香菜さんの元所属事務所からの電話
検査入院で、入院させてもらい。
香菜さんが、病室で寝ていると、携帯電話が鳴った。
香菜さんが、表示された文字を見る。そこには、懐かしい人の名があった。
香菜さんが電話に出た。
「もしもし、香菜です」
「ああ、香菜ちゃん。大丈夫?」
懐かしい、香菜さんの元所属事務所の社長の声だった。
女社長で、年齢は香菜さんの母親より若かった。
元タレントで、売れなくなってから、芸能事務所を始めた変わり種だった。
香菜さんが言う。
「なんとかやってます」
「良かったわ」
それから、少し社長が無言になる。
香菜さんが、社長の言葉を待っていると、社長が暗い声で話し始めた。
「実は、昨日ね。香菜ちゃんのお母様がうちに見えられてさ……」
香菜さんは、悪い予感しかしない。
「え? ママがまた何で?」
社長が暗い声のまま言う。
「香菜ちゃんが芸能界に復帰するから、その契約をしてくれないかって」
香菜さんは、ママの身勝手さに呆れてしまう。
「私は、復帰しません」
社長の声が、少し明るくなる。
「そう思ったわ。だからお金は払わなかったけど……。でももしかしてと思って、香菜ちゃんに連絡したの」
「お金ってなんですか?」
「契約金よ。香菜ちゃんが事務所に入るに当たっての、契約金が欲しいっておっしゃられてね」
「でも、私は、芸能界なんか……」
「香菜ちゃんの意志も確認出来ないのに、契約する事務所もないでしょうけど……。中には、お母様と契約して、香菜ちゃんが働かない場合、違約金を香菜ちゃんに請求するかも知れないわね」
香菜さんは腑に落ちない。
「私が払うんですか?」
「払う必要がないと言えばないけど。払わないなら、お母様は詐欺罪で訴えられるでしょうね」
「詐欺ですか……」
「恐らくそうなるんじゃないかな?」
香菜の声は沈んだ。
「そうですか……」
「ともかく私の知り合いには、香菜ちゃんが復帰する気はないって、言っておくね」
「お願いします」
社長がアドバイスをくれた。
「それと、声明出した方が良いかもよ。復帰予定はないって言う声明をね。なんだったら、それだけでも手伝いましょうか?」
確かにその方が良いと香菜さんも思う。
「そうですね……。後で社長に、私の弁護士から電話させます」
「ええ、分かったわ」
「ちゃんと、社長にも、この件の代金は払います」
「良いのよ。かかった費用だけでいいの。うちの事務所は香菜ちゃんで大きくなったんだから。今でも香菜ちゃんには感謝しているのよ」
そして電話は切られた。
香菜さんは、社長の言葉がありがたかった。
香菜さんが、今もなんとか頑張って行けているのは、香菜さんが世間に叩かれた時に、社長が守ってくれたからでもある。
香菜さんが独り言を言う。
「私に優しいのは、血の繋がらない人ばかりだ。ママは私の足を引っぱってばかりだし……」
ママは香菜さんの知らないところで、香菜さんの名前を使ってまで、お金の無心をしているのだ。
香菜さんは、その行為に、恐怖を覚えた。
それから3日後に、声明は出された。
合わせて、香菜さんのママに、内容証明も送られた。




