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文化祭準備!恋とホラーと俺の悲鳴

「それじゃあ文化祭の出し物、何にするか決めようかー!」


担任の先生が手を叩き、ホームルームが始まった。

夏休みも終わってすぐ、みんなちょっと浮かれモード。教室内の空気もどことなくお祭りムードだ。


先生は「自主性に任せます!」と早々に引き下がり、生徒主導での話し合いが始まった。


「喫茶店とか、お化け屋敷とか定番のやつは?」


「劇とかもあるよねー」


そんな中、ふと、俺の斜め前の席から手が上がった。


「はーいっ!」


明るい声と同時に、元気なツインテールが揺れる。


「なになに、日菜ちゃん?」


「“告白大会”ってどうかなっ! 体育館のステージで、誰かに想いを伝えるイベント!」


一瞬の静寂ののち、教室中がどよめく。


「告白大会って……好きな人に公開で想いを伝えるやつ!?」


「まじ!? エンタメとして強すぎ!」


「面白そうー!」


クラスメイトたちがノリノリで食いついていく。


(ちょ、マジで言ってる!? 告白大会とか修羅場しか生まれないやつじゃん!)


「へ、へえ……日菜ちゃんってば、また突拍子もないことを……」


美麗が顔を赤くしながら、わざとらしく視線を逸らす。


「私は出るよっ!美麗ちゃん、やらないの?」


「……い、いや、やらないとは……言ってないけど……っ!」


美麗の頬がピンク色に染まる。


そして、隣の席の風花が、ぽつりと。


「……それって……気持ち伝えて、答えてもらうってことだよね」


「うんうん!」と日菜。


「……だったら、私も……出る」


美麗も参加表明する。


「……私、なんて言おうかな……」


風花も、ふわふわしつつ、やる気満々だ。


「うぇぇ!?」


俺の声が思わず教室に響いた。


(なんで!?3人そろって参加とか、どういう展開だよこれ!)


「え、宮野くん……もしかして……3人に告白されるとか!?」


「うらやまー!」


「宮野に選ばせるってことじゃね?」


「こりゃ文化祭の主役、決まりだな!」


「俺、見に行くわ絶対!」


クラスメイトたちが一斉にはやし立てる。


「え、ちょっと、待って待って!?それマジで俺に選べってこと!?」


まさかの事態に、俺は思考停止。


「私、言いたい気持ち、いっぱいあるもん♪」


日菜がニコッと悪戯っぽく笑う。


「……私は、誰にも譲る気はないから」


美麗はふっと挑戦的な目をする。


「……私の全部、伝えたい」


風花はいつも通りマイペースに、でも目だけは真剣だった。


(いやいやいやいやいや! おれの文化祭、もはや恋愛サバイバルゲームなんですけど!?)


それから、クラスのみんなで話し合って。


「……じゃあ、出し物は『おばけ屋敷&告白大会』で決まりだな!」


こうして、全く予定になかったロマンス大爆発イベントが、うちのクラスで開催されることになってしまった。


そして何よりも恐ろしいのは――

その主戦場に、美麗、日菜、風花の想いが並ぶこと。


(俺、文化祭当日、生きて帰れるのか……?)


チャイムが鳴っても、俺の心臓のドキドキは止まらなかった。




放課後。文化祭の話し合いが終わり、教室のざわめきが徐々に引いていく。


俺は逃げるように廊下に出た。

冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、深呼吸。


(……やばい。マジでやばい。あれ、本気だったのかよ)


告白大会。まさか、あの3人が出ることになるとは思わなかった。


しかも、あの空気……まるで「選ばせる」って前提で話が進んでるし!


「……修也くん」


背後から声がした。振り返ると、そこには――3人が立っていた。


美麗、日菜、風花。


その瞳は、冗談なんかじゃなく、本気の色を宿している。


「少し、話せる?」


美麗が一歩、俺に近づく。

その仕草に釣られるように、日菜と風花もぴたりと並んだ。


俺はごくりと喉を鳴らす。


「え、あの、俺、今ちょっと――」


「逃げないで」


美麗の言葉が、いつになく鋭く響いた。


「もう、逃げないでほしいの。私たちの気持ちから」


日菜も前に出て、真っ直ぐ俺を見つめてくる。


「修也……ちゃんと選んでほしいよ」


風花がぽつりと呟いた。


「……誰か、ひとり……」


(……うわああ、本題きた)


3人とも、表情は真剣そのもの。


美麗の優しい微笑みも、日菜の甘えた雰囲気も、風花のふわふわした空気も、今は全部、消えていた。


代わりにあるのは、それぞれの「本気」。


(こんな顔……3人とも、してくるなんて)


いつもはドタバタして、笑って、からかって、振り回してくる彼女たち。

でも今は違う。3人とも、真剣に「俺の答え」を待っている。


「……わかってる。ちゃんと、考える。逃げないから」


俺の声は震えていたけど、それでも3人の瞳に映った“何か”が、ほんの少しだけ、柔らかくなった気がした。


文化祭まで、あと数週間。

俺はその日までに、決めなきゃいけない。


誰かひとりを――選ぶことを。




数日後。視聴覚室で。


「おっそーいっ! 修也、やっと来た!」


バサバサと黒いビニールを貼る音、机の下に隠れるホラーメイク班の声、空気はすでに文化祭モード全開。


そんな中、遅れてきた俺を日菜がダッシュで出迎える。


「おばけ屋敷、いっしょにつくるって約束したのにー! さびしかったんだからね?」


「ご、ごめん! 美術室の掃除が長引いて……って、わっ!」


不意に何かが足元に転がってきた。


「うわあああっ!?」


「それ、風花ちゃん作の“のっぺらぼうボール”ね」


静かに説明したのは、美麗。手には進行表とグルーガン。

でも口調は、なぜかほんのりトゲトゲ。


「で、修也くん。どっちを手伝ってくれるの?」


「え? えっと……」


「こっちは風花ちゃんが作った大量のフェルト幽霊に命を吹き込む係だよ!」


日菜がアピール。


「私はお化けトンネルの中、暗幕を仕掛ける係。修也くんみたいな身長のある男子が必要なの」


美麗もグイッと迫る。


「私は……心霊スポットっぽい音を収録中。しゅーくん、悲鳴をくれない?」


風花がいつの間にか目の前にきて、俺を見つめていた。


「なんで俺が!?」


「しゅーくんの『ひぃいい!』って声、絶対使えると思うの。……ね? 叫んで?」


(無理無理無理無理っ!)




最終的に、俺は3人に引っ張られ、視聴覚室の奥へ――


「修也~こっち持って~っ! 幽霊が倒れる~!」


日菜の呼び声で走り寄れば、5体くらいの自作ぬいぐるみ幽霊がなだれ状態。


「なんでそんなに作ったんだよ……!」


「修也に『かわいい』って言われたくて、いっぱい……って、わわっ! バランスが!」


よろけた日菜が、ぐいっと俺にしがみついてくる。


(うわ、近い……! いい匂い……!)


「……へぇ、楽しそうね?」


ひょいっと暗幕の向こうから現れた美麗。

ちょっとだけ、口元が引きつってる。


「修也くん。さっきの板、まだ運んでなかったわよね?」


「え、あ……」


「こっちにも付き合ってくれるわよね? 」


「や、やりますっ!」


「私も……しゅーくんに頼みたいの、ある」


風花が、カセットレコーダーとマイクを持って登場。


「しゅーくんの『心臓が止まりそう!』って言葉が、今ほしいの」


「ねぇ、それ俺の声じゃなきゃダメなの!?」


(俺の体、ひとつじゃ足りないっ!!)


あっちからは「修也~どの幽霊がいちばんかわいい~?」

こっちからは「この暗幕、二人きりで掛けてみない?」

そっちからは「耳元で『うらめしや~』って囁いて、お願い」


俺の視界には、かわいいけど本気モードの3人の姿が交互に迫ってくる。


(これ、文化祭当日まで俺の精神もたないんじゃ……)


こうして、おばけ屋敷の準備は進んでいく。


――そして、文化祭当日が、迫る。

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