お弁当
昼休み。
校舎の隅、ひと気の無い階段に二人の男子生徒がいた。
両方とも階段に腰かけている。
蓋をした弁当箱を膝に乗せて、ジッと見つめているのがヒロト。
一方、スマートフォンを操作しながら、コンビニで買ったサンドイッチを頬張っているのがイツキである。
「食わないのか、ヒロト」
イツキはヒロトがずっと蓋をしたお弁当箱を見つめて、一向に食べようとしないことに気付いた。
「ねえ、イツキ」
ヒロトはゆっくりとイツキに顔をむけた。
「なんだ?」
その真剣な表情に、イツキは思わずスマートフォンを置いてヒロトと目線を合わせる。
「お弁当、女の子に作ってもらえるのって、喜んでいいと思う?」
イツキは拍子抜けしたようにため息をつくと、サンドイッチ片手に再びスマートフォンを操作し始めた。
「俺、カノジョいたことないから知らない」
「同じクラスの吉岡くんがさ、朝からずっと自慢してくるんだ。最近付き合いはじめたカノジョにお弁当作ってもらったって。もう何回も聞いたのに」
「まあ、嬉しいんだろ」
「でもさ、でもさ、考えてみてよ。女の子はわざわざ早起きして、お弁当作ってくれてるんでしょ。寝不足だと体調崩しやすくなるじゃん。カノジョのこと思うなら、お弁当は断るべきだと思うんだよね」
「カノジョいなくて僻んでる様にしか聞こえないぞ、それ」
イツキは呆れたように言う。すると、ヒロトは顔の前で「いやいやいや」と手を振る。
「僕は本気で相手の心配してるんだよ。『人間関係とは相手を思うこと』って、岡本先生言ってたじゃん」
「あの先生、名言っぽいこと言うけど、大体ノリと勢いだけの適当なこと言ってるだけだろ。まあ、本人同士がいいならそれでいいんじゃないか? 部外者が口出しする話でもないだろ」
「それを言ったらおしまいだよ! 人それぞれなんて言い出したら、世の中の物事全部人それぞれって結論にたどり着いちゃうだろ! イツキ、これから
死ぬまで人それぞれ禁止!」
ヒロトの声が周囲に響く。しかしイツキは驚く様子を見せない。
「大げさな……何かあったのか?」
「家さ、今、父親は出張でいなくて、母親も用事で親戚の家行ってて……俺と妹の二人だけなんだ」
「うん。それで?」
「で、今日はコンビニでパン買うつもりだったんだけど、妹が早起きして、弁当作ってくれてて……」
ヒロトの膝の上に置いた弁当箱の蓋に、ポタポタと水滴が落ちる。ヒロトの涙だった。
ヒロトは泣きながら続ける。
「俺……すげー嬉しくて。でも、妹に早起きさせちゃって……妹の、寿命を削ったのに、喜んでる自分が許せなくて……」
イツキは大きなため息をついた。
「大げさすぎだろ。毎日寝不足みたいな生活じゃなきゃ、寿命に影響ないって」
イツキの言葉を聞き流し、ヒロトは涙を流しながら、ゆっくりと弁当箱の蓋を開けた。
二段になっている弁当の上段、そこには白米がぎっしりと詰まっており、そのに桜でんぶで大きなハートマークが描かれていた。
そして下段には、おかずが詰まっている。レタスの上のミニオムレツにはケチャップでハートマークが描かれており、ウインナーは切り込みを入れてタコさんになっている。一目で手が込んでいることが伝わる。
横から覗き込んだイツキは「ええ……」と声を漏らした。
だが、ヒロトはイツキに構う様子もなく、ゆっくりと食べ始めた。
「おいしい……。おいしいよ……ありがとう。妹よ……」
イツキはしばらく考え、ゆっくりと言葉を選びながら口を開く。
「その……なんて言うか……、お前の妹ちゃんへの愛が昔から重いのは知ってたけど、妹ちゃんの方も大概だよな。ってか、昔より酷くなってないか」
「ほっといてくれ! 人それぞれだろ!」
ヒロトは涙を流しながら大声を上げると、さらに食べすすめる。
「あ、うん。ごめん」
イツキは再びスマートフォンを操作しながら、コンビニのサンドイッチを食べはじめた。




