メイド服
昼休み。
ある高校の校舎の端っこ、ひと気のない階段に、二人の男子生徒がいた。
階段に腰かけ、ニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべているのがヒロト。
そして、同じく階段に腰かけ、ふてくされたようにスマートフォンを触っているのがイツキ。
ヒロトはチラチラとイツキに目をむけ、すぐにそらす。そして、口元を押さえると、肩を震わせる。笑いをこらえている。
「おい、ヒロト。何か言いたいことあるか?」
イツキは不機嫌そうな表情でヒロトを見た。
「な……何もないよ」
ヒロトはそう言いつつ、明らかに笑いをこらえている。
「ほら、俺たち幼馴染で、友達だろ。言いたいことあったら言ってみろよ」
イツキに促され、ヒロトはゆっくりと口を開く。
「イツキの服……かわいいね」
「うるせー!」
イツキの声が階段に響いた。
「うぅ……なんでこんな格好を……」
イツキは自分のスカートを握りしめた。
紺色のワンピースに、真っ白のエプロン。各所にフリルが縫い付けられており、スカート部分はパニエでふわりと膨らんでいる。全体的にふわふわした印象のメイド服だ。
それを、イツキは身に着けていた。
「で、なんでそんな服なの?」
ヒロトが尋ねると、イツキはゆっくりと話しはじめた。
「今度、文化祭あるじゃん」
「うん」
「うちのクラス、メイド喫茶することになってさ、男子も女子もメイドやることになったんだけど、さっきのLHMで衣装合わせしてたんだ」
「うん」
「それで、このメイド服、俺用に調整終わったから、元の制服に着替えようとしたんだけどさ、内装担当の奴が俺の制服に絵具ぶちまけちゃって。水性だから洗えばとれるだろうけど、学校じゃ洗濯できないし」
「体操服は?」
「今日体育なくて、持ってきてない」
「で、そのままメイド服なんんだ」
ヒロトは少し考えて、にやりと笑みを浮かべた。
「可愛いよ、イ、ツ、キちゃん」
「バ、バカ! 俺は可愛い路線なんて求めてないんだよ!」
ヒロトは床をバンバンと叩いて面白がる。
「可愛い路線がだめならさ、その格好でイケメンなセリフ言ってみてよ」
「な、なんでだよ」
「だって面白そうだもん。ほらほら、やってみて」
ヒロトは悪い笑顔を浮かべながらイツキに顔を近づける。
「え、えっと、イケメンなセリフって何言ったらいいんだよ」
ヒロトは少し考える。
「あ、じゃあ、僕が女の子だとして、その彼氏の感じで」
「え、えぇっと……」
イツキは真っすぐにヒロトを見つめる。そして、指先でそっとヒロトの前髪を撫でた。
「髪に落ち葉ついてるぜ。せっかく今日の髪型かわいいのに、台無しだ」
沈黙。
次の瞬間、階段にヒロトの笑い声が響いた。
「めっちゃ真剣な顔で……、真剣に言ってるのに……、服がメイド服」
ヒロトは大爆笑しながら床をバンバンと叩く。
「わ、笑うな」
「いや、イツキって顔がいいから余計に面白すぎるって。他にも何か言ってよ」
イツキは少し考えると、顔を赤くしながら次のセリフを口にした。
「文化祭の後、体育館の裏に来てくれ。言いたいこと、あるんだ。誰にも気づかれないように」
またしてもヒロトは大爆笑。イツキは顔を赤くしてうつむくが、ふと、何かに気付く。
「ヒロト、そんなに面白いなら、とっておきのヤツやってやる。そこの壁のところまで行け」
ヒロトは言われた通り、立ち上がって壁の前に立つ。
イツキはヒロトの前まで移動すると、壁に両手を手をついて、ヒロトの逃げ道を奪った。そう。いわゆる壁ドンである。
「ヒロト。俺たち幼馴染でさ、ずっと一緒だったよな」
イツキの表情。それは演技とは思えないほど真剣なものだった。先ほどまで笑っていたヒロトも、思わず真剣な表情になった。
「我慢しようと思ったけど、もう限界なんだ」
ヒロトは唾をのむ。
「もしかしたら、お前は嫌かもしれないけど、聞いてくれ」
イツキはヒロトの耳元に口を近づけると、囁くように言った。
「体操服、貸してくれ」
ヒロトは勢いに押されてうなずいた。
「あ、うん。うちのクラス、体育あったから、もってくるね」
ヒロトはイツキの腕の下をすり抜けると、教室へ小走りでむかった。その顔がわずかに赤くなっていたことに、イツキは気が付かなかった。
午後。
イツキはヒロトの体操服を着て授業に参加した。
体育で使い、ヒロトの汗をたっぷり吸った体操服。その匂いが気になり、イツキが全く授業に集中できていなかったのは別の話。




