海外出張
慰労会から2週間ほど過ぎていた。
洋さんは折が悪く、1ヶ月半の海外出張になってしまった。
「海外出張なんて、このタイミングに行くのは、嫌だなぁ」
洋さんは麻さんに言う。
洋さんは麻さんに膝枕されていた。
「1か月半も行くの?」
洋さんは心配そうな顔をした。
「そうなんだよ。国際学会に2つ参加して、それから向こうの大学機関で、セミナー講師を2週間ほどするんだよ。最後は会社のセミナーに参加してくる」
麻さんが尋ねる。
「洋さんはエリートだね。いつから行くの?」
むすっとして洋さんが答えた。
「俺はエリートじゃないよ。明明後日から行くよ」
「こんな所にいていいの?」
「大丈夫、明明後日になったら、地元空港経由して、成田に行くから」
「そうなんだ」
洋さんの顔が曇る。
「麻さん、本当にここに一人でいて平気なの? 実家に行けば?」
麻さんは引き締まった顔つきをする。
「戸締まりとかちゃんとするよ。洋さんが玄関に、モニターつきのインターフォンもつけてくれたし」
洋さんの顔は真剣だ。
「防犯カメラも明日つけるよ」
洋さんが言う。
「それにしても、一ヶ月も離れるとなると、心配だよ」
麻さんが言う。
「でも慰労会から数日で、ラインの通知もなくなったし。793件から変化ないから、きっと碧さんも、私のことは諦めたと思う」
洋さんの心配性は止まらない。
「でも、まだ安心できない」
麻さんが困惑気味に言う。
「まだ、駄目かな」
洋さんが麻さんに、必死に言う。
「本当に気をつけて。あー、心配で外国なんか行きたくないよ!」
麻さんが諭す。
「でも仕事でしょう?」
洋さんが言う。
「麻さんのことが心配で、仕事にならないよ。何かあったら兄さんに電話しろよ」
「うん」
「なんで、本当のことを、兄さんに言わないの?」
「下手にお兄ちゃんに話して、お兄ちゃんが碧さんをボコして、警察沙汰になって欲しくないんだよ」
洋さんは過去の事柄を回想した。
洋さんが遠い目で言う。
「……兄さんは、麻さんを好きだからな」
麻さんが洋さんの頭を、膝からどかそうとした。
「さて、そろそろ」
洋さんが、どかされることに抵抗した。
「そろそろ何?」
麻さんが時計を見た。
「夕飯を作らないと……」
洋さんが駄々をこねた。
「あぁ、やだやだ膝から離れたくない! しばらく会えないのに」
「じゃ夕飯どうするの?」
洋さんが携帯を取り出す。
「ウーバーで良いだろう。何が良い? ピザ?」
麻さんが笑う。
洋さんが聞く。
「なんで笑うの」
「なんか、可愛くて」
洋さんが焦る。
「え――、え――。可愛い?やめて。可愛いのだけはやめてくれよ。俺、可愛いのだけは嫌だから。俺そう言うキャラじゃないから!」
麻さんが聞く。
「そうなの?」
「そうそう。見たらわかるだろう? 違うって! ねぇ。麻さん。俺はクールキャラだから」
「そうか。クールなんだね」
そう言って笑う麻さんを、嬉しそうに洋さんが見つめた。
洋さんが満面の笑みで言う。
「好きだ」
麻さんが笑う。
「ありがとう」
洋さんはありがとうの返事が不満だった。
「好きって言ったら、私も好きって言ってよ。感謝なんか要らないんだよ」
「ああ、そっかぁ。そうだね。私も好き」
「そう、それ。それがいい」
洋さんは膝枕されながら、麻さんの首に手を回して、麻さんの顔を自分に引き寄せた。
二人の唇が重なる。
そして、甘いひとときが、始まった。
しばらく会えない、恋人同士の、触れ合い。
切なくて、甘い一時。
あっという間に2日は過ぎて。
明明後日に、洋さんは海外へ旅立った。




