第十三幕「ウケケ……ろそろ解説キャラの出番かなぁ」
「いやぁあっちはヒートアップしてるねぇ、どうする? こっちはまったりとか……しちゃう?」
「やりたければ一人でやっていろ。その間に我々冥界勢がお前らを打ち負かすだけだ」
おどけるクローディアへ、威嚇的に大剣の切っ先を向け吐き捨てるホムラ。
彼女はこの決闘に対しかなり好戦的である。
発端はディーヴァの歌だが、もともと彼女は戦士気質で血の気が多い。こういった催しには熱くなり易いのだ。
「う〜ん、正直僕としては解説が出来れば勝敗とかはどうでもいいんだけど……まあでもやるからには一通りの設定、粗方ぶちまけといた方が良いかもねぇ」
言って徐に片掌を掲げる。
「IRGシステム起動……………………以下省略! 『IRGST・カプリシャス』」
やはり十秒ほどかけて形作られたそれは、機械仕掛けの白い大槌といった様子の物で、オルガが手にしているものと遜色のない大きさと重量を有している。
「おっとっと……」
フォトンの物質化に伴う、急激な質量増大の負荷にクローディアはよろめく。
オルガほどの怪力を持たない彼女だが、このIRGSTという兵器は得てして大型になり易い。
一見すれば不釣合いな大きさだが、その分だけ、ポテンシャルを多く内臓しているのである。
「んじゃあまあ……先ずは一発、ご、あ、い、さ……つ!」
大仰に振りかぶり、体重を乗せて一気に振り下ろした渾身の一打は、何故か何も無い足元の地面へ叩き付けられた。
気でも触れたかと冥界勢が見ていると、打ち付けられた大槌の頭の部分がキュイインとモーター音を響かせ始めた。
パチリと小さなフラッシュと発したかと思うと、次の瞬間、ホムラの足元から光が溢れ、貫くような四本の光線となって飛び出してきた。
咄嗟に飛び退いて事なきを得たが、それまで天界勢が駆使してきたどの攻撃とも性質の異なる攻撃に警戒を強めるホムラ。
「っと。あんまりこれ使わないからやっぱ重く感じるなぁ……」
「……いきなり攻撃してきおって、再開するならちゃんと言えっ!」
それまで解説やら観戦やら、一旦休戦状態だったにもかかわらず、突然攻撃を繰り出してきたクローディアを怪訝な表情で叱りつけるディーヴァ。
それに対し一瞬キョトンとしたクローディアが返す。
「怒られちゃった……ウケケ、ごめーん」
おどけたような軽い謝罪の仕方であったが、彼女が基本的に真面目な物言いが少ないことを既にこの短い期間で悟ったホムラとディーヴァは、とりあえずまあいいか、とそれを流した。
それから一同が戦闘を再開しようした矢先だった。
それまでBGMのように聞こえていたグロリアの歌声が途絶えたのは。
天界のディーヴァの方を一同が見ると、歌い終わったディーヴァがモジモジと所作無さげに佇んでいる。
「あ、あの……」
「お疲れさん。ちょっとくらい休んでてもいいよディーヴァ」
「え……あ、はい……」
クローディアに言われ、とりあえず一旦下がることにする天界のディーヴァ。
正直このまま戦闘から離脱できればよりいっそう有り難いのだが、と胸中では思うものの、言われたとおり僅かな休憩程度に止める健気なディーヴァだった。
その様子を見たホムラは徐に前へ出る。
「ならばここからは私ひとりで十分だな」
「何? ……まあ構わんが」
「ええ? どしたの急に? ていうか、別にウチのディーヴァの歌の効力はまだ切れてないし、状況的に君ひとりじゃ不利だと思うんだけど?」
「うるさい。私は元々二対一は性に合わんのだ」
と唐突にサシでの勝負に持ち込んだホムラ。
彼女の気質を長年の付き合いで理解しているディーヴァは大人しくそれに従い下がる。
そんな状況に疑問符を掲げながらもとりあえず向き合うクローディア。
「さて、今度はこちらから行かせて貰う」
「なーんか、急に相手が減ってちょっと寂しいかも……ウケケ」
「ほざけ!」
余裕を全身から溢れさせ、笑い声まで漏らすクローディアをギロリと睨みつけるホムラ。
それまで戦闘を中断していたために解除していた焦翼を再び展開し、一息に間合いを詰める。
そして凝負練刃により、両足の脛と脹脛に刃を携える足鎧のような形状をした武器を両足に纏った。
(あの武器……奴も接近戦をやるつもりのようだが、先刻の光の矢のような攻撃はいったい……)
クローディアの繰り出す不可思議な攻撃を警戒するも、敵を目の前に物思いに耽るわけも無く、苛烈な回し蹴りで先制攻撃する。
無論、再三に渡って見切られてきたことを忘れたわけではない。
光の翼ゼネラルの光速索敵は当然健在で、一歩下がりつつ身体を後ろへ反らすことで容易くかわし、そこからハンマーの横殴りによる、鋭いカウンターを繰り出すクローディア。
それを受け止めるためにホムラは拳を作った手に黒纏を宿し、回し蹴りの勢いを乗せた裏拳でハンマーの頭部分を強打した。
強く鉄を穿つ音を立ててハンマーはカウンターの動作を停止する。
「折角こちらの動きが捉えられても、そんな大振りの武器では意味が薄いな」
「ウケケ、そうでもないよぉ?」
拳で殴打したハンマーが、白いフラッシュを放つ。するとホムラの足元が淡く輝きだす。
「……!」
既視感を覚え、その場から離脱しようとするも、
「逃がさないよ?」
線状に伸びてきた二本のフォトンの連なりが鎖の形に物質化しながらホムラの胴部に巻き付き、離脱を阻止する。
次に発光した地面から二本の光線が飛び出し、ホムラの腕や足を貫いた。……かに見えたが、その瞬間、破鎧を発動させ光線を無力化すると同時に、巻きついた鎖を弾き散らした。
「おっと、その手があったか」
バックステップを繰り返し、距離を離そうとするクローディアを追い、駆けながら上段、中段と刃を纏った足技を牽制に使い追い詰めていく。
ホムラの攻撃は大剣を使っていた時より数段速度が速く、ゼネラルを以ってしても重量のあるクローディアのハンマーではなかなか割り込めない。
とうとう広場の端まで追い詰められ、背後には黒き樹木『月性樹』が壁となって聳えた。
「はぁっ!」
助走を付けた渾身の中段回し蹴りに、クローディアはハンマーの頭部分でガードするが、その攻撃力は凄まじく、一撃でハンマーをバラバラに砕いてしまった。
「ありゃりゃー。折角のIRGSTが台無しだよぉ。もー」
などといって肩を竦めるクローディアだったが、ホムラは腑に落ちないでいた。
(破片が散りすぎる……)
それなりの大きさだった大槌が、一撃でここまで細かくバラバラになるのを不自然に思い、地面へ散らばった大槌の破片へ、視線を落とすホムラ、その姿を覗き込んで、ウケケとまた変な笑い方をしたクローディアが突然、片掌を頭上に掲げた。
「なんてね」
すると地面へ散った破片が全てフワフワと宙に浮き始めた。
「……何だ」
『モード・オービット』
不規則に宙へ浮くだけだった破片は、やがて各々が目的を持ったようにバラバラの位置に向かって飛んでいく。
大半が遠方や森の中へ消えて行き、視界に一つ一つを捉えられなくなった。
警戒はしつつ、ホムラは目の前のクローディアに意識を戻し、構える。
飄々とした仕草で立つクローディアは今武器を持たない状態であるが、何かを企んでいるのは明白であり、その証拠に武器が破壊されてからクローディアのニヤケ顔が固定化されている。
「ウケケ……そろそろ解説キャラの出番かなぁ」
「……楽しそうだな?」
「まあね」
「お前は間違っている」
ふと、ホムラの表情が暗く沈んだ。
「んん? どういう意味?」
「戦いとは常に緊張に満ち、己が全霊を賭す事を悦びとする至高の舞台だ。手品師のようにひけらかすものではない」
「……う〜ん、まあ気持ちは分かるんだけどさぁ、そういうのは人それぞれだと思うよ。僕はあくまで戦いそのものじゃなく、一つ一つの過程や原理が醍醐味だと思ってるから」
「お前が思う戦いの在り様は好きにするといい。だが私はお前の解説とやらに付き合って相槌を打ったり、刃を振るうのを中断したりはごめんだ。やりたければ私に切り裂かれながら勝手にやればいい」
ホムラの冷徹な物言いに、クローディアはより一層シタリ顔を歪ませ、嬉々として答えた。
「もっちろん! 最初からそのつもりだったよ? だって君そういうキャラだもんねぇ!」
「ふっ、そうか。ならば安心だ。精々舌を噛まんことだな」
「おっけぇ、まあ僕らマトリョーシカは舌を噛み切っても死なないしまた生えるけど……ぉっ!」
鋭い上段蹴り。
まだクローディアが話していてもお構い無しに繰り出されたホムラの攻撃は、ユラリと佇んでいた姿勢から上半身を斜め下にスライドさせ、伸脚のような姿勢でかわされる。
意表を突かれたかのようだったが、その動作はただの回避だけでは終わらない。
「……!」
クローディアが身体を退けた、もともとはその背後であった宙に、白い三角錐形の物体が浮かんでいる。
大きさは三センチ程度だが、ホムラが上段蹴りを空振りした瞬間、その先端部分が光線を放ち、カウンターを繰り出した。
それが何であるのかという認識さえ覚束無かったが、破鎧を纏った腕でガードすることを反射的に選んだ。
結果として無傷であったものの、その攻撃力は高く感じた。
「僕の背後でチャージさせてたやつだから、ちょっとくらい痛かった? その破鎧って技もなかなか……だ! ……ね!」
屈んでいる体勢のクローディアを蹴り飛ばそうと豪快な蹴り上げを繰り出したホムラ。
それに対し、クローディアの取った方法はタックルという意外なものだった。
攻撃を見切ることに関して秀でるゼネラルだが、体術における技術や能力は冥界勢に分がある。
直接的な武器を持っていない今のクローディアは基本的に防御が出来ず、かといってこのような姿勢からほぼゼロ距離で繰り出された高速の蹴りを完全に回避しきるには更に無理な姿勢への移行を余儀なくされる。
その場合次の攻撃は恐らく避けることすら儘ならない。
故に蹴りを完全に見切った上でのタックルで相手の姿勢を崩すことを選んだ。
無論かなりのリスクを伴う選択だ。
懐に潜ることでホムラの得意とする足技は封じやすいが、それ以外の体術となればやはり分が悪い。
だが体勢を崩すことで一瞬の隙が作れればそれだけで十分だとクローディアは考えていた。
「くっ!」
一切の迷いのない動きで、蹴りを繰り出す片方の足をかわし、軸足側の半身へ体当たりを仕掛けた。
クローディアの目論見どおり、ホムラは意表を突かれ体勢を崩す。
「……だが!」
逆にそれを好機とも捉えたホムラは両手に黒纏を宿し、肉弾戦で迎え撃とうとした。
その矢先、三方から光線が飛来する。
ウケケと変な笑い方をしつつ、ポンっと掌でホムラの胸を押し、身体を引き離しつつ後ろへ飛び退いたクローディア。
そこへ側面と背後の三方向から迫り来る光線。それを避けようとホムラは身を屈めるが、
「無駄無駄」
言ってクローディアが人差し指でスッとホムラを指すと、直線だった光線が折れ曲がり、屈んだ姿勢のホムラに収束する。
「ちっ!」
止むを得ず、直撃する寸前で高く飛び上がる。
突然標的を失った光線同士がそのまま地面に衝突するかのように思われたが、クローディアが一指し指の先を上へヒョイと向けると、地面すれすれで光線達が直角に折れ曲がり、ホムラに向って急上昇する。
「止めるしかないか」
焦翼で一旦浮き上がり、下方へ向かって急降下。
三本の光線が一直線に並んだ所を、踵落としで一気に切り払う。
黒い斬撃に閃光を散らして爆ぜる三本の光線。
光線による攻撃は地面から飛び出して来たものが初めてだったが、今回は追尾という厄介な特性を持っているらしい。
「ウケケ……『光束子』は、フォトンを圧縮したエネルギー体で、指向性を持たせて放つことで実弾より高い攻撃力を発揮できる。それを扱うには……」
徐に解説を始めたクローディアへ、着地と同時に絶影で飛ぶホムラ。一瞬で間合いを詰めると、右足による上段蹴りを放つが、何故かその足には先程までの刃のついた足鎧の姿はない。
代わりとばかりに纏うは黒纏。
どうやら絶影を使うことで、凝負練刃は消えてしまうらしい。
それでもこのタイミングで絶影を使用したのはクローディアが解説を始め僅かでも隙が出来たことと、あらゆる角度から飛来する追尾型遠距離レーザ攻撃が非常に厄介であるため、接近戦で一気にケリをつけたいからだった。
解説しつつもホムラの挙動には目を光らせているクローディア。
当然だろう、黒纏を纏った蹴りはまともに食らうことの出来る攻撃力を遥かに凌駕しているため、刃があろうと無かろうと、回避に手抜かりなど出来ない。
ゼネラルで軌道を完全に掌握し、身を反らしかわすクローディアの挙動を見てから、ホムラは素早く蹴り足を左足に変え、勢いのある蹴り上げを放った。
身を反らした状態から更に後ろへ低く飛び退くクローディア。
地面と身体が平行になるような飛び方に横回転を加えるというアクロバティックなバックジャンプは、想像以上に距離を稼ぐ。
追撃のためホムラは追い、駆けた。
頭部が森側を向いた状態であるため、ホムラはクローディアの回転する両足を追う形だが、その見えない頭部側からまた光線が放たれていた。
空中で横向きの螺旋を描くようなクローディアの身体に沿うように、二本の光線は彼女の頭から足、耳元を掠め、腕、脇、膝、足先と、順に直線で、かすり傷一つ負わせずにすり抜け、追撃を試みたホムラの眼前に突然飛び出した。
「っ!!」
ダイナミックかつアクロバティックな動きと、精密なレイによる射撃の合わせ技に不意を突かれ、回避も防御もろく出来ずに直撃を受けるホムラ。
左脇腹と右腕を抉られ、その場で膝を突いた。
アクロバティックな後方飛びから片手で一度地面を弾き、バク転の要領で跳ね起きるクローディア。
そして身なりを整えてからまた何事も無かったように解説に戻った。
「レイは僕ら単独の力では変換、操作が出来ない。だからそれを運用するためにはIRGシステムという概念が必要になるんだ。IRGシステムは正式だと『インプルーブメントレイギアシステム』って結構長い名前だから、略式としてみんなIRGシステムって呼んでる。これは簡単に言うと複雑なフォトンの変換や、レイの制御を手伝ってくれる補助プログラムでね、これがないと統括長でもレイが使えないってわけ。んでもって……」
クローディアの得意気な解説を黙って聞いていたホムラが顔を上げる。
(後手に回りすぎだな、このまま奴のペースにハマリ続ければ、私の勝利は難しくなっていく)
白き原型の力『マトリックス』への理解が無いこと、そしてグロリアの影響で能力が強化されていること。
敗因となりそうなものを上げれば、もっともらしい言葉は見つかるが、敗北、という言葉の他に、ホムラの心を強く締め付けるものは無い。
(負けられない、負けたくない。こいつには……というのもあるが、会ったばかりの奴に、手も足も出せず、二度も! 敗北など……喫せるか!)
セツカとの戦いで、何故自分は何も出来なかったのか。
あれからずっと考えている。
戦いの最中の自分と、セツカの姿を何度も、何度も思い返している。
悪夢の中で、胸の内にたぎる黒い叫びが、いつまでも醒めない。
あの時、奴に全ての力をぶつけられていたなら。
「フフフ、そうか、始めからこうしていれば良かったんだ……」
突然全身から黒いオーラを発したかと思うと、次の瞬間そのホムラの姿が消失する。
「あれ?」
クローディアの背後に佇むホムラ。
これまでとは違い、その移動に気付けないでいた。
ゼネラルですら捉えられない絶影。
それにより背後を取ったホムラは、両足に刃を備えた足鎧と、手にもう一つの武器、大剣を同時に凝負する。
「……いつの間に……っていうか、何それ」
この時点でホムラの移動に気が付いたクローディアは振り返り、その光景を目にする。
足先から頭の先、全身から黒いオーラを放ち、見開く双眸は不気味なほど暗く沈んだ漆黒を宿し、その下瞼から溢れて零れた闇の雫は、ホムラの両頬を伝い黒い跡を付ける。
『虚月慟哭』
冥界流の奥義の中でも特別な部類にあるそれは、究極にして最悪の術技だった。
世界に蔓延する負の情念と、己の精神、身体すら構成する情念の境界を取り払い、一体化することで際限なくアタラクシアの力を増幅させる危険な力。
それを解放したホムラは一時的に全ての術技が極みに到達し、身体能力も大幅に向上している。
だが当然そのリスクも桁違いで、短時間しか開放できない上、一度開放するだけで数日は身動きが出来なくなってしまう。
たとえこの力によって勝利を手にしても、数日は侍女マトリョーシカとして役目を果たせないという醜態を晒すことになる。
それでも猶、ホムラは惨めな敗北を切り捨てることを選んだ。
ほぼノーモーションで大剣を振り下ろしたその一撃を、辛うじて後ろへ飛び退いてかわすクローディア。
振り下ろす動作すら高速すぎて通常の動体視力などでは追いきれず、空振りした大剣は地面を派手に破壊した。
「危なっ! 急に奥の手っぽいの出さないでよぉ」
「そいつはすまなかったな」
「……!」
またも絶影。
声が聞こえるまでその姿は捉えられず、そして聞こえた途端後ろから大剣が横薙ぎに襲い掛かってきた。
慌てて地面を横に転がり、やり過ごす。
ゼネラルを以ってしても、全く回避に余裕が無い。
「こうなったら……一斉射撃!」
クローディアの声で森の中や上空、更には地面から二十本近い光線が放たれ、一斉にホムラ目掛け飛来する。
ホムラはそれを避けようとも構えようともせず眺めている。
例えば絶影で回避しそのままクローディアの背後へ回って攻撃しても良かったが、ホムラはあえて何もしなかった。いや、正確に言えば何もする必要がない。
何故なら虚月慟哭を発動している間、全身は出力最大の黒纏と破鎧に包まれ、完全無欠の防御能力を備えているからだ。
案の定、レイの全弾直撃を無傷で凌いだホムラは、ゆっくりと大剣をその場で振り上げ構えた。
「すまないが、これで決着を着けさせて貰う」
「いやいやまだ解説したりないし。このままじゃ僕不完全燃焼だよぉ]
徐に差し出した掌に、それまで散り散りになっていたIRGST・カプリシャスの破片が集まってくる。
『モード・デザイア』
次第に破片は一つの武器を形作ったが、その完成形はハンマーとは違う形状をしていた。
それはクローディアの右手を覆った白い機械仕掛けの手甲から伸びる、『光の剣』と呼ぶに相応しい姿をしていた。
「ねぇ……一分でいいから解説する時間を……」
「行くぞ」
この期に及んでまだ解説しようとするクローディアには構わず、振り上げた大剣に力を込める。
両の手から剣先に向かって炎が走るように黒き浄化の力は灯り、それが密度を濃くする度、空気が振るえ、張り詰めていく。
負の情念の視覚的表れ、黒いオーラを増長させる姿はまるで闇が踊るかのようであり、その中で大剣を振り上げるホムラの姿は最早魔物の如く。
高まりに高まった黒き浄化の力を大剣ごと振り下ろした。
『斬空・葬波』
押し寄せる黒き力の奔流は、これまでにない広範囲攻撃となってクローディアの眼前を埋め尽くした。
上空へ避難するという最善策は、それそのものの速度もさることながら、距離が近すぎるためこの場から離脱するには時間が足りないという結論の元に除外された。
残されたのは選択肢とも言えない反射的な手段、『IRGST・カプリシャス・モード・デザイア』による防御か相殺かの二者択一。
「ウケケ……」
はっきり言ってどちらを選んでも結果は変わらないだろう。直感的にそう感じたクローディアは楽観的に答えを出した。
「どうせならかっこよくいこうか……『シャイニングモーメント』」
振るわれた剣は強い光を発し、前方に三日月状のレイを放った。さながら飛ぶ斬撃にして、切り離された刃のようなそれは、黒き浄化の奔流に一瞬抗いはしたものの、直ぐに敗れてかき消されてしまう。
そしてクローディアの全身を闇が呑み込んで行った。
「はぁ……はぁ……」
冥界流奥義、斬空を放った直後、虚月慟哭が尽き、その代償がホムラの全身から力という力を枯渇させようとしていた。
二種の練刃を失い、焦翼を毟られ、力なく両膝を突いて今にも意識を手放しかけている。
その中で声を聞く。
「……きっつい……なぁ」
ホムラと同じように両膝を突き、肩で息をするクローディア。
IRGSTは形も残らず服はボロボロ。
全身も傷だらけでまだ意識を保っているのが不思議なくらいだった。
「くそ……仕留め切れなかったか……」
「……物騒なんだなぁ……そっちの勝ちは明白なんだし、それでいいじゃん……」
両膝を突いた体勢から横に仰向きで倒れ、それを仰ぐ格好になるクローディア。
両者共にもうほとんど身動きがとれない状態だが、クローディアはダメージによるものでホムラは単なる消耗。
勝負の決着としては誰が見てもホムラの勝利だった。
「しかし私はお前を滅ぼす気だった」
「えぇ……酷いなぁ、僕そんなに嫌われてたのぉ?」
「虚月慟哭は心を破壊衝動で満たす。あくまで私の本意ではなかった……が、あまり調子に乗るといつか本気で滅ぼそうとするかもな」
「ウケケ……怖い怖い……」




