そして 麻さんがプロポーズを承諾して、1年後。
麻さんが、実家に飛び込んできた。
麻さんが叫んだ。
「赤ちゃん見に来た」
香菜さんが笑う。
香菜さんが赤ちゃんを産んだのだ。
「可愛い」
麻さんが覗き込んで、香菜さんに抱かれる、赤ちゃんの顔を見た。
麻さんが言う。
「結婚してすぐ赤ちゃん出来ちゃって、もう生まれたんだね。なんかびっくりしちゃう」
香菜さんが言う。
「それはね。事情があるんだよ」
麻さんが聞く。
「え? 何? 事情って」
そこに洋さんと兄が入ってくる。
兄が言う。
「麻さんと洋さんの結婚式は、10月にするんだろう?」
洋さんがええと言った。
「でも籍は入れたんだろう?」
洋さんが頬を染めて言う。
「ええ」
兄がつまらなさそうな顔で洋さんを見て言う。
「それで、式とかは、何処でやるの?」
麻さんが言う。
「川沿いのチャペルで結婚式だけして、披露宴はお兄ちゃんのバーでやるよ」
兄が言う。
「うちなんかでいいのか? あんまりロマンチックじゃないぞ。何ていうか、スポーツって感じで」
麻さんが笑う。
「だって、スポーツバーだからね。でもモニターがあるから、そこに色々映像を流して、ライトアップしたらいい感じなると思う」
兄が心配して、洋さんに聞いた。
「洋さんはそれでいいの?ダメだろう?うちなんかじゃ。麻さんが可哀想だ。俺の可愛い妹だぞ!」
洋さんが答える。
「麻さんが良いなら、何でもいいんです」
兄は棒読みに言う。
「あ、そうなんだぁ――」
麻さんは不満そうに言う。
「お兄ちゃんは、なんか心がこもってない言い方だよ」
兄が誠意を示す。
「ごめん。ごめん。じゃ披露宴の衣装の用意や髪型を作りるのは、お兄ちゃんがやってやるよ。麻さんと洋さんに、お兄ちゃんからのプレゼントだ」
香菜さんが言う。
「貸衣装のカタログから、一番高いの選んで良いわよ」
兄が焦る。
「ちょっと、ちょっと。程々で頼むよ。貸衣装って案外高いんだよ」
笑いが起こる。
兄が時計を見た。
麻さんが聞いた。
「なに?」
「いや、そろそろ碧君とチカラ君もくるんだ」
麻さんが驚いて聞く。
「なんで来るの?」
兄が説明した。
「赤ちゃんを見るのが建前で……。チカラ君が彼女と結婚することになったから、挨拶に来るってさ」
麻さんは本気で驚いた。
「あ――、看護師とぉ?」
兄が言う。
「そうそう。それそれ」
「え――。結婚? あんなに渋っていたのに?」
兄が言う。
「そうみたいだよ。それで彼女連れて挨拶したいって言われてさぁ。断れないでしょう。来るなって言えないよ。おめでたい事だし」
「確かにめでたいわ」
「そう、めでたいんだ」
香菜さんが言う。
「わたしちょっと、麻さんと二人で散歩したいけど、いい?」
兄が赤ちゃんを、香菜さんから受け取って言う。
「ああ、行っておいで。たまには赤ちゃんから離れて気晴らしした方がいい」
兄は赤ちゃんを大事そうに抱いて、顔を見つめてあやした。
その姿を香菜さんが嬉しげに見る。
香菜さんが麻さんをみる。
「行こう!」
麻さんが頷く。
「洋さん、出てくるね。飲み過ぎないで」
「わかってるよ」
兄が言う。
「いや洋さん、しこたま飲めよ。洋さんが酔うと面白いからさ。なんかさ。可愛くなるだろう?」
麻さんが言う。
「お兄ちゃん、やめて」
兄が笑う。
笑いを背にして、麻さんと香菜さんが、実家から、外に出た。




