雨の日
ある高校。
校舎の端のひと気の無い階段に二人の男子生徒がいた。
二人とも階段に腰かけている。
雨がザアザアと降る音が聞こえる。今朝からずっと空は灰色の分厚い雲に覆われ、強い雨が降り続いている。
二人の男子生徒の片方は、天気と同じくらい暗い表情を浮かべていた。ヒロトである。
うつむき、この世の全てに絶望したような顔をしている。今日は大雨なのだが、それと別に彼の上だけ雨雲が立ち込めているかのような雰囲気だ。
「ヒロトー、大丈夫かー?」
ずっとスマートホンを触っていたもう一人の男子生徒――イツキは顔を上げると、あまり心配していなさそうな口調で尋ねた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
ヒロトはホラー映画の怨霊のような声を発する。呪〇の伽〇子的なやつ。
イツキは大きなため息をつくと、スマートフォンをで何かを調べた。
「よかったじゃん、ここはこんな天気だけど、妹ちゃんのところは晴れてそうだぞ」
ヒロトは顔を上げ、ちらりとイツキを見ると、再びうつむく。
「うん……よかった」
イツキは大きなためいきをついた。
「妹ちゃん、林間学校行ってるだけだろ。明日には帰ってくるんだから、そんなに落ち込むなよ」
ヒロトはうつむいたまま小さな声で言う。
「明日……明日って、今日じゃない……」
「お前、今までよく生きてこられたな」
「家に帰っても誰もいない……さみしい」
イツキは首を傾げた。
「おじさんとおばさん居ないのか?」
「うん。お父さんもお母さんも、今日仕事で帰ってこないって」
イツキは少し考えて、ゆっくり口を開く。
「まあ、いいんじゃないか。たまに一人も気楽だろ」
その途端、ヒロトはイツキに抱き着いた。
「やーだーやーだー、いやーだー! せめて妹にはいてほしい! 何もしないでいいから、ご飯も掃除も僕がするから、家にいるだけいてほしい! さみしいよー!」
ヒロトは顔を赤らめながら、力づくでヒロトを引き離す。
「暑いからくっつくな、バカ。耳元で叫ぶな、バカ!」
「だって、だってー」
イツキは今日一番大きなため息をついて、スマートフォンを操作する。
「じゃあ、俺がヒロトの家、行こうか?」
突然のことに、ヒロトは驚きの表情を浮かべた。
「へ、イツキが、家に?」
「ああ、泊まりに行っていいか?」
その時、イツキのスマートフォンにメッセージアプリの通知が来た。
「うん。うちの親もオッケーしてくれた」
ヒロトはまだ驚きつつ、小さくうなずく。
「じゃ、じゃあ、イツキ……家に来て」
「うん。晩飯も作ってやるよ」
「あ、うん。ありがとう。イツキが家来るのって、久しぶりだね」
「ん、ああ、小学校以来か」
外からはザアザアと雨の音がする。
「ね、ねえ、イツキ」
ヒロトは控えめにイツキに目をむける。
「どうせ家来てくれるなら、帰り、久しぶりに一緒に帰らない?」
「いいけど、お前今日部活ないだろ? しばらく待たせるぞ」
「うん、いいよ」
外からはザアザアと雨の音がする。
イツキはゆっくりと口を開いた。
「さてお前、傘忘れたな。朝から雨降ってたのに」
ヒロトは気まずそうに目を伏せた。
イツキはまたため息をつくと、立ち上がってズボンの埃をはらった。
「そろそろチャイム鳴るから、教室戻るぞ」
教室へと歩き出すイツキ。ヒロトも慌てて後を追う。
「俺、傘一本しか持ってきてないから相合傘だぞ」




