い猫の姿をしている。

 大きさは三十センチくらい。

 所々耳が取れていたり、前足や後足、尻尾が無かったり、肋骨が見えていたりなど、その姿はおぞましく、とても生き物の姿には見えない。

 さながら動く猫の死体といった風情。


 三人で煉獄の間を目指し、路を歩いていたところ、一匹の過孤に遭遇したのだが、その一匹に気を取られ立ち止まったのが良くなかった。

 あれよあれよという間に前方の路を塞ぐ程に群がってきた。


 目は虚ろ。だらりと尻尾を下げてゆっくり近づいてくる過孤の群れ。


 ヴァイスとディーヴァの前に立ち、二人を守らんとテノンは構える。

 その手に光が収束し、武器を形成する。

 形作られたのは両端が刃になっている槍のような武器、両槍りょうそう

 両端の刃は弓矢のやじりに似た三角形の形をしており、その三角形の一辺の長さは十五センチにもなる、やや大きめの刃を一枚ずつ有している。


 その両槍を構えた途端、一斉に過孤達が押し寄せてきた。

 おぞましい光景を前に眉一つ動かさないテノンは、落ち着いた様子で光の翼『ゼネラル』を展開し、襲い来る過孤の群れに挑む。

 両槍の中心を片手で持ち、巧みに高速回転させると、それを前方に盾の如く構え、突進を始めた。


「はぁぁぁ!」


 ディーヴァよりやや大きい、しかし小柄な部類に入るその身で勇ましく駆けながら、次々に過孤を切り刻んでいくテノン。

 ヴァイスとディーヴァはそんな彼女の勇姿を頼もしく思いつつ、過孤のおぞましい姿に怯え、二人で震えながら抱き合っていた。


 スタンダードな天界の衣装。

 長いイエローの髪を白いリボンでサイドテールに結っているのが特徴。

 彼女はベルベティアAブロックに在籍するマトリョーシカで、十二統括長会議で魔界の調査が決定した折に、ヴァイスと共に現地調査班に新たに抜擢されたのだった。


 魂の全データを管理し、あらゆる世界へ赴き調査することを主な役割とする天界。

 彼等の方針を指針としてこの魂消失事件の行方は推移していく。


 天界勢五名派遣及び、冥界勢への協力要請。

 それらを踏まえると、冥界調査の時より事態を重く見ているのが分かる。

 それでも前代未聞の事件に対する姿勢としてはいささか手ぬるいようにも感ぜられたが、あくまで目的は調査であり、戦闘行為そのものに重きを置くわけではないためだ。


 とはいえ、この魔界はそう容易く調査に専念できる環境になかった。


 修羅しゅらは、魔界に満ちた負の情念が、魔物同様昇華して生まれた存在。

 魔物との最大の違いは、負の情念の根源である魂が『禍魂まがたま』と呼ばれる一際邪悪なものであるという点だ。

 それ故に、修羅の姿や性質は、魔物よりも数段おぞましく厄介なものばかり。

 しかもこの世界にはには冥界と違って負の情念を浄化するための機構自体が存在しないため、もはや魔界は修羅の巣窟と化していた。


「おやぁ……お前さん達、どうやらお困りのようだねぇ」


 天界勢の背後から発せられた艶っぽい女性の声。

 その声の主は天界勢が振り返る前に妙な文言を口にする。


「出な『戦現せんげん旋風権化つむじごんげ』!」


 天界勢が振り返ると、そこに立っていたのは長い黒髪の女性だった。


 スラリと背が高く、ヒップとバストの豊かな、女性らしい身体つき。

 かと思えば、逞しい二の腕や太股ふともも、そして黒い薙刀のような武器。


「あひゃうっ!」


 天界勢が振り返ったその瞬間、唐突に女性は薙刀を振り下ろした。


飄刀ひょうとうかえで


 ディーヴァとヴァイスが立つ直ぐ側の地面へ突き刺さった薙刀の刃から、赤い五本の線が地面を走る。

 五つの渦巻く小さな竜巻のようであるそれは、過孤の群れの中心で奮闘しているテノンを避け、その周囲の過孤を一気に切り払ってしまった。


(……誰?)


 テノンは残った数匹の過孤を片付け、突然助太刀が入ってきたことを怪訝けげんに思いながら振り返る。


「礼はいらないよ。修羅を討つのもあたしらの仕事だからさ」


 呆然と立ち尽くすディーヴァとヴァイスの二人を尻目に、薙刀を担いで悠々テノンの方に向って歩き出す黒髪の女性。

 路を塞ぐほど大量に群がっていた過孤をたった一撃でほとんど壊滅させた圧倒的な力を誇ってか、表情には笑みが浮かべられている。

 じっと、そんな突然の助っ人をテノンは警戒と容姿の記憶のために観察してみる。

 黒い袖のない、大胆なスリットの入った着物を纏っている他、目尻に目張りのような朱色の化粧をしている。

 他には……自分よりバストサイズがカップくらい上だ……というところで、彼女と目が合い、話しかけてみることにする。


「あなた……魔界のマトリョーシカ?」


 テノンがそう問うと、


「すまないねぇ、今ちょっと急ぎなんだ。質問は次の機会にしとくれ」


「……そう」


 笑みにやや苦みを加えながら黒髪の女性はそう答えたので、テノンはすっと、身を避けて路を譲る。

 女性は急ぎという割にはゆっくりと歩いて行き、テノンもまたディーヴァとヴァイスの元へ歩き出す。

 すれ違い様、


「……もしかしてお前さん達……いや、前は白一色じゃなかったし、もっと威圧的だったか……」


「え?」


「いや何でもないよ。こっちの話しさね」


 そう言い残して去っていった。


「何だったのかしら……」



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