待ち望んでいたのに
ひとつ 夜を跨ぐたび
ひとつ 自信がふり落ちる
あんなに待ち望んでいたのに
不安の影が 西陽に混ざり
ゆく先に 長く大きく延びている
あんなに待ち望んでいたのに
「逃げようか?」
と 心の声
「後ろを向いて 光の方へ
今ならまだ 気付かれないよ
今ならまだ 逃げられるよ」
あんなに待ち望んでいたのに
あんなに待ち望んでいたのに
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『すず』
すずの音がしたよ
と、箸置きが言うと
いいえ あれは虫の音よ
と、石鹸がこたえました。
箸置きはよく茶碗やグラスやキーボードたちと一緒にYouTubeを観ていましたので、きっと自分は間違えていない、間違えているのは石鹸のほうだと思いました。
ちがうよ すずの音だよ
きみはその場をちっとも動かないから 本当のことなんてなんにも分からないんだ
石鹸は悲しくなり、さめざめと泣きました。
ぷかぷか泡を立てて泣く石鹸の姿を見た箸置きも悲しくなり、さめざめと泣きました。
おしまい。




