おじいさん
…ざわざわ
…かたかた
おじいさん
さっきから周りの視線を感じる。
わたしは今、池袋駅の地下を速足で進んでいる。
なんだか、一人で歩いていると
自分がひどく孤独な人間に思えてしょうがない。
伏し目がちにさっと人を避けて
絶対にぶつからないようにする。
一種のゲーム感覚だ。
横目で幸せそうな家族やカップルを睨みつけながら
ずかずかと進んでいく。
女としてのプライドはない。
…もはや人間としてのプライドもない。
街に出れば悲劇のヒロインでしかないわたしは、
そう思い込んで周りの視線を感じてるつもり。
なんて馬鹿な女。
つい先日、いつもの様に歩いていると
ふと目に入った光景。
なんと70歳ぐらいのおじいさんが苦しそうにしているではないか。
冷酷な心しか持たないわたしも
そのおじいさんに引き付けられた。
ほんの少し残っていた人間の心が
そうさせたのだろう。
わたしはそのおじいさんに
駆け寄り
「大丈夫ですか?」
と、声をかけた。
「大丈夫です。少し疲れただけ。ありがとうね。」
そうだったんだ…。少し安心した。
…あのおじいさん、
「ありがとう」って
言ってくれた。
なんか久しぶりに心が満たされた気がした。
あたしが
「ありがとう」なんて言われて
いいのかな。
あたしはただいつもと違うある意味新鮮な光景に
興味を示しただけ。
それなのに
「ありがとう」って…。
人間の心は言葉によって満たされたり
解放されたりする。
幸せそうな家族やカップルが羨ましいなら
声に出して認めちゃえばいいのよ。
そうすれば、心は満たされて
人混みだって暗闇だって
一人でも前を向いて歩いて行ける。
前を向いて歩けるぐらい強くなったら
今度はわたしが誰かに
「ありがとう」を届ける。
もう悲劇のヒロインは卒業しよう。
End
ありがとうございました。へぼですが、これからも努力していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。