表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/82

洋さんの怒り


 後ろ倒しになって、地面に頭を打った麻さんに、洋さんが驚いて、即座に麻さんの顔付近にしゃがみ込む。

 そして声を掛けた。

 「麻さん、大丈夫? おい麻さん!」

 しかし反応が薄い。


 洋さんが碧さんを見た。

 「何をするんだ」

 碧さんが言う。

 「無視するからだ。麻さんに話があるのに。俺を拒否したからだ」

 洋さんが睨みつけながら、救急車を呼んだ。


 洋さんが電話し終わって碧さんに言う。

 「好きなの? 碧さんは、まだ麻さんを好きなの?」

 碧さんが身勝手に言う。

 「好きだよ。だから洋さん、別れてよ。麻さんと別れてよ」


 洋さんは怒っていた。

 「好きなのに。なんで麻さんに乱暴するの? 後から引っ張って気絶させるの?」

 「言う事を聞かないから、仕方ないだろう? 言うことが聞けないなら躾けないと駄目だろう?」

 その時車のエンジン音と、ヘッドライトの明かりが見えた。

 洋さんが麻さんを、お姫様抱っこして、道の脇に移動した。


 洋さんは麻さんを抱きかかえながら言う。

 「碧さんは、麻さんを好きで、大事に思うんだろう?」

 「ああ、好きだ。俺は洋さんとは比べられないほど、麻さんを好きなんだ」

 洋さんが碧さんをぐっと見る。

 「だったら、こんな事できないだろう? 好きで大事なものを、傷つけたり出来ないだろう。大事で大切なら、労って優しくするのが本当だろう? 大切な人になんでこんな事をするの? 大事な人が間違えたくらいで、大事な人を傷つけたり、殴ったり、乱暴したり出来ないだろう? それって本当に愛しているの?」


 碧さんはキッパリと言う。

「洋さんがどう考えようが勝手だ。俺には俺の考えがある。俺は麻さんが好きなんだ。麻さんがそれを分かってくれない。だから俺は麻さんに分かって欲しくて……」


 洋さんが軽蔑した様に言う。

 「結局それって、麻さんの為じゃなく、碧さんのためにそうしているんじゃないの? 好きな人の気持ちを尊重してあげるのが本当だろう? 俺には麻さんが碧さんを怖がっている様に見えたよ」


 洋さんの言葉を遮るように、救急車のサイレン音が響いてきた。

 赤いランプの、チカチカする、目に差すような光が、うるさく闇を照らした。

 洋さんは喋るのを止めた。

 洋さんは救急車が見る。


 救急隊員が、麻さんの目の中を見て、救急車に麻さんを乗せた。

 洋さんも麻さんと救急車に乗り込んでしまう。


 少しの間、救急車はその場にとどまっていたが、すぐにチカラ君と碧さんを置いて、行ってしまった。


 救急車を見送りながら、チカラ君が碧さんに言う。

 「お前、カッコ悪いぞ。しかも麻さんに何かあったら、警察に捕まるぞ」

 碧さんは泣いていた。

 「なんだ、碧さん、泣いているの? なんで泣くんだよ」

 碧さんが言う。

 「俺、何やっているんだろう……。気絶させる気じゃなかったんだ。ただ麻さんに、洋さんと一緒に、行って欲しくなかったんだ」

 

 チカラ君が情けなさそうに碧さんを見た。

 「麻さんなんて何処が良いんだよ。碧さんと洋さんで取り合うほどの女かよ。対して美人でもないし。香菜さんなら分かるけど」

 碧さんが震える。

 「好きなんだ。仕方ないだろう」

 チカラ君が考えながら言う。

 「俺には理解できないよ。あんな女。碧さんにはつり合わないだろう? 碧さんは俳優みたいに顔はイケてるし、モデルみたいな体しているしさ。麻さんくらいの女なら、そのへんにいくらでも転がっているぞ」

 碧さんがポソっと呟いた。

 「そうだけど……」

 チカラ君の説得が続いた。

 「もう、諦めろよ。碧さんはモテるし、女には不自由しないだろう? なんであんなしょぼい女に固着するんだよ。地味だしさぁ。湿っぽいしさぁ」

 余計に碧さんが泣く。

 

 チカラ君が慰めた。

 「自分のモノにならないから、欲しいだけだと思うぞ。手に入ったら、きっとすぐ要らなくなる。人のものだから欲しいだけだ」

 碧さんが更に泣く。それでチカラ君が言う。

 「おい、泣くなよ」

 碧さんが頷く。

 「俺、チカラ君がいてよかった。こんな時は、友達がいて良かった。いなかったら、俺……」

 

 碧さんはこう続けたかった。

 きっと洋さんを殴って、麻さんを奪って逃げたと思う。


 碧さんは言う。

 「チカラ君がいたから、俺は今回なんとか、踏みとどまったと思う」

 チカラ君が上向いて考える。

 「あれ以上碧さんが意地を張ったら、俺が碧さんを殴って担いで逃げていたよ。麻さんは、あのくらいなら軽い脳震盪だろう。気にするな。後で兄貴には、俺も一緒に謝ってやるからさぁ」


 碧さんの脳裏に、良が浮かぶ。

 そして碧さんの体中に寒気が走った。


 碧さんは青ざめた。

 「俺、殺されるかな?」

 チカラ君が言う。

 「兄貴は碧さんを、殺しはしないが……」

 碧さんがチカラ君を見る。

 チカラ君は気の毒そうに碧さんを見た。

 「兄貴は、香菜さんにDVしてた元カレを、山に捨てたぞ。兄貴は麻さんをめっちゃ可愛がっているんだ。少しは覚悟しておいた方がいい」

 碧さんはガックリと肩を落とした。


 チカラ君が言う。

 「だからもう、麻さんには手出しするな。約束しろ」

 碧さんが力なく言う。

 「ああ……」

 チカラ君が言う。

 「それよりさぁ。まだ22時だし。その辺の女の子、ナンパしに行こうぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ