お兄ちゃんの猫さんがやってきました
麻さんはその日、リモワで家に居た。すると、不意に夕方、兄が麻さんの新居に、現れて言った。
「麻さん。猫さん、猫さん連れてきた」
麻さんは驚く。
「猫さん?猫さんって、お兄ちゃんたちが飼っていた猫さんのこと?」
「そう、その猫さんのこと」
麻さんは困っていう。
「なんでうちに連れてくるの?」
兄が猫さんを家に放して、靴を脱ぎながら言う。
「俺の家も、実家でも飼えないでしょう?」
麻さんは、飼えない理由が分からなくて聞いた。
「なんで飼えないの?」
兄が玄関から荷物を居間に運んでいる。
「赤ちゃん産まれてくるんだからさぁ。赤ちゃんに猫さんは良くないらしい。母さんも麻さんの家で飼ってもらえってさ。まぁ母さんじゃ、面倒ら見れそうにないけど」
麻さんは必死で抵抗した。
「お兄ちゃん、無理だよ。一人暮らしで猫さんなんて飼えないよ。日中は私家にいないし」
兄は麻さんの抵抗を、全く意に介さない。
「大丈夫。大丈夫。この猫さんは、俺らが飼っていた時も、長時間一人だったけど、平気だったから」
麻さんは本当に困って言う。
「そんな……」
兄が紙袋から、中身を出し始めた。
「えっと、これが餌ね。これは、いい子だった時用のゼリー。そしてこれがおしっこシートね。あとこれが耳掃除の綿棒。爪を切るやつがこれ」
麻さんは泣きそうなほど困っていた。
「お兄ちゃん、困るよ」
兄が猫さんの背を撫でて言う。
「じゃ、俺行くわ。これから知り合いの美容室で仕事でさ。バイトも始めたのよ。稼がないとさ。美容室掛け持ちすんのよ。じゃーな」
麻さんに猫さんが残された。猫さんはオスの3歳。麻さんは猫さんを見る。猫さんがじっと麻さんを見つめた。
麻さんが言う。
「あんた、私の家に捨てられたね」
猫さんが鳴いた。
「ニャーぁ」
麻さんはため息をつく。
「断りきれんかったァー」
麻さんが、その場で寝っ転がった。
猫さんは見慣れない部屋を、ウロウロと歩き回った。
麻さんは、動き回る猫さんを目で追った。
「猫さん。どうするよ。猫さんさんよぅ。私たちどうしたらいい?私、猫さんを飼うほど、人間が出来てないのだよ。自分だけで手いっぱいなのだよ」
猫さんは答えてくれなかった。
麻さんが、猫さんの大きな瞳に負けて言う。
「仕方ないかぁ」
麻さんは猫さんのトイレを作り始めた。
麻さんが猫さんに言う。
「捨てられたもん同士、仲良くしよう」
猫さんが不安げに、「にゃぁぁぁぁ」と言い、食器棚の上にジャンプして、麻さんを上方から見た。
麻さんが言う。
「まぁ、そうなるよね。安心できる場所、ゆっくりと見つけてくれ」
麻さんは、おしっこ用のシートを広げた。