スキャンダル
麻さんと、香菜さんの昔のドラマを見てから、3日ほど経った頃だった。
香菜さんがクラブのあるビルの入り口にたどり着くと。
沢山の報道陣がいた。
香菜さんは、昔を思い出す。
よく囲まれたからだ。
懐かしくさえ感じた。
香菜さんは、まさかその報道陣のターゲットが自分だと思っていなかった。
だから、まさかレポーターに囲まれるとは思わなかったのだが。
香菜さんを見つけると、報道陣が香菜さんを取り囲んだ。
容赦なく、フラッシュと、ライトの明かりが、香菜さんに浴びせられた。
香菜さんは眩しくて、目に手を当てる。
レポーターの一人が聞いてきた。
「香菜さんですよね? モデル業をしていた。そして人気番組の朝天に出ていた、香菜さんですよね?」
香菜さんが困っていう。
「あの、なんでしょう? 私、もう引退して、一般人なんですけど」
別のレポーターが聞いてきた。
「お父様が、昨夜亡くなられたのは、ご存知ですよね」
香菜さんは、初耳だった。
「父が……。死んだ?」
「ええ、お父様です。変死だったとかで。変死死体が、都内の川からあがって。それがどうやら香菜さんのお父様ではないかと……」
香菜さんは動揺した。
「嘘ぉ……」
「本当です」
香菜さんが、ボソボソと言う。
「私、父にはもう10年程会ってなくて……。音信不通で……」
レポーターが厳しい口調で言う。
「あぁまぁ。でも実の父親ですよね? そんな事あるんですか? 香菜さんのお母様は既に、SNSでコメントを出されていますよ」
「知らなかったんです。死んだことさえ……」
レポーターが、母のポストしたコメントを見せてきた。
《私は10年夫に会っていませんが。娘の香菜はそうではないと思います。なんせ父親が大好きだったんですから。ですので、あの人のことは、香菜に聞いてください。そして元夫の和男には、心から冥福をお祈り申し上げたいと存じます》
香菜さんが悲しげに言った。
「なんで? なんで? ママはこんな事呟いたの?」
乾いた口調でレポータが言う。
「それで、本当なんですか? 全く付き合いがなかったって言うのは? どうやら借金絡みで殺されたんじゃないかって話もあるんですよ」
香菜さんが答えて言う。
「ごめんなさい。何もわかりません。ごめんなさい」
レポーターたちが次々に質問を投げた。
「お父さんは借金苦で、つい先日も香菜さんに助けてくれって、連絡をしていたと言う証言もあるんですよ。実の父親を見殺しにしたって、噂されています。本当ですか?」
「300万程度の借金だったそうです。香菜さんなら肩代わりできたでしょう?何故お父さんを見殺しにしたんですか?」
「お父様は最後、肝臓癌を患っていらしたそうですが。お見舞いには行かれていたんですか?」
香菜さんが言う。
「すいません。私知らなかったんです。そんな事」
香菜さんがレポーターを押し避けて店の中に入る。
店の客用のソファに座った。
そして携帯を手にとって、検索をする。
香菜さんは押し黙って、黙々と検索をかけていく。
小一時間も夢中で検索を続けた。
香菜さんは、携帯を胸に抱えて、頭を膝に降ろした。
香菜さんの唇から、声が漏れる。
「あ、あぁ、あぁ、ああぁ」
香菜さんは思ってもいなかった。
香菜さんは叩かれていた。
何処の誰ともわからない人たちに叩かれていた。
薄情で、冷たい人間だと、香菜さんのことを、みんなが言っている。
こんな薄情で、優しくない女は死んだら良いと。
儲かっている店は、すぐ潰れるべきだと。
あんな店に通っている人間は、香菜さんに騙されている。すぐに店を利用するのを辞めるべきだと。
そして過去の話や。
親の話。
あることないこと、書かれていた。蒸し返すように、過去の事も書かれていた。
やっと最近夢に見なくなった、過去のトラウマが香菜さんに蘇る。背筋に汗が流れた。胃や腸が締め付けられる。手には汗が滴る。唾液が出なくて、口の中がパサパサしていた。
そこに店員のムネ君が入ってきた。
「香菜さん。外が大変な事になってますよ。人が集まって……。今日の営業はどうしますか?事務所で先に今日の予約状況を見てきたんですが。お店のホームページがアクセス多すぎて、開かなくなってました。それでお客様も、おなじみ様しか知らないお店の携帯に、留守電を残されたらしく。それを聞くのが大変でした。結局今日の予約は、半分以上キャンセルになってましたよ」
香菜さんは浮かない顔で言う。
「まだキャンセルになってないお客様には、ムネ君からお電話して、お店都合のキャンセルをしてください。後従業員や女の子にも連絡して、1週間程店は休むって伝えてください。仕入先にも、仕入れはキャンセルするって伝えてください。それが終わったら、ムネくんは帰ってください」
ムネ君がわかりましたと言い、事務所に戻って行った。
香菜さんが良ちゃんに電話した。
「お願い。迎えに来て。私、もう考えられない」
香菜さんは、思考がくるくる回っていた。
香菜さんは、今後の正しい筋道を、考えられなくなっていた。
直ぐに良ちゃんが、清掃作業員の服装で、店にやってきた。そして清掃作業員の服を香菜さんに差し出した。
良ちゃんが言う。
「香菜さんは美人すぎるな」
そしてメイクでブスにした。
美容師の良ちゃんは、実はメイクも得意なのだ。
良ちゃんは満足して言う。
「これならいいだろう」
そしてビルから抜け出した。
良ちゃんが言う。
「後で店の扉に休業のお知らせを貼りに行って、中に誰もいないのをマスコミに見せるよ。じゃないと納得しないだろう?」
香菜さんが言う。
「どうせ誰もいない店内を見せても、マスコミは納得しないよ」
ブスになった香菜さんが、余計ブス顔をした。
その顔を愛おしそうに良ちゃんが見て言った。
「香菜さんは、ブスメイクをしても可愛いな」




