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ディーヴァマトリョーシカ  作者: 黒砂シグマ
第二章『記憶の中のディーヴァ』
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第十二幕「ぅがっ!」

「まあ、解説キャラがどうとかはともかく、あなた方の能力は理解しました」


「っは!」


 中空でクローディアの解説を聞いていたトキ。

 ゼネラル敗れたり! そんなニュアンスだったが、オルガは嘲笑気味に一蹴する。


「それがなんだってんだよ? タネが分かった所で、てめぇらみてぇな直接攻撃馬鹿は、俺らに手も触れられやしねぇ……今、分からせてやらぁ!」


 斧を構え、オルガはトキへ強襲をかける。

 確かに、光速で情報を収集するゼネラルによって、こちらの動きがリアルタイムで把握されている以上、攻撃を当てるのも躱すのも難しい。

 攻撃の速度や体捌きでこちらが圧倒的に勝っていれば分からないが、オルガとトキの実力の差はそこまで大きくは無いように思われる。


「死ねコラァ!」


 横薙ぎに振るわれる白き斧。

 その刃がトキの胴部を捉えた。かわせなかったのではない、かわさなかった。


「……!?」


 オルガは直ぐに異変に気付いた。

 当然だろう。

 トキの脇腹を捉えたはずの一撃が、触れた瞬間、切り込むでもめり込むでもなく静止してしまっているのだから。

 トキの身体からは黒いオーラが発生し、あたかもそれが斧を食い止めているかのようだった。


 それは『破鎧はがい』という、冥界流唯一の防御術だった。

 アタラクシアの持つ攻撃性を利用し、体内から外へ向けてアタラクシアを局所的に放射。攻撃による攻撃の相殺そうさいを主とした、正しく『攻撃は最大の防御』を体現する。

 外見は黒色の防護皮膜といった風で、それが攻撃を防ぐ原理ではカウンターと言えなくもないが、性質上どちらかと言えば相手の攻撃を弾いてやり過ごすパリングに近い。


 ちなみにアタラクシアを身に纏い扱うもう一つの術技、『黒纏』よりも遥かに高度な術技である。

 難儀なのが消耗と出力のバランス。

 アタラクシアは言わば強力な馬力を誇るエンジンそのものだが、そのエンジンを駆動させるエネルギーは術者当人及び、周囲の負の情念をかき集め賄う。

 破鎧の場合体内から放出する割合が多く、燃費が極めて悪い。

 そのため絶影のような大技クラスの消耗をあっという間に凌駕する。

 故に冥界流は常にこれを万が一の保険として扱い、基本的には攻撃を食らわないよう努めている。


「確かに、冥界流のセオリー通りに戦うだけでは勝つのは難しい。なのでここからは出し惜しみは無しです」


 言いつつ、片方の短剣を投げ捨て、片手をフリーにする。

 そして自分のわき腹の辺りに集約した黒いオーラ、破鎧に進行を阻まれた白き斧の刃先をその手でガシリと掴んだ。

 斧を自由に振るわせないためだったが、相手が相手なだけにそう上手くはいかない。


 掴まれた斧を放し、瞬時にフォトンを収束させ、再び斧を形成するオルガ。


「馬鹿が!」


 罵声と共に切りかかる。

 迫る白斧を前に、トキはもう回避の動作をしない。

 取った行動は先程の斧を投げ捨て、今向かってくる二本目の斧を腕で払うというもの。

 普通なら当然腕の方が吹き飛ぶが、結果は逆。

 トキの腕に触れた斧の方が弾け飛んでしまった。


「うおっ!?」


 高出力の破鎧はがいはもはや身を守るだけに止まらず、攻撃を弾き返す。

 怯んだところへすかさず切り込むトキ。


「ちぃっ!」


 いくら攻撃を完全に見切る能力を持っていたとしても、体制の整わない状態では綺麗に避けきることは出来なくなる。

 咄嗟とっさに短剣による切込みを平手打ちで弾いて捌くしか無かった。

 そこへ畳み掛けるように間合いを詰め、オルガの胸ぐらを一気に掴むトキ。

 抵抗させる間も与えず、懐に潜り込み、低い姿勢からオルガの腹部へ膝打ちを叩き込む。


「ぐふっ!」


 片手で胸ぐらを掴んだまま一旦体を離し、すぐさま引き寄せ軽く飛び上がる。二発目の膝蹴りがオルガの顔面にクリーンヒットした。


「ぅがっ!」


 膝蹴りの際トキから解放されたオルガの体は背中から地面に着地し、そのまま反動で三メートルくらいズザザと滑走してようやく止まった。

 仰向けのまま数秒沈黙して起き上がる。

 ブロンドの髪をかき上げ、ギロリと睨みつけた。


「……ブッ殺すっ!!」


 片掌を何も無い空間へ翳す。

 そこへ光が収束し、再びマトリックスが武器を形成し始めているように見えた。

 蹴り飛ばされた際に失った斧の代わりを構築しているのだと思われるが、それまで見せてきた白き原型の力とは何かが違っているように見える。

 光の収束する量や大きさが増加し、何より形成にこれまでの数倍の時間を掛けているようだ。

 最中、オルガは何事かを呟き始める。


「……IRGアーグシステム起動……モード確定……エントロピー正常……粒子収束率上限解放シークエンス……ドライ……ツヴァイ……アインス! IDイド機構搭載型外装形成シークエンスへ最終移行!」


 十秒ほどかけて収束し続けたフォトンがようやく、物質化し、武器の姿を現した。


「完全成形『IRGSTアーグスト・アロガンティア』」


 それはそれまで振り回していたものと同じ斧の形状をしていたが、一回り大きくなったのと複雑な機構が組み込まれていることが外観からでも分かるほど、メカニカルなデザインに様変わりしていた。


「……待たせたなぁ」


 重量の増加が感じられない、軽々とした動作で斧を構える。

 そして高く飛び上がった。純粋な跳躍ではなく、光の翼『光子翼ゼネラル』の飛翔能力を駆使しての大ジャンプだった。


「……行くぜ」


 両手で握る斧を振り上げ、急降下。機械仕掛けとなった白斧『IRGSTアーグスト・アロガンティア』はオルガの攻撃動作に呼応するようにチュイインと作動音を発し、振り下ろすのに合わせ強烈な白色のスパークを放った。


 真上からまっすぐ落下してくるその斧を、トキは破鎧を纏った片掌と短剣の両方で受け止める。


「うっ……!」


 ところが、受け止めて直ぐ、身を引き、地面を転がるようにして離脱してしまうトキ。


(危なかった……破鎧が打ち砕かれる所でした……)


 破鎧はアタラクシアの攻撃力を防御力として利用するもの。

 それが破られそうになったということはつまり、瞬間的にアタラクシアがマトリックスに攻撃力で負けたことを意味していた。

 術者によって術技の性能に差異が生じることを差し引いても、この『IRGSTアーグスト・アロガンティア』という兵器の潜在能力は驚異的と言えた。


 地面に着地したオルガは、そんな機械仕掛けの斧を担ぎ、不満げにトキの姿を見つめた。


「てめぇ、出し惜しみとかなんとか言っておきながらその程度かよ?」


 見るとトキの握る短剣には深々と刃こぼれが見受けられ、転がった際に衣服も少し傷つけてしまった。

 その風貌は満身創痍とまではいかなくとも、確実に追い詰められているように見えた。




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