表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/82

一人暮らしの終わり

最終話です


 麻さんは、店から走って消えた洋さんを、すぐに見つけた。

 スポーツバー付近の公園に、洋さんはいた。

 血圧でも上がったのか、立ちくらみを起こして、ベンチに座っていたのだ。

 

 麻さんは、公園に入って。ゆっくり洋さんに近づいた。

 洋さんの座るベンチの脇に立って、麻さんが言う。

  「もうバーで働かないよ」

 洋さんがやつれた顔で言う。どうやら洋さんは、一瞬でやつれたらしい。

 「本当?」

 「うん本当。もう働かない。洋さんを傷つけてまで働きたくない」

 

 洋さんが思い詰めたように言う。

 「俺、大人げないの分かっているんだ。でも我慢出来ないんだ。麻さんが、バーで働いて、男とたちと話して、男たちに笑顔を振りまいて。もう駄目だ。嫉妬で身が焦げそうだ」

 麻さんが説明する。

 「別に、そんな事してないよ。皿洗って、お酒グラスに入れて、ただお客さんサーブしているだけだよ。お客様の相手はお兄ちゃんが雇った、プロの女に人達がしているんだから」


 洋さんが吐き捨てるように言う。

 「それでも嫌なんだ! 見た? あのカウンターの男たち。麻さんのこと、ジロジロ見てたよ! 太ももとか。お尻とかぁ」

 麻さんは精一杯謝った。

 「ごめんね。香菜さんが心配で、つい手伝ってしまった。洋さんがこんなに嫌がるって思っていなかった。私、もうしないよ。だからお願い洋さん、機嫌を直して」

 

 洋さんが唐突に言う。

 「じゃぁ、結婚して」

 麻さんはびっくりして言う。

 「え?結婚?」

 「ここで決めて。もし駄目なら、ここで俺たちはお別れだ」

 麻さんが洋さんの目を見つめた。

 「それ本気で言っているの?」

 「本気だよ。俺はもう、ギリギリまで追い詰められているんだ」

 

 「洋さん……。あなたって……」

 麻さんが洋さんを見つめて言う。

 「時々意味不明だよ?」

 洋さんはそわつきながら言う。

 「自分でも知っているよぅ。でももう、耐えられないんだ。ちょっとしたことで俺は不安になって。麻さんを傷つけて。俺は嫉妬して……。ちょっと連絡が取れなくなると、麻さんに何かあったんじゃないかと心配になるんだ」

 麻さんには疑問だった。

 「結婚したら安心するの?」

 

 洋さんは思い詰めた様に言う。

 「少しは、安心出来ると思う。それに、結婚の届けは、単なる書類だって言う人もいるけど。俺や麻さんに何かあった時、一番に呼ばれる人になれるだろう? 恋人じゃ、事故にあっても呼んでもらえない。心配なんだよ。何かあっても、呼ばれない関係なんて、嫌なんだ」

 「もう、洋さんはぁ……。そんな事思っていたの?」

 「お願いだ。結婚して」

 「洋さん……。私でいいの?」

 「俺は麻さんが良いんだ。麻さんは俺じゃ駄目なの?」

 「私も、洋さんがいい」

 「だったら何でそんなに結婚を拒むの?」

 「私みたいな女が、ちゃんと結婚生活をして、きちんと妻をしていけるのか不安で……。子供を産んで育てる自信もないの」

 

 洋さんが力説した。

 「きちんとした妻なんていらないんだ。子供も麻さんが産みたくないならいらない。俺はただ、朝起きたら麻さんがいて。夜眠る時に麻さんにいて欲しいだけなんだ。ただ麻さんに側にいて欲しいだけなんだ」

 

 麻さんが洋さんの隣に腰掛けた。

 そして、麻さんが言う。

 「洋さん、ありがとう」

 「何の礼だよ」

 「そばに居るだけでいいって言ってくれた。子供を産まなくていいって言ってくれた」

 「当たり前だろう? 俺は子供を作るために麻さんと結婚したいんじゃないだ。麻さんが傍にいつもいるだけで、俺は幸せなんだ」

 

 「ありがとう。私のこともらってくれる?私と結婚してくれる?」

 「麻さん。俺は麻さんをもらったりしない」

 麻さんは困惑する。

 「え? どう言う事?」

 「俺は麻さんをモノみたいにもらったりしない。麻さんが俺と一緒にいてくれるんだ。もらったんじゃないんだ。麻さんの意思で俺といたいと言ってくれたから、俺は麻さんと一緒にいられるんだ」

 麻さんは洋さんの言葉に感動した。

 「洋さん、ありがとう」

 「礼なんていらないんだ。麻さん、大好きだ」


 麻さんはつい、聞きそうになる。

 私の何処がそんなに良いのって。


 でも聞くのをやめた。

 それは、おそらく、愚問だから。

 洋さんに聞いても、仕方ない質問だから。

 洋さんは、ただただ麻さんを好きなだけなのだ。


 麻さんが、洋さんにかけられた呪文。

 

 ”好きには、好き” って返せば良い。

 なんで好きかなんて聞かなくて良いんだ。

 

 ”愛しているには、愛している” って返せば良い。

 だって、それは心の叫びだから。

 理由なんて些細なことだから。

 


 それを麻さんは、洋さんに教えてもらった。


 洋さんは、麻さんをまるごと愛してる。

 ただそれだけ。

 

 だから、麻さんは質問の代わりに言った。

 

 麻さんが恋の呪文を唱える。

 「私も、洋さんが大好き」

 洋さんが嬉しそうに笑った。


 

 洋さんの顔を見て、麻さんは思った。

 愛はとってもシンプルなんだ。


 麻さんが言う。

 「私は、洋さんと結婚するよ」

 洋さんが麻さんの肩を抱いた。

 そして洋さんが言う。

 「もう幸せなんだけどさ。結婚してもっと幸せになろう」

 麻さんが言う。

 「そうだね」

 

 洋さんが、立ち上がって言う。

 「さぁ、帰って、しよう」

 「え?婚姻届でも書くの?」

 洋さんが言う。

 「それじゃないよ。わかるだろう? 早く帰ろう。麻さんで俺を充電したい」

 麻さんはそっちかと思う。

 

 「洋さんって、なんだか、やっぱり、可愛い」

 洋さんが言う。

 「やめて。可愛いのは。本当に可愛いのは、なしだから! 俺はそう言うキャラじゃないから」

 麻さんが小さく笑う。

 「知っている。クールなんだよね」

 洋さんが真剣に頷く。

 

 洋さんが、座っている麻さんの手を、引っ張る。

 そして、二人は寄り添うように、麻さんの家に帰って行った。


 


 ――――――――fin――――――――――


 麻さんがプロポーズを受け入れたので、麻さんの一人暮らしは、これで終ります。

 そして麻さんと洋さんの二人暮らしが、いよいよ始まることでしょう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ