工事
ガガガガガ。
冬休みのある日、とある高校。
ドドドドド。
校舎のすみっこの、ひと気のない階段。
バコン! バコン!
そこに、二人の男子生徒がいた。二人とも階段に腰かけている。
ドカン、ドカン!
「音、ヤバいな!」
片方の男子生徒が大声で叫んだ。こちらの生徒がイツキ。
「え、何? 聞こえない!」
もう一人が叫び返す。こちらの生徒はヒロト。
「工事の音、めちゃくちゃヤバいな!」
イツキは先ほどよりもさらに声を張り上げた。
そう。今日の校舎内には工事の音が鳴り響いているのだ。校舎全体がグラグラと揺れるほどの轟音だ。
イツキとヒロト。二人は隣り合って座っているのに、その距離ですら声が届かない。
「――――」
イツキは何かを叫ぶが、かき消されて全く聞こえない。
「――」
それに対して、ヒロトも何か言うが、やはり全く聞こえない。
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
しばらくの間、お互いに聞こえない言葉の応酬を繰り返す。そして、ついにイツキは苛立った様子でスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリを立ち上げ、文章を打ち込む。
送信ボタンを押すと、ヒロトのポケットでスマートフォンがバイブした。
取り出して画面を見てみると、イツキからのメッセージがあった。
『暖房の修理だろ? なんでこんなにうるさいんだ』
ヒロトは苦笑いを浮かべると、返信を入力する。
『なんか、電気関係の故障で暖房が使えなかったらしいね。大工事になるらしい』
すると、イツキもさらに返信を打ち込む。イツキとヒロト、二人横並びでメッセージアプリを使って会話する。
『まあ、冬休みだし、俺たち部活で来てるだけだからな。暖房が使えないよりはマシか』
イツキが送信すると、ヒロトはうなずいてからメッセージを打ち込む。
『イツキは寒いの苦手だもんね。新学期からはちゃんと暖房使えるらしいよ』
『ありがたい』
ドドドド。
ガガガガ。
工事の音が響く。
『新学期といえば、年明けに公開の新作映画、優待券二枚もらったんだ。一緒に行こうよ』
やがて、ヒロトがメッセージを送信した。
『何の映画?』
『恋愛映画。最近テレビでよく広告してるやつ』
イツキは呆れたようにため息をついた。
『なんで俺なんだ? そういうのは彼女とデートで行くもんだろ』
『僕、彼女いないもん。知ってるでしょ』
『妹ちゃんは?』
ヒロトは首を左右に振り、メッセージを打ち込む。
『恋愛映画は興味ないみたい。妹はアクションと、スプラッターが好きだよ。家のリビングでよく見てる。血しぶきが飛びまくるようなやつ』
『へ~、意外だ。妹ちゃん、そういうの好きなんだ』
『まあ、そういうことだから、映画はイツキと見に行こうと思って。イツキって恋愛映画好き?』
イツキは天井を見上げて少し考える。
『嫌いじゃないかな』
すると、ヒロトはイツキに笑いかけた。
『じゃあ、今回は僕とだけど、今度は好きな人とデートで行けるといいね』
イツキはヒロトから目をそらす。
ドドドド。
ガガガガ。
響く工事の音。
「俺が好きなのは……」
イツキはゆっくりと口を開いた。メッセージアプリではない。実際に口から言葉を発する。
つぶやくように。小さな声で。
「俺が好きなのは、お前だよ。ヒロト」
それと同時に、工事の音が止んだ。作業が終わったのか、あるいは他の理由か。とにかく、あれだけうるさかった工事の音がピタリと止んだ。
そして、一気に静かになる校舎内。
「イツキ……それって……」
ヒロトは困惑の表情をむけた。
一方、イツキはうつむいたまま、顔を真っ赤にしている。スマートフォンを握る手が震えている。
「ごめん……用事思い出した。先帰るわ」
イツキは立ち上がると、足早にその場を去る。
「あ、ちょっと……」
ヒロトは追いかけようとしたが、あっという間にイツキの背中は見えなくなった。




