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僕はこうしてつくられた  作者: rion_so_so


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エピソード5 智代(中編)レッツゴー雪山①

次のスノボの話が出たとき、タカが私に聞いた。


「昌も誘う?」


その聞き方が、もう自分の中では答えが決まっているような顔だったから、私は少しだけ意地悪く返した。

「……真子と美穂子も来るんやろ?」


タカは、にかっと笑う。

「来るで。あいつら、雪山で暴れる気満々や」


真子と美穂子。

二十歳のサーファー仲間。小柄で、いつも二人セットで動いている、超元気なギャル二人組。

あの子たちは、隠そうともせずにタカに甘える。


「たーくん、これ持ってー♡」

「たーくん、次どこ行くー?」


タカはと言えば、いつもの通り。

されるがままに荷物を持ったり、頭を撫でたり。

距離はとんでもなく近いけれど、深入りはさせない。いつもの「みんなのタカ」を演じている。


でも、私は密かに思っている。

真子とは、何かあるはずだ、って。


確証があるわけじゃない。でも、ふとした瞬間の視線の合わせ方や、二人だけの時に流れる空気が、他の子たちとは少しだけ違う。


そんな、ある意味「出来上がっている」空気の中に、あの生真面目で綺麗な昌ちゃんが飛び込んできたら——。


正直、面白いことになりそうやな、と思った。

それと同時に、少しだけ心配で。

……そして、ほんの少しだけ、胸の奥がモヤモヤした。


タカ、あんたどう動くつもりなん?


昌ちゃんのあの真っ直ぐな瞳を、あんたはどう受け止めるん。

真子のあの無邪気な独占欲を、どうやってかわすん。


冬の冷たい空気の中に、少しだけ熱い火種が混じったような気がした。

嵐の予感。

でも、私はやっぱり特等席で、この不器用な恋愛ゲームを眺めていたいと思ってしまう。


出発当日になっても、昌ちゃんからは返事がなかった。

集合場所の三宮で、タカがぽつりと呟いた。


「……たぶん、彼氏ともめてるな」


すべて分かっているような顔。心配そうではあるけれど、どこかその状況を楽しんでいるような、不敵な表情。あいつは、昌ちゃんが葛藤の末にこちら側へ踏み出してくるのを、確信を持って待っている。


結局、タカの読み通りになった。

ヤスが、遠回りして昌ちゃんをピックアップして、栗東パーキングで私たちの車に放り込んだ。


目指すのは岐阜、飛騨流葉スキー場。

私たちのホームゲレンデ。

夜通し走り続けて、まだ空が深い紺色をしている頃に到着した。


スキー場のパーキングには、すでに他の仲間たちの車が何台も並んでいる。

重たいエンジン音と、窓を開けた瞬間に流れ込む刺すような冷気。吐き出す息は、驚くほど真っ白だった。


リフトが動き始めるまで、みんな車の中で仮眠を取る。

寒さに耐えかねて、何人かが日の出を見るために外へ出てきた。

東の空が、ゆっくりと薄明に溶け始めていく。


そのときだった。


「いたいた!」

「たーくんっ!」


若さの塊みたいな声が響いて、真子と美穂子のチビ二人組がタカを見つけて猛ダッシュしてきた。

左右から当然のようにタカの両腕にぶら下がり、体重を預ける。3人とも雪の中に倒れ込む。キュッギシッと新雪の音。


「コーヒー買ってきてや」

タカが苦笑いしながら、小銭を渡す。

「えー、寒いもんー!」

なんて文句を言いながらも、二人はキャッキャと自動販売機の方へ走っていった。


しばらくして戻ってきた彼女たちの手には、人数分の缶コーヒー。

「自販機の前にいた知らん男二人組に買ってもらったー♡」

「ゲレンデで見つけたら声かけてな、って言っといたし!」


適当で、ちゃっかりしていて、でもどこか憎めない可愛さがある。

タカはそれを見て「やるなー!」と喉を鳴らして大笑いしている。本当に、心底楽しそうだ。


私は横で、温かい缶コーヒーを握りしめながら思う。

若いって、すごい。

何も怖くないし、計算もない。ただ、その瞬間の「楽しい」に全力を出せる。


昌ちゃんは、少し離れた場所で静かにその光景を見つめていた。

呆れているのかと思ったら、その表情は意外なほど穏やかで。


「……明るくなってきたね」


ぽつりと、昌ちゃんが言った。

東の空が鮮やかなオレンジに染まり、雪原を照らし始める。

静かな時間。

タカも一瞬だけふざけるのをやめて、真顔になった。

日の出を見つめるその横顔は、いつもの「みんなのタカ」ではなく、少しだけ大人の男の顔をしていた。


それぞれ車に戻って仮眠しようとなったとき、またチビ二人が甘えだした。


「ウチら、たーくんの車がいい!」

「あと二人くらい乗れるやん、乗せてー!」

タカの腕を掴んで離さない。


「無理や無理や、パンパンや。あっち行け」

タカは軽くいなしながら笑う。

距離はとんでもなく近い。けれど、一線は絶対に越えさせない。


昌ちゃんがその様子をどう見ているのか、私は気になって仕方がなかった。

でも、何も聞かない。


タカは、このコミュニティの中心にいる。

みんなを照らす太陽みたいだ。

でも、誰か一人のものになることは、決してない。


雪山の朝の、痛いくらいに澄んだ光の中で、私は思う。

この危うい均衡が、いつまで続くんだろう。

昌ちゃんの静かな覚悟が、この賑やかな「陽だまり」をどう変えていくんだろうか。




この時代、スノーボードはまだ圧倒的な少数派だった。


スキー場を見渡しても、板を横に向けて滑っているのは、私たちだけだった。

リフト待ちをしていると、後ろからスキーヤーたちの話し声が聞こえてくる。


「なあ、あれ何? 雪の上でサーフィンしてるみたいやな」

「……なんか、かっこええな」


振り向くと、知らない人たちが私たちのボードを珍しそうに、じっと見つめている。

私は少しだけ鼻が高くなるような、特権的な優越感に浸っていた。


ヤスと一緒にリフトに乗り込み、一番下の初心者コースを見下ろす。

そこには、色とりどりのウェアがひしめく中で、ひときわ目立つ一団がいた。


「おるおる、あそこや」


ヤスが顎で指した先。タカが、昌ちゃんとチビ二人を囲んで奮闘していた。


「重心前やって! 怖がったら負けやで!」

「エッジ立てろ! 雪を噛む感覚、覚えろ!」


タカの声は、上まで聞こえてきそうなくらい真剣だ。

あいつは相変わらずのお人好し。いや、ただの女好きか。

隣でヤスが呆れたように、でも楽しそうに笑う。


「あいつ、ホンマは今すぐ上まで行って、一人で滑り倒したいはずやのにな」

「せやな。でも、教え出したら止まらんのがタカやから」


それが、タカという男だった。

自分の快楽よりも、まずは目の前の誰かを「こっち側の世界」に引き込むこと。そのために自分の時間を平気で差し出してしまう。


午後の休憩。

各自バラバラでランチを済ませようと、私とヤスが食堂へ向かうと、ようやく板を外したタカたちを見つけた。


「タカ、午後からはコーチ代わってやるわ。昌ちゃん、私が教える」

「ヤスもな。チビらの相手はウチらが引き受けるわ」


私がそう提案すると、タカは一瞬、ほんの一瞬だけ、少し不満そうな顔をした。

思い通りにならない子供みたいな、小さな抵抗。

でもすぐにいつもの笑顔に戻って、肩をすくめる。


「頼むわ。あいつら、俺の言うこと全然聞かんしな」


ヤスは「よっしゃ」とちょっと嬉しそうだ。

タカは一人、リフトの列へと戻っていった。解放された喜び半分、どこか手持ち無沙汰な寂しさ半分といった後ろ姿。


夕方、薄暗くなってきた頃。

各自が思い思いに宿に戻り、ストーブを囲んでいる中、一番最後に帰ってきたのはタカだった。


「ただいまー。いやあ、最後の一本、見せたかったわぁ!」


冷気で真っ赤になった顔に、満足そうな、少年のような笑みを浮かべている。

どうせ私たちが代わったあと、リフトが止まるまで一人で滑り倒していたんだろう。


「タカ、お疲れ。昌ちゃん、かなり滑れるようになったで」


私が声をかけると、タカは「マジで? さすが昌やな」と嬉しそうに頷いた。


ワイワイガヤガヤと夜のロッジ特有の、少し気だるくて温かい空気が流れ始めていた。


夕食を済ませて、温泉で冷えた体を温めたあと、私たちは大部屋に布団を敷き始めた。

並んだ布団、枕投げでも始まりそうな空気。なんだか修学旅行みたいで、少しだけ幼い頃の気分に戻る。


そこで、ちょっとした問題が発覚した。

「あ、布団、三人分足りへんわ」


タカが、テキパキと仕切り始める。

「おまえらカップル組は付き合ってるんやから、一つの布団でくっついて寝ろ。頼むな」

そうやってカップルたちを次々とさばいていく。


「チビ二人は一緒にな」

タカが言うと、真子と美穂子がすかさず声を上げた。

「えー! ウチ、たーくんと一緒がええ!」

「それはないわ! 私やろ、たーくんの隣は!」


いつものじゃれ合い。タカが苦笑いしながら返す。

「じゃあ、おまえらヤスかヒロの布団に入れ」

「嫌や! 絶対触られるもん!」

「二人ともないわー、エロいもん!」


ヤスが食い気味に即答する。

「当たり前やん、もちろん触るで」

ヒロもニヤニヤしながら乗っかる。

「せやな。触りまくるわ」

大部屋に爆笑が響き、チビ二人は「サイテー!」と叫びながら渋々諦めた。


結局、布団の並びは、

昌ちゃん、私、タカ、チビ二人になった。


昌ちゃんは横になると、驚くほどすぐに寝息を立て始めた。

一日中、不慣れなスノーボードで全身に力が入っていたんだろう。本当に疲れていたんだと思う。

タカも、滑り倒した疲れからか、早々に寝入ったようだった。


私はうとうとしながら、暗い天井を眺めていた。

そのとき、暗闇の中に小さな声が落ちた。


「たーくん……」

真子だ。


「ん……」

「寒いから、そっち行っていい?」

「アホか……」


タカの低い、寝ぼけた声。少しの間があって、真子が粘る。

「美穂子がな、布団全部巻き込んで寝てんねん。凍え死ぬ……」

「んー……。……どうぞ」


許可が出た。

私は目を閉じたまま、心の中で苦笑いした。あの子、ほんまにちゃっかりしてる。


翌朝。

眩しい光で目が覚めると、真子は案の定、タカの布団の中に収まっていた。

ぴったりとくっついて、タカの腕を抱えるようにして寝ている。


若いって、本当にすごい。

それを見ていた美穂子が、悔しそうに笑う。

「ちょっと真子! ずるいわ! 今日は私の番やからな!」


またみんなで大爆笑。

タカは寝ぼけ眼をこすりながら、「アホやろ、おまえら……」と呆れたように笑っている。


平和な朝。

少しだけ危ういけれど、毒のない、不思議な平和。


私は思う。

タカは、間違いなくこの輪の中心にいる。

でも、誰か一人の所有物になることは、決してない。

それが彼の最大の魅力で、そして一番厄介なところ。


窓の外では、雪が今日もきれいに光っている。

隣で目を覚ました昌ちゃんが、その光景をどんな思いで見ているのかな、少し心配になった。


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