序幕
嗚呼
死して人は何処へ行く
朽ちて心は何処へ行く
輪廻巡るは誰のため
堕ちて腐るは我侭に
三つ数えて意味もなく
四つ数えりゃ累々と
柵に溺れ
後悔に汚れ
狂った心に命を添えながら
必死に抱くは
もう届くはずもない泡沫の夢
だが見える……
尽きかけた想いの底で
垣間見たのはあの世の影か
嗚呼重い
倒れ逝くこの体よりも何よりも
ただ……
命の重さに耐えかねて……
そこは、冥界の住人たちが暮らす森。
凄絶な星月を仰いで、暗く不気味な森は地平線まで広がる。
唯一それ以外と呼べるのは千迎樹と名のついた天を貫くほど巨大な大木が一つだけという、殺風景な世界だった。
暮らしているのは、黒い衣装を身に纏った『マトリョーシカ』と呼ばれる少女たちだ。
彼女たちの仕事は、この広大な森の中から黒い色の果実『黒死』を探して摘み、千迎樹へ運ぶこと。
そこには、この世界の長『ディーヴァ』が居た。
彼女はこの冥界で唯一、黒死を食らう。
それは空腹を満たすためでも、ましてや、楽しむためでもない。
ただ、役割として彼女は黒死を食らう。
この冥界における彼女たちの役割は浄化である。
死した、特に人の魂は多かれ少なかれ負の情念という魂の輪廻に悪影響を及ぼすエネルギーを帯びている。それ故、全ての死した魂はまずこの冥界へ送られてくる。
冥界全土に分布する黒色の木々、名を『月性樹』と言う。
この木にはある特性が備わっていた。そこにあるだけで、常に周囲の負の情念を取り込んで浄化しつつ、時折、情念の塊である黒死を実らせる、というものだ。
この月性樹の特性により死した魂の浄化はおおよそ賄えているが、問題は果実の方にあった。
負の情念から生まれた黒死は、冥界という魂の集う特殊な環境の影響を受け続けることで、魔物へと昇華してしまうのである。
魔物は月性樹の機能を損なわせる他、マトリョーシカ達にも危害を及ぼすため、魔物への対処と森の管理こそ、冥界の住人に課せられた重要な使命だった。