初日からハーレム状態!?
入学式が終わり、クラスごとに教室へ移動する。
「えー、それじゃあ一人ずつ自己紹介をお願いします!」
担任の先生がそう言うと、順番に生徒たちが前に出ていく。
そして、ついに俺の番が回ってきた。
立ち上がり、黒板の前に立つ。教室の視線を一気に浴びる。
(こういうの、あんまり得意じゃないんだけどな……)
その時、特別な視線を感じた。
(……ん?)
さっき出会った3人の美少女が、じーっと俺を見つめている。
(え、なにこの圧!?)
黒髪ロングの清楚系美少女。
黒髪ツインテールの小動物系美少女。
栗色のセミロングの髪の天然美少女。
それぞれの瞳に、俺への強い関心が込められている気がする。
(……頼むから、そんなに見ないでくれ!!)
とにかく自己紹介を済ませよう。
この場を無難にやり過ごすのもいいけど…… いや、せっかくの高校デビューだし、ちょっと面白いことを言ってみるか?
「えーっと、宮野修也です!」
「特技は……えっと、流されることです!」
一瞬の沈黙。
(あれ……? これ、もしかしてスベった?)
なんか、微妙な空気が教室に広がる。やばい、変な汗が出てきた。
「……あ、あと、趣味は……睡眠? です!」
なぜか語尾が疑問形になり、ますます空気が凍りついた気がする。
(やっちまった……!)
先生が苦笑いしながら「はい、ありがとう」と次へ進めたことで、俺は何とか席に戻ることができた。
ああ、普通にやればよかった……。
周りを見渡すと、3人の美少女がなぜか意味ありげな微笑みを浮かべながら俺を見つめていた。
(なんか、すごく不穏な空気を感じる……)
みんなの自己紹介は続いていく。
「次、どうぞ」
「はい」
静かな教室に、澄んだ声が響く。
俺が顔を上げると、そこには清楚系美少女が立っていた。
さっき校門前でぶつかった美少女だった。
黒髪が腰まで流れ、整った顔立ちには気品がある。
それなのに、どこか柔らかくて、微笑むとまるで優雅なお姫さまのように見えた。
「望月美麗です。勉強も運動も頑張りたいと思います。」
少し恥ずかしそうに頬を染めながら、彼女は微笑んだ。
「読書が好きで、小説を書いたりもします。みなさんと仲良くできたら嬉しいです。」
穏やかな笑顔とともに、丁寧に一礼する彼女に、教室がざわめく。
こんなレベル高い美少女の大切なところに触れちゃったのか……。
彼女との出会いのシーンを思い出し、思わず赤面する。
その時、彼女と目が合った。
「……ふふっ」
小さく微笑まれて、心臓がドクンと跳ねた。
(なんだ、今の微笑み……!?)
さらに自己紹介は続く。
「はいはーい!次は私だね~♪」
元気よく手を挙げたのは、黒髪ツインテールの小動物系美少女だった。
廊下でぶつかった、あの可愛い子……。
「渡辺日菜でーす♪ えへへ、みんな仲良くしてねっ!」
にこっと笑う彼女に、周囲の男子が「かわいい……!」とざわついている。
確かに、その明るい雰囲気と小柄な体格、まるで愛でたくなるような妹感がすごい。
「趣味はね、お菓子作りです♪甘々なお菓子、いっぱい作るから、みんな食べてくれるかな?」
まるで子猫のように首を傾げる姿が可愛い。
そして、俺をちらっと見て、 「ね?」 とウィンクしてきた。
(……ん? 俺になんか期待してる?)
次々と自己紹介が進む中、最後の方でゆっくり立ち上がったのは、どこかマイペースな雰囲気の美少女だった。
さっき俺に跨がった、不思議ちゃんだ。
「……んー、水島風花です……よろしく……」
栗色のセミロングの髪に、柔らかそうな表情。
まるで風に舞う羽根のような、つかみどころのない雰囲気を持っていた。
「……好きなものは……空と……キャンドル……」
ふわりとした仕草で宙を見上げる。
(……やっぱり、不思議な雰囲気の子だな)
「……空は……広くて……どこまでも続くから……好き……」
ゆるやかな口調。夢の中にいるみたいな話し方。
でも、その瞳にはどこか不思議な輝きがあった。
「……キャンドルは……火が……ゆらゆらして……静か……」
柔らかい声が、教室に響く。
「……でも……たまに、ぱちって弾ける……」
(なんだか、すごく情緒的な話になってきたぞ……)
「……夜、明かりを消して……キャンドルを見てると……夢の中に、いるみたい……」
そのままふわりと微笑む。
「……だから……静かな時間が……好き……」
そして、ぽつりと一言。
「……でも……本当に静かすぎると……ちょっと、さみしい……」
そう言いながら、 窓の外を見つめる姿は、まるで夢の中にいるみたいだった。
(なんか、ふわふわしてる……)
彼女が自分の席へ戻る途中、俺の席の前で立ち止まった。そして俺の顔を食い入るように見つめてくる。
(……なんで俺、めっちゃ見られてるの!?)
「あ……席、ここじゃない……」
そう言いながらやっと自分の席へと歩いて行った。
(……今、何が起こったんだ!?)
放課後。俺は自分の席で帰る準備をしていた。
明日の時間割を確認しながら、さっさと帰ろうと思っていたのに――
「修也くん……?」
突然、目の前に影が落ちた。
顔を上げると、黒髪ロングの清楚系美少女、望月美麗が立っていた。
「え、俺?」
「うん。あの……さっきの自己紹介、ちょっと面白かったよ?」
美麗はふわっと微笑みながら、俺の机に両手を添えた。
「え、いや、スベってたと思うけど……?」
「そんなことないよ。私、クスッてなっちゃったし」
ほんのり頬を染めながら、美麗はそっと俺の袖をつまむ。
「それに……クラスメイトだから、もっとお話ししたいなって」
(や、やばい……至近距離で、こんなに可愛く言われたら……!)
「修也ー!」
俺の混乱をぶった切るように、元気な声が飛んできた。
「帰るの? 駅まで一緒に行こ?」
明るい茶色の瞳を輝かせて駆け寄ってきたのは、渡辺日菜だった。
(よ、呼び捨て……!?)
「まだあんまり話してないし、仲良くなりたいなーって!」
無邪気な笑顔で俺の腕にピタッとくっつく日菜。ふわっと甘いシャンプーの香りが漂い、心臓が変な跳ね方をする。
「ちょ、近いって……!」
「修也って、女の子に甘えられるの、苦手?」
「いや、そういう問題じゃなくて……!」
「ふぅん?」
ニヤリと微笑む日菜。
(ちょ、なんか煽られてる!?)
「……ん……しゅーくん……」
今度は、俺の後ろから、のんびりした声が降ってきた。
「……駅までの途中……寄り道して、猫に会いたい」
振り返ると、水島風花が、ぽやーっとした顔で俺を見つめていた。
「えっ、俺と?」
「うん。しゅーくん、優しそうだから……猫も好きだよね?」
「ま、まぁ……好きだけど……?」
「よかった」
風花はにこっと満足げに微笑む。
「じゃあ、決まりだね……?」
(決まりって、なに!?)
その時――
クラスのみんながざわつき始めた。
「美少女3人が集まってる!」
「なんであいつ、あんなにモテてるの?」
みんなのヒソヒソ声が聞こえる。周りを見渡すと、俺たちは注目の的になっていた。
(こんな注目のされ方、望んでないんですけど!?)
俺の動揺をよそに、美麗が少しだけ俺の袖を引っ張る。
「ねぇ、修也くん……先に、私とお話ししない?」
日菜が頬をぷくっと膨らませながら、俺の腕にギュッとしがみつく。
「ねーねー、修也は誰と帰りたいの?」
風花が俺の肩にそっと手を乗せる。
「……ねこ……?」
(ど、どうすればいいんだ……!?)
気づけば、俺の周りに美少女3人がぴったり張り付いていた。
「もう少し……一緒にいたいな」
「私と帰るのが、一番楽しいと思うよー?」
「……しゅーくん……猫、選んで……?」
(いや、そう言われても、こっちはすでにパニックなんですが!?)
クラスの美少女3人に囲まれ、俺の平凡な高校生活は、たった1日で終了のお知らせを迎えたのだった――。