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2 メリーさん、掃除を始める

 振り返った正は、言葉を失った。

 そこには、赤いパーカーにショートパンツというラフな格好の少女がコーラが入ったレジ袋片手に立っていた。

 彼女は、静かに正を見上げる。張り詰めた空気が室内に広がる。


「.......あたし、メリーさん。あなたの部屋、汚くないですか」


「は?」


 あまりにも想定外の第一声に、正は思考が停止した。

 メリーさんは周囲をぐるりと見渡し、軽く眉をひそめた。


「これはひどい」


「ちょ、ちょっと待て。人の部屋で勝手になにしてる」


「無理。私、きれいじゃない空間だと発狂するの」

 そう言ってメリーさんは持っていたコーラを冷蔵庫に入れてから袖をまくり、散らかった部屋を片付け始めた。


 ゴミ袋にゴミを入れ、洗い物をシンクに運び、雑巾を手に取る動作が妙に手慣れている。

 正はその光景を呆然と見つめていた。都市伝説が人間の家で掃除している光景なんて、誰が想像しただろう。


「お前本当にあのメリーさんなのか?」

 どこか不思議な雰囲気を持ちながらも普通に掃除をする少女に怖さを感じないため、疑いの言葉をかけた。


「はいメリーさんです。その証拠にほら」

 メリーさんは台所で洗い物をしていたが、気が付くと姿が消え、背後に立っていた。


「なら、俺を殺すのか。........都市伝説なら背後に立って俺を呪い殺すんだろ」


「いや、背後に立つだけだけど。呪うこともできるけど」

 たしかに、都市伝説でも背後に立ったあとで物語が終わるため、その後どうなるか派生作品によっても異なる。

 困惑する俺をしり目に、メリーさんは埃まみれのリモコンを拭き始める。


「なんでそんなに手際がいいんだよ」


「私家では掃除担当なの。いろんな幽霊とシェアハウスしてるけど幽霊の住処って意外と汚れるの。ほら、血痕って落ちにくいし」


「そうですか」


 1時間後、部屋は見違えるほどきれいになっていた。


「それで、この後はどうするんだよ」


「自立支援をします」


「自立?」


「元々人を呪ったりしていたけど、人の生活を整える方が社会貢献になるかなって」

 メリーさんはにこりと笑った。その笑顔に、怖いとか不気味とかはなく、ただ、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「明日は、冷蔵庫の中身を整理しておくね。奥に賞味期限切れているものあったよ」


「.......お、おう」


 こうして、無職の男と都市伝説の幽霊の奇妙なシェアハウスが始まった。

 

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