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私はウンベルト・スライキン伯爵との婚約後なぜか個室に閉じ込められ厳つい顔の兵隊さんに見張られていた。
突然ドアが開き結婚式の衣装を着たウンベルト・スライキン伯爵が私に告げた。
「お前の嘘に騙された。婚約取消しだ。貴族を謀った罪は重いぞ。法に従い
禁錮1年を味わうがいい!!」
「?……」
私は孤児院から無理矢理ここに連れてこられただけなんだけど?
私はイナカ村出身のサーラ・グランデ。
私の名は赤ん坊だった私を教会に預けた女性が告げたものだ。孤児だった私は12歳の誕生日を迎えたから教会で聖女力測定を受けた。ところがなぜか聖女認定され、そのままウンベルト・スライキン伯爵邸につれてこられた。
伯爵は私の前に跪き『聖女様は私と婚約しました。イナカ村村長は了承済みです。結婚式は明日です。よろしいですな。これで儂も聖女持ちになった。あははは。愉快だ』と言うと、兵隊さんが見張る狭い部屋に閉じ込められ、出ることは禁止された。そして聖女を偽ったとしてその日のうちに収監された。
聖女力は12歳の誕生日に発現する。私は女性だったから聖女の可能性がある12歳までは教会に併設されている孤児院で暮す。聖女と認定されなかったらその日のうちに競売にかけられ、運がよければ貴族の下働きや商家に買い取られるが、通常は奴隷商が買い取る。
孤児院の側にあるイナカ村の教会で聖女力を調べたら貴族でもないのに100以上の聖女力の表示がされた。牧師長は首をかしげつつも領主のウンベルト・スライキン伯爵に聖女力123と報告した。簡易測定器の故障も考えられるため慣例に従い数人の村人も検査するが全員3以下だった。10年前は聖女力が200以上で聖女認定されていたが、貴族が名声を得るために基準を100まで下げた。だから今は聖女だらけだ。
100程度では擦り傷程度しか治せない。病気も咳止め程度の能力しかない。
◆ウンベルト・スライキン伯爵邸◆
「なに!!儂の領地で聖女が出ただと!」
白髪頭にひげ面のウンベルト・スライキン伯爵が執事のダルダに大声で反応する。
「はい、イナカ村の教会から聖女力123の子が出たようです。すぐにこちらに来させるように命令しておきました。孤児ですから牧師長から親代わりとなる村長の婚姻承諾証が提出さています」
「だが、おかしいな。聖女は貴族にしか出ないのだが?まあいい貴族ということにしておこう。どこかの没落貴族に金を与えて養女にさせてこい」
「いいのですか?ブラウン国王から昔の基準に戻すよう貴族に勧告がありましたが?」
「かまわん。国王でさえ聖女力120の子を聖女認定して妃にしているのだぞ。聖女力123だったらどの貴族よりも高いぞ。儂の勝ちじゃ」
◆サーラがウンベルト・スライキン伯爵邸に連れてこられて1時間後◆
執事のダルダがウンベルト・スライキン伯爵に走りながら叫ぶ。
「大変です。大変なことが起きました!!」
「またか!どうした!?」
「シャルロット子爵令嬢が聖女力0と出ました!!」
「お前はバカか。0で騒ぐな」
「違います000です」
「何!!200以上だから測定不能ということか。それなら簡易測定器ではなく王都にある正規聖女測定器で図る必要があるのか?」
「そうです。今ならシャルロット・ソレット子爵令嬢はウンベルト様の自由にできます」
「さきほど婚約したばかりだからなぁ!サーラ・グランデをどうするか?妾にでもするか?だが没落貴族に支払う養子縁組金が惜しい。困った!!」
「孤児ですから何とでも理由をつけて婚約を取消しましょう」
「婚約破棄ではないのか?」
「それでは婚約したことになるのでダメです。最初から婚約などなかったことにしましょう。ほとぼりが冷めるまでゲルバッハ監獄にでも入れときましょう」
「あそこに入ったら体が1年もたんぞ。お前も悪いやつじゃなぁー!」
「ウンベルト様も同じことを考えてらっしゃったでしょう?」
「まあな。あそこから早く出る方法は死体になることだからな!お前と俺とは意見が合う。俺は今からソレット子爵のところに行き貸金の返済免除の代わりにシャルロット令嬢を儂に嫁がせるよう命令してくる」
ウンベルト・スライキン伯爵とシャルロット・ソレット子爵令嬢はその日のうちに結婚した。ウンベルトは10年ぶりに聖女力256を持つ本来の聖女を嫁にしたことでブラウン国王よりも威厳を持つことになった。
シャルロットの能力は骨にヒビが入った程度であれば治せ、病気は微熱程度であれば治せるが、重病人は治せない。アンデットは低位のアンデットしか浄化できない。それでもブラウン王国では唯一の正規聖女だった。
私はウンベルト・スライキン伯爵とシャルロット・ソレット子爵令嬢が結婚式を挙げている時間帯にブラウン王国の監獄のうち最重犯罪人を投獄するゲルバッハ監獄に収監された。