エピソード3 真希 (前編)
タカさんたちの五人グループは、学校の太陽みたいな存在だった。
休み時間になると、校庭の一番目立つベンチはいつも彼らの定位置。
遠くにいてもすぐにわかる大きな声と、突き抜けるような笑い声が、校舎の隅々まで響いていた。
私にとっては、1つ年上の先輩たち。
少し怖くて、近寄りがたい。
けれど、自由で楽しそうなその姿に、心のどこかでずっと憧れていた。
タカさんは、留年した。
気づけば、私と同じ学年にいた。
先輩なのか同級生なのか、立場は少し曖昧になったけれど、彼を包む空気は変わらなかった。
相変わらず、気づけば誰かの中心にいる、そんな人。
私はもともと一つ下だったから、自然とそのまま「タカさん」と呼び続けていた。
でも、聡美さんと別れてからのタカさんは、どこか少し変だった。
学校に来ない日があからさまに増えて、たまに来ても、いつも眠そうに目をこすっている。
話すことといえば、新しいバイトの話ばかり。
それでも、彼は一人でいることだけはやめなかった。寂しさを紛らわせるように、誰かと笑い、誰かとつるんでいた。
なぜか、私と愛莉、そしてタカさんの三人で行動することが増えた。
授業の席も、ランチのテーブルも、いつの間にかそれが定位置になっていた。
私も愛莉も、学校の外に彼氏がいたから、タカさんに対して変な緊張感を持つことはなかった。
タカさんは、昨日の恋愛相談から、今朝ナンパした女の子の話まで、何でも包み隠さず話してくれた。
でも、聡美さんの名前だけは、一度も出さなかった。
あえて避けているというより、触れることすらできないみたいに。言葉には出さないけれど、彼の中に空いた穴がまだ塞がっていないことは、見ていれば分かった。
タカさんは、恋をするときはいつも本気だ。
全力でぶつかるからこそ、終わったあとの傷も、ひどく深い。
その穴を必死に埋めるみたいに、彼は次から次へと女の子と遊んでいた。
傍から見れば、ただの「軽い人」に見えるかもしれない。
でも、その軽さは、重すぎる悲しみを誤魔化すためのものだ。
私は少しだけ距離を置いて、そんなタカさんの危うさを、静かに見守っていた。
冬になると、あの五人グループがスキー・スノーボードのツアーを企画するのが恒例だった。
バスを一台丸ごと借り切って、先輩も後輩も入り混じって雪山へ向かう、学校公認のようなビッグイベント。
学校の中心にいる彼らが動けば、自然と人は集まる。
その年は私も愛莉も、迷うことなく参加メンバーに名前を連ねていた。
昼間はそれぞれ思い思いに滑り、夕方の集合時間になった。
けれど、何人かが戻ってきていない。その中に、美波がいた。
今みたいに携帯電話なんてない時代。
はぐれたら最後、連絡を取る手段はどこにもない。
空は刻一刻と薄暗くなり、刺すような冷気がゲレンデを包み込んでいく。
さっきまでの浮かれた空気は、一瞬にして凍りついた。
そのとき、タカさんが口を開いた。
「一旦、みんなは宿に戻ろう。……オレらで探してくる」
“オレら”というのは、もちろんあの五人グループのこと。
その言葉に、一ミリの迷いもなかった。
混乱するみんなを宿へと促すと、タカさんたちはボードを担ぎ直し、再び夜の気配が迫るゲレンデへと向かっていった。
遠ざかっていくその背中は、いつものふざけた雰囲気とは、まるで別人だった。
普段はどれだけ軽く見えても、ここぞという本気の場面では、絶対に迷わない。
「あぁ、この人は、こういう時にこそ真ん中に立つ人なんだ」
心からそう思った。
そして私は、たぶんその瞬間に予感していた。
ここから、私たちの何かが決定的に変わってしまうことを。




