マフラー
昨夜から降り続く雪で、この街全体が白く染められていた。
高校も例外ではなく、グラウンドは白く染まり、生徒たちは皆、寒さに身を縮めていた。
休み時間、校舎の端っこのひと気のない階段に、二人の男子がいた。
二人とも階段に腰かけている。
コートを着ているものの、寒そうに凍えているのがイツキ。
その横で、コートを着て、首に巻いたマフラーに鼻までうずめているのがヒロト。機嫌よさそうに鼻歌を歌っている。
イツキは大きなくしゃみをした。
「いくらなんでも、寒すぎる!」
イツキは叫んだ。吐く息が白い。
「まあ、冬だからね」
ヒロトはマフラーに埋まっている口でもごもごと言った。
「いや、二週間前まで真夏みたいに暑かっただろ!」
イツキは叫んだ。
「じゃあ、教室戻る?」
ヒロトが尋ねる。
「教室だって寒いっ!」
イツキはすかさず言い返した。
「まあ、暖房壊れてるもんね」
ヒロトはあまり危機感を感じていないようだ。
「おかしいだろ。全部の教室の暖房が一斉に壊れるなんて!」
階段にイツキの声が響く。
「なんか、電気関係の不調らしいね。修理終わるまで防寒着で授業受けてOKになったんだし、いいじゃない」
ヒロトはこの状況を全く不満に思っていないようだ。むしろ、楽しんでいるような雰囲気さえ感じさせる。
イツキはふと、何かに気付いた。
「お前、そのマフラー……」
ヒロトは嬉しそうにニヤリと笑う。口元はマフラーで隠れて見えないが、確かに笑っていた。
「ふふん。妹が編んでくれたんだ。今日、暖房が壊れてくれたおかげで、ずっと巻いていられる」
ヒロトはスゥ~っと大きく息を吸い込む。
「あぁ……妹の匂いがする。妹の匂いとずっと一緒にいられる」
「なんか機嫌いいなと思ってたけど、そういうことか」
「え~、だってだって、妹はいい匂いじゃん。それをずっと嗅いでいられるんだよ。本当に暖房が故障してくれて、僕は幸せだよ」
「知ってたけど、お前ヤバいな」
イツキは少し座る場所をずらし、イツキから距離をとる。
「ちょっと、イツキ。引かないで!」
そのとき、隙間風がピューっと吹き、イツキは大きなくしゃみをした。
「俺は寒いよ。クソっ」
「ほんと、イツキって昔から寒いのにがてだよね。ほら」
すると、ヒロトは呆れたような表情でポケットからハンカチを取り出し、イツキの鼻水を拭き取った。
「だって、寒いもんは寒いだろ」
ヒロトは「しょうがないなぁ」とため息をつき、イツキに体を寄せると、巻いていたマフラーをほどいた。
「マフラー、長いからイツキにも貸してあげる」
そして、イツキと一緒に巻きなおした。
二人の頬がくっつきそうなほど顔が近づく。お互いの息遣いさえ聞こえる。
「お、おい。恥ずかしいって」
「誰も見てないって。これで寒くないでしょ」
「でも……」
そのとき、イツキの鼻に匂いが漂ってきた。石鹸の匂いと、花の匂いが混ざったようなほのかに甘い匂いだ。
ヒロトは一度深呼吸して、ゆっくりと尋ねる。
「ヒロトさ、妹ちゃんと同じボディーソープ使ってる?」
「うん。シャンプーもボディーソープも同じの使ってるよ」
「……いい匂いだな」
イツキは小さな声でつぶやいた。
そのとき、ヒロトは何かに気付く。
「イツキ、顔赤くない?」
「あ、赤くねーよ」
校舎の外では、しんしんと雪が降っていた。




