救出劇
麻さんの太ももに、碧さんの手が置かれた時だった。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
碧さんが、茶の間玄関よりの壁に設置された、インターフォンを見た。
「うるさいな! 誰だよ!」
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
鳴り止まないインターフォンの呼び出し音に、碧さんは怒り心頭だった。
碧さんが立ち上がった。
茶の間の壁のインターフォンに向かってあるき出す。
その時麻さんは、茶の間の掃き出し窓に、人影を見た。
麻さんは、立ち上がり、そっと掃き出し窓に近寄って行く。
そして、ゆっくり鍵を開けた。
一方インターフォンの液晶画面をみた碧さんが、氷付き麻さんの方を見た。
しかし麻さんは既にいない。
碧さんが茶の間を見回す。
すると麻さんは、濡れ縁に続く、茶の間の掃き出し窓から、庭に出ようとしていた。
碧さんが叫ぶ。
「麻さん、逃げるな! 逃げるなよ!」
麻さんを捕まえようと、碧さんが掃き出し窓に向かって走る。
麻さんは掃き出し窓から、飛び降りた。
飛び降りた先はチカラ君だった。
チカラ君は、バスタオル1枚だけを体に巻いた麻さんを、抱きとめた。
ゴム毬みたいに麻さんは弾んで、チカラ君の腕の中に飛び込んできた。
チカラ君は思う。
(まるで麻さんは、空から舞い降りた天使みたいだ)
チカラ君は麻さんを抱きとめて、感触と匂いを嗅いだ。
(麻さんの体は柔らかくて、しかもいい匂いだ)
洗いたての髪は、レモングラスとローズの香りだった。
チカラ君は、自分の腕の中の麻さんを観察し、感触で確かめた。
(小さくてコンパクトだけど、おっぱいが大きくて、ウエストが折れるほど細い。しかもはだけたバスタオルから、生の尻と、そこから伸びる艶めかしい太ももがみえる。最高じゃないか)
チカラ君はそう思ったけれど、チカラ君は紳士を装って、おもむろに麻さんのはだけたバスタオルを直してあげた。その時、麻さんの太ももに、チカラ君の指が当たる。チカラ君はますます興奮した。麻さんの肌が、絹のようにすべすべだったからだ。
麻さんが、興奮するチカラ君の耳元で言う。
「ありがとう。チカラ君」
麻さんの少年のような、透明な声に魅了されて、チカラ君は麻さんの顔を見た。
いつも髪や手で隠されていた麻さんの顔を、ハッキリとチカラ君は見ることになる。
(可愛い)
そしてチカラ君は思った。
(俺が守ってあげないと!)
それで、麻さんを追って、濡れ縁まで出てきた碧さんをチカラ君が睨んだ。
チカラ君が叫ぶ。
「約束したよな! もう諦めるって! もう麻さんにちょっかい出さないって! 何で約束破ったんだよ!!!!」
数少ない親友に、無様な姿を見られて、流石に碧さんも凹む。
「ごめん……」
チカラ君が更に叫ぶ。
「ごめんじゃないんだよ! 謝って済むなら警察いらないだ。コレもう犯罪だからな! 警察に行くか!」
碧さんがまた謝った。
「ごめん……。でも何でここに来たんだ?」
チカラ君が言う。
「麻さんが、電話とメッセージを兄貴に送ったんだ。それで、俺たちは兄貴から、麻さんを救出するように、頼まれたんだ。」
碧さんが麻さんを見た。
「いつの間に、電話したの? メッセージを送ったの?」
麻さんが済まなそうな顔をした。
「ごめんね」
チカラ君が言う。
「麻さんは謝るな。碧さんが全部悪いんだ」
玄関から回ってきた仲さんが、麻さんに言う。
「大丈夫? 何かされなかった? 病院に行くか?」
仲さんは、良の空手仲間で、高校からの親友だった。
だから麻さんも仲さんの人柄はよく知っていた。
仲さんが、庭にあったサンダルを、チカラ君の足元に置いた。
それで麻さんがチカラ君から滑り落ちて、サンダルを履いて自分で立った。
麻さんが、仲さんに言う。
「大丈夫です」
仲さんが、碧さんに言う。
「今ならまだ俺たち、碧さんの事を許して、仲間として受け入れてやる。だから、もうやめろ」
呆然とした表情で碧さんが仲さんに確認した。
「許してくれるんですか?」
既に碧さんは、山に捨てられる覚悟をしていたのだ。
仲さんが約束した。
「ああ、折角仲間になったんだ。俺たちと縁を切りたいのか? どうせこのまま意地を張っても、麻さんの心は得られないと思うぞ。碧さんだって、本当は分かっているんだろう? それにこのまま碧さんが突っ走れば、良ちゃんが絶対、お前を許さないぞ」
碧さんが俯く。
碧さんは麻さんを奪いたかったし。
奪えると信じていた。
今までモテてきた自信が、奪えると思う碧さんの根拠だった。
更に碧さんには、女を都合よくコントロールしてきた自負もあった。
特に麻さんは、碧さんの言う事をよく聞く女だった。
それなのに、あの状況で、その麻さんが助けをばれてしまったのだ。
麻さんにやられたと、お碧さんは知った。
(だいぶ脅したのに、効果がなかったか……。昔はよく言う事を聞いてくれたのに……)
それから碧さんは見当違いな反省をした。
――クラッカーなんか食べなきゃ良かった。窓から侵入した時に、すぐ麻さんを襲えば良かった――
碧さんは、今、自分が何をしたら一番得かについて、考えていた。
(麻さんの心は、今のところ、自分には戻って来ないだろう)
碧さんは判断した。
(取り敢えず、今は仲間を失えない)
仲さんが麻さんに言う。
「麻さん、俺らで碧さんによく言って聞かせるから。後で碧さんに詫びを入れさせるから。ひとまず見逃してやってよ」
それから仲さんが碧さんを見た。
「碧さん、行くぞ。靴を持って来い」
それで碧さんは素直に靴を取りに部屋の中に入って行った。
碧さんが靴を持って、濡れ縁から庭に降りると、仲さんが言った。
「しばらく碧さんは俺の寺で暮らせ」
碧さんが叫ぶ。
「寺――――ァ」
仲さんが頷く。
「寺だ。会社が休みの日は寺で働け」
碧さんは不満だった。
「え、働く……。寺でですか?」
仲さんが脅した。
「警察に行くか? 証人は沢山いるぞ」
碧さんは観念した。
仲さんが麻さんに言う。
「じゃ、連れて行くよ」
チカラ君が仲さんに言う。
「俺も行く」
「ああ、チカラ君も来い。碧さんと一緒に、座禅して山行しろ。瞑想して、頭を冷やせ」
仲さんが碧さんとチカラ君を連れて出て行く。
残った麻さんに、兄から電話が入った。
「大丈夫か? 俺はいけないから、仲さんに頼んだんだけど」
「うん、大丈夫だよ」
「実家に来るか?」
「大丈夫。自分の家の方が気楽だから。それにママに色々聞かれたくない」
兄の語り口調は優しい。
「そうか、じゃ何かあれば電話しろよ」
「うん」
兄の電話は切られた。
しかし麻さんは知らなかった。
その後仲さんと、チカラ君、碧さんで何を話したかを。
少しご紹介しよう。
寺に向かう車中で、チカラ君が言った。
「俺、鼻血がでるかと思いましたよ。麻さんメチャ良い体してました。顔も良いし。全然普段は分かんないですね。なんで麻さんは、自分が可愛いのを隠しているんですかね?」
仲さんが言う。
「さぁなぁ。俺は高校が、麻さんと一緒なんだけど。高校では、麻さんが可愛いのを知っているやつは結構いたよ。体育でプールがあるからさ」
チカラ君の顔に力が入る。
「なるー」
「でも、麻さんには誰も手を出そうとしなかったよ」
碧さんが聞いた。
「何でですか?」
仲さんが説明した。
「麻さんと良ちゃんは同じ高校だろう? 良ちゃんは麻さんが大好きだからさ。試験期間で部活がないと、良ちゃんは俺等を伴って、麻さんと登下校を一緒にするんだよ。昼休みもちょくちょく麻さんの所に、俺たち連れて行くわけよぉ。分かるだろう? そう言う事よ」
チカラ君と碧さんは、暫し無言になった。




