条件を満たさないと出られない部屋
「………よしよしよし! よしっ!! やっとクリア!!! これで指定されたゲームは、残り一つだ!」
俺はバカみたいな部屋に閉じ込められている。
多分、幽閉とか拉致監禁とか言うやつなのだろう。
なにせここは周囲の壁と天井は空と雲の柄の壁紙が貼られている、かなり殺風景な8畳位の部屋なのだから。
他にあるものと言えば、ベッドと座り心地が異常に素晴らしいクッションと折り畳みテーブルのセットと、その正面にテレビ台とモニター。
壁には壁と同化するような埋込式の冷蔵庫と、窓に見せかけた外らしきモノを映し出す壁掛けディスプレイ。
それと壁と天井の間のスリットから空気清浄化と室温調節用の空調らしき風が来てて、ついでにトイレと風呂につながる扉だ。
ああ、食事は窓っぽいディスプレイがスライドしたら見えるスリットから出されて、食べ終わったら返す方式。
着替えは風呂の前に置かれてて、着替えた後の服は近くに脱ぎ捨てとくと、いつの間にか洗濯済みの服に変わってる。
こんな所で目覚めた俺は少しの間混乱していたが、テレビ台に乗っているモニターの電源が入って、そのモニターに映った謎の人影に説明を受けて理解した。
ここは、用意されたスマホゲームのク◯広告っぽいゲーム+αをクリアしないと出られない部屋だそうだ。
それで用意されているスマホやタブレットやゲーム用コントローラーやキーボード&マウス等を使って、全てのゲームをクリアしろと。
なんてバカバカしい。 と思ったね。
こんな部屋を作るんだったら俺とだれか女の子をこの部屋に入れて、エッチなナニカをシないと出られない部屋にしろよとも思ったね。
でもまあそんな文句を言ったってどうしようも無いから、指示通りに渋々ゲームをプレイし始めたと。
ゲームの内容?
本当に◯ソだわ。
最初にキャラクターメイクして、それを全ゲーム通しての主人公として、プレイ開始。
中身は画面内のピンを抜いてゴールの宝箱を目指すやつから始まって、直線の強制スクロールで数字の変化するゲートを潜ってくやつとか。
直線の強制スクロールでゲートの他にも敵も向かって来るのを倒すやつ、画面に線を引いて動物を捕まえて引き寄せるやつ、主人公を着飾らせるやつとか。
用意された連続する2択を選んでいって結末を見るやつ、犬とハチのやつ、試験管の中に入ったカラフルな色を揃えるやつとか。
アイテムや金を背負ってアチコチ動き回る経営ゲームのやつ、ネジを外して金具を全部とるパズルのやつとか。
あとは今全ステージをクリアした、頭上の数字を増やす塔のアレとか。
……いや、全部楽だろって言いたいのは分かる。
分かるけど、そのゲームじゃないんだ。
この部屋に閉じ込めた奴か奴等か。 ソレが開発したゲーム郡なんだ。
背景とか物とか敵キャラとか。
元ネタから変えていて権利関係に配慮されているし、難易度も心なしか高めに調整されている。
そもそもゲームごとに主人公となるプレイヤーキャラクターがそれぞれ違うはずなのに、最初に作ったキャラが主人公になる所から、この部屋の為に作られたゲームだと言うのが察せられる。
最悪なのがゲーム1つで2000ステージとか用意されていて、ゲーム1つクリアするのに数日かかる。
パズル系でどツボにハマると1や2週間かかる事も。
しかもそれだけのステージをクリアするのは作業感MAXで、飽き飽きしてくる地獄。
作る方も地獄だろうに、ご苦労さん。 ってやつだ。
「さて、最後の残った+αのゲームはなんだ? ここまで来たら、一気にクリアしてやるよ!」
気合を入れ、キーボードとマウスに手を付ける。
それからモニターに映るカーソルを操作し、最後のゲームのタイトル画面を表示させる。
するとそこには……。
「…………おいおい、マジかよ」
どこかで見た画面。
いや、今までのゲームも全部見たことのあるモノだったけど、今回のは特に。
岩壁に、深く突き刺さるハンマーピッケル。
「こいつは…………」
慌ててゲームをスタートさせると……。
やはり。
「元ネタは壺おじかよ」
もう何年も前に出たゲームで、ゴールを目指して慣性の影響で操作性劣悪なキャラクターを操作し、常にストレスを受けるアスレチックステージを攻略していく悪夢のゲーム。
常人なら途中でコントローラーの類を放り捨てるレベルの難易度であるソレだが、権利侵害にならないよう作り変えたって事で更に難しくなっているだろう。
しかも7時間かけてなんとかクリアした事がある俺だが作り変わっている以上、ステージの構成が変わっているだろうし、経験のほとんどは役に立たなくなっているだろう。
「ク◯ッ! やってやれるか!! 休憩だ!」
これからの地獄を感じ取り、緊張とやる気の糸が完全に切れた。
キーボードやマウスから手を離し、タブレットを掴んでゲームモードから通販モードへ変え、監禁される前より引き締まった体になった事から電気の刺激による運動効果があるらしきベッドに寝転ぶ。
そしていつの間にか溜まっているサービスポイントとやらを消費して炭酸飲料を注文。 そうすればいつの間にか冷蔵庫に注文したものが入ってる。
「集中が続かねぇ! 明日からだよ、チクショウ!!」
大体の時間は窓風ディスプレイで分かるし、スマホやタブレットを見れば24時間表記の時計があるから細かい時間も分かる。
どっちも夜を示していて、寝ても良い時間だ。
ふて寝だふて寝。 風呂も知ったこっちゃない。
「おやすみ!」
布団を勢いよく被った。
蛇足
ベッド
描写が遅れたが、かなり高性能。
某電気による刺激で脂肪を燃やすアレを応用したベッド。
閉じ込められているのに運動不足で病気にならないのはコレのおかげ。
サービスポイント
実はこの部屋はこっそりライブ配信されている。
ゲームをしていない時は部屋全体を。
ゲーム中はゲーム画面をメインにして、画面スミにプレイ中の主人公の表情をアップにしたワイプな構成。
ゲームを放りだして発狂した場合は直ぐ様部屋全体のカメラへ切り替わり、発狂した様子を中継する。
それで得た収益がポイントになっている。
もちろんアレなシーンなんかは隠すし配信を止めるので、プライバシーや最低限の尊厳は厳守。
スマホ・タブレット
正確にはスマホやタブレットに見せかけたゲーム機。
他のコントローラーやキーボードとマウスなんかとも連動していて、どれでも同じゲームを操作できる。
なおスマホやタブレットにはモード切替で、ポイントを消費した飲食物の通販機能がついていて、注文したものは冷蔵庫の中にいつの間にか入っている。
温かい物を注文した場合は、食事用のスリットから出てくる。