表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

キス

 昼休み。

 校舎の隅、ひと気の無い階段に二人の男子生徒がいた。

 両方とも階段に腰かけている。

 母親が作った弁当を膝の上に乗せて、ゆっくりと食べているのがヒロト。

 一方、スマートフォンを操作しながら、コンビニで買ったサンドイッチを頬張っているのがイツキである。

「ねえ、イツキ」

「ん?」

 ヒロトが呼びかけると、イツキはスマートフォンの画面を見たまま返事をする。

「僕、さっき見ちゃったんだよ」

「何を?」

「いや、二時間と三時間目の間にちょっとトイレ行ってたの。そしたら教室に戻る途中、見ちゃったんだよ」

 イツキは画面から顔を上げた。

「だから、何を見たか言えよ」

 ヒロトは詳しく説明をはじめる。

「空き教室でさ、同じクラスの吉岡くんと、三組の藤本さんがキスしてたんだよ」

 イツキは興味を失ったように、スマートフォンの画面に視線を戻した。

「その二人って付き合ってるらしいじゃん。別にいいだろ」

 すると、ヒロトはイツキに顔を近づけた。

「いや、キスすること自体は別にいいんだけど、キスって何かなって、ふと思って」

「何かとは?」

「冷静に考えてみたら、ただ単に唇くっつけてるだけじゃん。何であんな特別なことみたいになってるんだろって」

 ヒロトは膝の上に置いていた弁当を横によけると、おもむろにイツキの肩に手を回した。

「ねえ、イツキ。僕とこうやって肩組むの嫌?」

「いや、別にいやじゃ……」

「じゃあ、嫌いな人と肩組むのは?」

「それは……あんまりやりたくないな」

 ヒロトは得意げにうなずく。

「だろ。じゃあ、俺とキスできるか?」

 その途端、ヒロトは顔を真っ赤にしながらイツキを突き飛ばした。

「お、おまっ、何を言い出して……お前とキス……キスなんて……」

 ヒロトは大勢を立て直しながら話を続ける。

「動揺しすぎだよ、イツキ」

「お、お前が変なこと言うからだろ!」

 ヒロトは一度咳払いした。

「まあでも、そういうことだよ。肩組むよりキスの方が接触面積は小さいはずなのに、肩組める相手とでもキスはできないんだよ。これって不思議じゃない?」

「まあ、男同士だから……」

 イツキが言うと、ヒロトはブンブンと首を横に振った。

「いやいやいや。仲のいい女の子とだって、必ずしもキスしたい訳じゃないって。僕だって、妹とキスしたいって思ったことないもん」

 その途端、イツキは驚きの表情を浮かべた。

「お、お前、そうなのか?」

「嫌だよ。イチカ、僕の妹のことなんだと思ってるの。妹は妹だよ」

「いや、ちょっと意外だったから:

 ヒロトはしごく当然のように、真顔でうなずく。

「何言ってるんだ。妹は家族だよ。絶対無理。イツキだって、お母さんガチなキスは嫌でしょ」

 イツキは「まあ、そうだけど」とつぶやいてから、考え込むように、天井を見上げた。

「なあ、ヒロト。答えたくなかったらそれでいいんだけど、妹ちゃんと何歳まで一緒にお風呂入ってた?」

「今でも時間が合えば一緒に入ってるぞよ。それがどうかした?」

「じゃあさ、妹ちゃんの肌着、頼まれたら洗えるか?」

「うん。部活のユニフォーム洗濯機に入れるとき『一緒に洗って』って、下着渡してくるから、洗って干してるよ」

「じゃあ、妹ちゃんとキスは?」

「無い無い無い。ぜっっったい無い。妹は妹であって、カノジョじゃないもん」

 イツキの脳裏に、数日前の景色が浮かぶ。

 ヒロトの妹ちゃんが作ったというお弁当には、桜でんぶで大きなハートマークが描かれていた。

「お前ら兄妹もいろいろ複雑なんだな」

 イツキはつぶやいた。

(うち)もいたって普通の兄妹だよ。どこの兄妹もこんな感じ」

 ヒロトは得意げに言った。

 それに対し、すかさずイツキは突っ込む。

「いや、それは無い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ