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着ボイス

 昼休み。

 校舎の隅、ひと気の無い階段に二人の男子生徒がいた。

 両方とも階段に腰かけている。

 ぼんやりと天井を見上げているのはヒロト。

 一方、スマートフォンを操作しているのが、イツキである。

「ねえ、イツキ」

 ヒロトが声をかけると、イツキは画面から顔を上げた。

「なんだ?」

「さっき岡本先生が言ってたんだけどね、ガラケーの頃は着ボイスってのがあったらしい」

 イツキは天井を見上げる。

「あー、聞いたことあるわ。着信を声で知らせてくれるってやつだろ。『電話だよ』とか『メールだよ』みたいな感じで」

 ヒロトはうなずく。

「そうそう。岡本先生、当時好きだったアイドルの声を着ボイスにしてたんだって」

「んで、それがどうしたんだ? 妹ちゃんの声、着ボイスにしたいとか言い出すんじゃないだろうな」

 すると、イツキはヒロトに顔を近づける。

「そう、それなんだよ。妹の声録音して、着ボイスにしたい!」

 ヒロトはイツキの顔を掴み、引き離す。

「好きにすればいいだろ。妹ちゃんなら、いくらでも録音させてくれるだろ」

「できないよ、そんなこと!」

「なんでだよ」

 ヒロトはうつむき、もじもじと指先をからませる。

「だって……恥ずかしいじゃん。妹に声吹き込んでって頼むの。ってか、妹の声を着ボイスって、僕がシスコンみたいじゃん」

「シスコンだろ! お前は!」

 イツキは面倒くさそうに息を吐く。

「じゃあ、俺が妹ちゃんに頼んどくよ。むこうの学校も今は昼休みだろ」

 イツキはスマートフォンを操作してメッセージアプリを開くと、ヒロトの妹を選び、メッセージを打ち始める。

「ちょ、ちょっと待って。イツキ、なんで妹の連絡先知ってるの!」

 ヒロトは慌てた様子でイツキを止めようとするが、

「この前、道で偶然会って『お兄ちゃんのことで困ったことがあったら、遠慮なく私に言ってね』って、妹ちゃんの方から教えてくれた」

 イツキは送信ボタンを押した。

 そして、3秒ほどで返信が来た。

「返信はっや。えっと、『なんのボイスがいいか訊いて』だってさ。ヒロト、何て言ってほしいんだ?」

 ヒロトはもじもじとしながら、うつむき小さな声で言う。

「じゃ、じゃあ、えっと……『メールだよ』って」

 イツキはそれを打ち込んで送信する。

 すると、またしてもすぐに返信が来た。

「それだけでいいのか? 他にはないのか? だって」

「じゃ、じゃあ、『電話だよ』も」

「他には?」

「え、えっと……」

 結局、昼休みが終わるまでヒロトはリクエストをし続けた。


 次の日の昼休み。

 イツキとヒロトはいつもの階段にいた。

 今日のヒロトは朝から機嫌がよく、ずっとニコニコしている。

「ねえ、イツキ。俺に電話かけてみてよ」

 ヒロトはそんなことを言った。

 イツキは面倒くさそうにしつつも、スマートフォンを操作してヒロトに電話をかける。すると、

『お兄ちゃん、電話だよ。お兄ちゃん、電話だよ』

 ヒロトのポケットから、声が聞こえはじめた。ヒロトの妹の声だ。

「はいはーい」

 ヒロトはポケットからスマートフォンを取り出す。妹の声はそこから鳴っていた。ボタンを押して、音声を止める。

「録音させてもらえたのか。よかったじゃないか」

 イツキが言うと、ヒロトははっきりとうなずいた。

 ヒロトは自分のスマートフォンに目をむけた。そこには、ヒロトの妹からメッセージが届いていた。

『昨日は取り次いでくれてありがとう。お兄ちゃん、ちゃんと私の声使ってくれてるかな? 使ってくれてると、とっても嬉しいな。今度こっそり、お兄ちゃんの声録音して送ろうか?』

 イツキは即座に『そんなのいらん』とメッセージを打ち込むが、送信ボタンを押す前に指が止まった。

「でさ、こんなのも録音させてもらえたんだ」

 イツキの様子に気が付かないヒロトは、自身のスマートフォンを操作して音声を流す。

『お兄ちゃん、朝だよ、起きて』

 それを聞いたイツキの眉が、ピクリと動いた。打ち込んだメッセージを送信しようとするが、再び直前で指が止まる。

「どうしたの? イツキ」

 ヒロトはイツキの様子に気付いた。

「い、いや。なんでもない。ちょっと悩み事だ」

「大丈夫? 僕に出来ることある?」

 ヒロトはイツキのすぐ横、腕が当たりそうな距離に移動してきた。

「だ、大丈夫。大丈夫だから」

 イツキは慌ててスマートフォンを隠した。

「そう。ならいいけど、何かあったら何でも相談してよ」

「あ、ああ。そうするよ」

 動揺するイツキを、ヒロトは不思議そうに見つめていた。

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