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 アルテノ王国はブラウン王国と比べると、とても治安がよかった。


 だが13年前は王位継承争いでたくさんの血が流れたそうだ。その最たるものは宰相の子が死亡したということだった。それから宰相夫人はショックで健康を害し、ずっと寝込んでいるらしい。


 国民の懸念は国王の子が隣国に留学している間に国王が亡くなるとまた王位争いが起こり治安が悪くなることだった。


 旅をして2日経ったところで、山中を通らないといけなくなってしまった。

いかにも山賊が出そうな場所だが、長雨で本道が山崩れで塞がったため、王都に行くにはこの道を通らなければさらに大回りをして迂回しなければならない。

そうするともう1週間程余計な日数がかかってしまう。気持ちが焦っていたせいもあり迂回しないことにした。


 山道を歩いていると、懸念していた山賊が出た。


「おう、ねえちゃん。荷物を置いていきな。そうすれば命だけは助けてやる」


 お金はほとんどない。クラリスにお礼も兼ねて金貨2枚をもらって残りを渡した。

 とりあえず全財産の金貨2枚を渡し、服は勘弁して欲しいとお願いした。


 山賊の頭領が

「ねえちゃん。こんなに出したらあんたが困るだろう。金貨1枚は返すぞ」


 おもしろい山賊もいたもんだ。


「どうして全部取らないのですか?」


「俺だって山賊なんぞやりたくはないが、子分を養わんといけんのだ。それに病人がいるからどうしても金がかかる。それさえ片付いたらきちんと働きたいんだ。もともと俺たちは傭兵をやっていたからな」


「そうですの。だったら病人を私が治しますから案内してください」


 孤児だった私でも人を助けることができる。だったら助ける。


「お、お前、医学の心得があるのか?」


「少し!」


「そうか!だったら来てくれ!!」


 案内された場所には、小さな少女が2人と少年が1人寝ていた。


「悪いな。この子供は俺の子だ。少年は留学先のオスワン帝国からアルテノ王国の王都まで護衛を頼まれた。だが三人とも不治の風土病にかかってしまった。もう発熱して1週間になる。なにをやっても熱が引かない。昨日から呼吸も浅くなっている。もう無理かもしれない。どうしよう。俺は娘2人がかわいい。失いたくない。その少年の親に何と言えばいいか。もし助けることができるなら(わら)にもすがりたい」


 私は見るからにもうお迎えが来そうな少年の胸に手を置き治るように意識を集中した。


 私の体がまた光ってしまった。いつも思うのだけどこれだけ光ったら医術とごまかせない。

 少年の呼吸が落ち着いた。目を覚ましたようだ。


 続けて少女2人の間に入って右手と左手をそれぞれの少女の胸に置き、治るように意識を集中した。私の体が少年のときよりも輝く。


 少女の目が開いた。

「おとうさん!」

「おかあさん!」


「ああーーー!『聖女様』」


 頭領が私のほうを向くと跪いて手を合わせた。


 頭領の奥さんは涙をいっぱいためて何度も私に頭を下げた。子供が病気だと辛いよね。


 子分をよく見ると指や手がない者たちもいた。元は全員騎士だったが戦争で失ったらしい。私は子分たちに聖女力を使ってみた。


 いちばんビックリしたのは私かもしれない。だって失った手とか足が生えたのだから。聖女力は怪我を治すだけだと思っていた。


 当然彼らもビックリしていた。

 子分たちは私の前で跪き『聖女様―――――!!』と大声で叫んだ。


「聖女と言われるのは恥ずかしいけど、うんうん。よかったね。私もうれしい」


 少年は目を覚ましたがまだ起きてこないので、寝ている少年の顔をのぞき込んでみた。


「ねえ、大丈夫?」


 少年は私の顔を見ると

『僕の女神様』と言うなりしがみ付いてきた。

 たぶん熱にうなされていたのだろう。目が純粋だったから許すことにした。


 それから山賊と一緒に行動した。金貨は返して貰ったが彼らに王都までの路銀がなくて私の金貨を使ったから結局無くなった。


 少年はカミルと名乗った。オスワン帝国に留学していたがアルテノ王国の迎えがくる前に早く帰って両親を驚かしたい、という身勝手な理由で傭兵に護衛してもらった、ということだった。


 頭領の話では旅の当初はわがまま放題だったが少しずつ下々のことを理解できるようになってきたところだった。世間知らずのようなのでそこそこいい身分らしい。


 カミルが私の側に来てはやたら質問してくる。


「どこで生まれたの?」

「わからないわ。孤児だったから」


「何歳なの?」

「はっきりはわからないけど13歳のはずよ」


「男の人とつきあったことはある?」

「ないわ。でも婚約したらしいわ。すぐに取消されたけどね」


「どんな男が好み?」

「わからない。男の人は牧師さんしか知らないから」


「だったら、僕はどうだい?」

「私は孤児よ。あなたはどこかの貴族でしょ?」


「関係ないよ。そんなこと。君にあってからそんなこと気にしなくなった」

「ご両親が反対されるわよ。誰が考えてもわかるでしょ」


「そうだね。君に逢うまではどんな子であっても親の決めた子と結婚するものだと思っていた」

「えーーー!もし相手が男でも親が決めたら結婚するの?」


「嫌だけど、もし結婚しろと命令されたら結婚していたかもしれない」

「貴族も大変なのね」


「そうだね。でも、僕は君に助けられなければ死んでいた。だからこれからの僕は僕の生きたいようにすることにしたよ」


ちょっと大人っぽくなってきたかも。

「さっきも言ったけど、私は孤児よ」


「かまわない。そんなものクソくらえだ。君が好きだ。だから結婚してほしい」

「頭領が笑ってますよ」


「それでもいい。とにかく考えてくれ」

「私は孤児だから売られて結婚することはあっても、まともな結婚ができるとは考えたこともなかったわ。だから少し困惑しているの。私の身分のことを考えると貴方とは釣合わない。だからそう言ってくれるのは嬉しいけど……」


「君がいいと思ってくれるなら、十分だ。僕は君がいい。もう他の人は考えられない。親には話すが反対されてもサーラと結婚する。違う。そうじゃない。どんなときもサーラと同じ人生を歩みたい」

「わ、わかったわ。そこまで言ってバカだと思うけど、なんか突き刺さったわ。いいよ」


「ウォッーーーーーーー。ヤッタゾーーーー!!」


 カミルは頭領と抱き合っていた。


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