碧の憂鬱
チカラ君が若い子の集まるクラブに入る。
その後を碧さんがついていく。
チカラ君も碧さんも、背が高く、顔も良い。
自ずと女子の視線が二人に集まる。
チカラ君が言う。
「俺たち、だいぶ女の子たちに、見られているな」
碧さんが頷く。
碧さんにとって、見られるのは当たり前過ぎて、どうでも良いことだった。
大抵の軽い女は、碧さんが口説けば落ちる。
碧さんが言う。
「俺は……、こう言うの、もう飽きたよ」
チカラ君が言う。
「そう言うなよ。俺は少し前まで、本気で空手やっていて、筋肉が付きすぎてモテなかったんだ。やっと最近本気の空手辞めて、女が好きな体型に変えられて、モテるようになったんだぞ。遊びたいじゃないか。ついこの間まで、空手ばかりしていたんだ」
碧さんが言う。
「遅咲きのデビューしちゃったか……。俺はもう飽き飽きだよ。チカラ君ぁ、遊びは一人でやれよ」
「一人だと、女の子に警戒されるんだよ。それに碧さんと2人なら、2人組の女の子が釣れるだろう? あ、あそこにちょうど良いのがいるよ」
二人組の女の子が座っていた。
チカラ君が言う。
「肌の露出が多いから、イケそうだな。行こうぜ、顔もそこそこだぞ」
チカラ君が碧さんの肩を叩く。
仕方無しに、碧さんもチカラ君についていく。
そして、その結果、碧さんはラブホテルにいた。
碧さんの隣で寝ている女を見る。
女は、セックスしたら寝てしまった。
チカラ君は別の女の子と、別の部屋でイチャイチャしている。
碧さんは思う。
(チカラ君が言う通り、麻さん程度の女ならその辺に転がっているのかもしれない。だとしたら、今隣りにいる女の子のほうが、麻さんより可愛いのかも知れない)
碧さんは、携帯の中の麻さんの写真を、眺め始めた。
(麻さんは、いつも顔を髪や手で隠していて、顔がよくわからないな)
碧さんは指を動かして、次々に昔の写真を見ていく。
(麻さんは……、服も、なんとなく体型を隠すような服ばかり着ている。ダボッとして、ちんちくりんに見えるな。背が低いから余計そう見える……。こんなんだったかなぁ?)
碧さんはベッドから体を起こして、足を床につけた。
全裸の碧さんは、ベッドに腰を掛ける形になった。
床を踏む足に力が入った。
(こんな格好するから、麻さんと一緒に街なかを歩くと、他の女の方が綺麗に見えたんだな……。家では違った気がするけどなぁ)
碧さんはマジマジと麻さんの写真を見る。
そして何枚も何枚も、写真をめくっていくうちに、髪や手で顔の隠れていない、タンクトップにショートパンツ姿の麻さんがいた。
小リスのようなキョトンとした顔、丸い瞳、小さなさくらんぼのような唇。麻さんの豊満な胸、くびれたウエスト、キュッと引き締まった小尻から伸びる長い手足。
そして圧巻は色気の漂うお尻の付け根から伸びる太もも。
碧は再認識した。
(やっぱり、可愛いんだよな)
写真を眺めながら碧さんは、何か気がついて、写真を拡大した。おっぱいの部分を念入りに見る。
碧さんは思う。
(これ、ノーブラだよな)
思わず碧さんが携帯を抱きしめ、噛みしめるように言った。
「可愛い。可愛すぎる」
碧さんはすぐに、お気に入り登録ボタンを押す。
「お宝写真だな」
それから麻さんと、寝ている女の子を見比べてみる。
携帯の写真と寝ている女見比べて、碧さんは思う。
(この女の方が、麻さんよりだいぶ落ちるな)
碧さんは麻さんの写真をガン見して、麻さんを目に焼き付けた。
それから寝ている女の子に覆いかぶさった。
女が言う。
「あれぇ。碧さんちゃん。もう1回したくなったぁ」
碧さんが言う。
「喋らないでくれよ」
女が笑う。
「うききき。私が喋ると気が散るのぉ。あぁ……」
「あえぐのもやめろよ」
女は少しムッとしたようだった。
しかし行為は続いた。
碧さんは流石に本当のことは言わなかった。
――耳障りなお前の声は聞きたくないんだよ。麻さんの声を想像しているところなんだよ――
そして碧さんは、麻さんを思って、セックスした。
セックスが終わって、女はシャワーを浴びに行った。浴室の壁は、ベッド側が透明なガラス板だった。
だから碧さんから、ガラス越しに、浴室の中にいる女が見える。
でも碧さんはそんな物に興味はない。女がシャワーを浴びる間に、碧さんは服を着た。
碧さんがチカラ君にラインした。
”俺、帰ろうかな”
チカラ君から返事がきた。
”俺はもう少しいる”
シャワーを浴びて、浴室から出てきた女に、碧さんが言う。
「俺帰るから」
女が驚いた顔をした。
「え? もう? ウチらさっき来たばっかじゃん? だったらカラオケしようよ」
碧さんはお断りする。
「カラオケはしない。明日は仕事だし、もう帰るよ。ナナちゃんとしたかったのはセックスだけだから」
女が冷めた目で言う。
「アオちゃんて、なんか冷たいよね。セックスも独りよがりだし。顔も体も良いのに。性格めちゃ悪い」
碧さんが言う。
「よく言われるよ。大丈夫、ナナちゃんにご指摘されなくても、俺はそんなの承知しているから」
ナナが笑う。
「アハハハァ。ナルゥ――――――。承知しているかぁ。まぁ、アオちゃんは私より、十歳以上も年齢が上だもんね」
碧さんが青くなる。
「え?もしかして、10代なの?」
「言わなかったけ?」
碧さんが聞く。
「23歳だって言ってたよね?」
「16歳だよ」
碧さんはガックリと肩を落とす。
「お前、嘘ついたんだな」
「まぁね。でもそう言わないと。アオちゃんとホテルに来られないからさぁ。アオちゃんって、カッケーじゃん。一度お味見してみたかった。もう一度会ってくれるか、もしくはお小遣い少しくれたらいいよ。訴えないよ」
碧さんが財布を出した。
「最悪! 脅迫かよ!」
1万円渡す。
女が、両手の指で、お札を引っ張りながら見る。
「サンキュー」
碧さんがベッドから降りて、立ち上がった。
「じゃ、さよなら」
女が言う。
「また会おうよ」
碧さんが言う。
「嫌だよ。会いたくないから金やったんだ。おまえみたいな女。キショい」
女が笑う。
「ウケるぅ」
碧さんが馬鹿にしたように言う。
「勝手にウケていろよ」
「そうするぅ」
碧さんが部屋を出ると、女がポツッと言った。
「嘘だよ。18歳だよ。バーカ。マジ性格悪いなぁ。アオちゃん。でもカッケーなぁ。くそぉ、もう1回会って、したかったなぁ」
碧さんは、そんな女の独り言も知らず、ラブホを出る。
そして携帯を見る。
もう25時を回っていた。
1人になった碧さんは、麻さんが気になって仕方ない。
「大丈夫だろうか? 意識は戻っただろうか?」
つい碧さんの指が、携帯電話の上で動く。
そして、その指は止まらない。




