洋さんも退院して、東京にまた戻って行きました
洋さんも退院して、東京にまた戻って行きました
洋さんも退院して、東京に戻っていった頃。
香菜さんが麻さんの家を訪ねてきた。
香菜さんに麻さんが聞く。
「それで結局、お兄ちゃんと付き合うことにしたの?」
香菜さんがうなずく。
「私の兄の何が良かったの?」
「何って、全部よ」
「いつから好きになったの?」
「康ちゃんの蹴りから守ってくれた時からかな。あの時から、好きになったんだと思う」
麻さんは目を丸くして言う。
「へぇ、そうなんだ。でもどうするん?」
麻さんの唐突な質問に、香菜さんは何を聞かれているのかわからない。
「どうするって、何が?」
「また南央美さんが現れたらさぁ。お兄ちゃんは南央美さんだけは、逆らえないよ。南央美さんは只者じゃないからさぁ」
香菜さんが意思表明をする。
「今度は、良ちゃんがちゃんと言ってくれると思う。私は良ちゃんを信じている」
麻さんは。香菜さんの気迫に押される。
「マジかぁ。あの兄を信じるのかァ」
香菜さんの言葉に力が入る。
「マジ、マジ、マジ。私は信じるよ」
今度は、香菜さんが麻さんに聞いた。
「ところで麻さんも洋さんと仲直りしたじゃない?」
「うん」
「でさ、結局。あの変態アプリまた入れ直したの?洋さんがしつこかったじゃん?入院中、アプリ入れてって、言い続けてさ。私正直、洋さんに引いた」
「保留中だよ。香菜さんに言われて、確かにおかしいかもって思った」
香菜さんが安心したように言う。
「だよね。でも、洋さんのことは、なんで許したの?」
麻さんが言う。
「別に許したわけじゃないの」
香菜さんが眉をひそめる。
「え?それじゃ、許してないの?」
麻さんが言う。
「事実として受け止めることにした」
香菜さんが言う。
「洋さんの言い訳を、そのまま事実として受け入れたの? そんな寛大なこと出来たの?」
麻さんが言う。
「うーん。出来たと言うか……。多分洋さんの話は本当なんだなって思ったんだよ。それに、晴海さんの件は、だんだんどうでも良くなってきちゃって。私は洋さんがいないと、心がキツイし。私は、大好きな洋さんに、丸ごと受け入れて愛してもらっていないと駄目みたい。だから私の全部を、丸ごと受け入れてくれる洋さんの言葉を、私も丸ごと信じてみようと思ったの」
香菜さんが言う。
「駄目だ。全くわかんない。でもさ、洋さんの言い分は、私も本当だと思うよ。今回は浮気じゃなかっと思うよ。相手は洋さんが好きだったと思うけどね」
麻さんが言う。
「そうなんだよね。そこなんだよね。そこが嫌なんだよね」
香菜さんが言う。
「男はすぐ、そう言う女に騙されるからね」
香菜さんが、更に質問した。
「それで、どうするの? 指輪もらったわけだし。結婚のほうはさ」
麻さんが浮かない顔で言う。
「結婚は、いつかはしたいと思う。思うけど……。保留してもらっているんだ」
「へぇ。洋さんよく保留で納得したね」
「洋さんが冷静な時に話をしたら、今度はちゃんと話を聞いてくれた。それで、プロポーズのタイミングも、浮気疑惑じゃ嫌だって言ったら、納得してくれた。洋さんはロマンチストだから、やっぱりプロポーズはロマンチックじゃなきゃ駄目だよねって言ってた。でも一番の理由は、そこじゃないんだよね。私が結婚をためらう理由は」
香菜さんが不思議そうに聞いた。
「なんなん?」
「私ね。子供を産んで育てる自信がないのだよ。私、子供をどう育てて良いか見当もつかないのだよ。子供との距離感がわからないんだよ。何処まで叱って、そこまで褒めたら良いか分かんなくて……。私、自分がママみたいになるんじゃないかって思うと、不安なんだよ」
香菜さんが悲しげな顔で言う。
「それは私も同じかも。でも結婚したら子供産むって法律はないんだから。気楽に考えたらいいんじゃない?」
麻さんが言う。
「でも、洋さんは子供欲しいんじゃないかな?」
「そんなの、洋さんに聞かなきゃ分かんないよ。聞いたの?」
麻さん言う。
「チラッと言ったけど。あの様子では聞いてなかったのではと……。言うタイミングが良くなかったみたいで。なんか洋さん興奮してたから」
物悲しそうな顔で麻さんがうつむく。
香菜さんが麻さんを抱きしめた。
そして言う。
「私の大事な麻さん。洋さんが冷静な時に話してみなよ。洋さんは私らより賢いから、きっとこの問題も一緒に考えて、解決してくれるよ」
麻さんも香菜さんを抱きしめかえした。
「ありがとう。私の大切な香菜さんも、お兄ちゃんと幸せになって。お兄ちゃんを宜しく。お兄ちゃんは頼りないから」
香菜さんが言う。
「麻さんは知らないと思うけど。守られているのは、私の方なんだよ。良ちゃんは、頼りがいのある人なんだよ」
麻さんは考える。
頼りがいのある兄について。
麻さんには、兄と頼り甲斐が結び付かない。
麻さんには、よほど洋さんの方が頼り甲斐がある。
麻さんが思い出して聞く。
「ところで、香菜さん。お兄ちゃん、ほら夜はどう? 大丈夫だった?」
香菜さんが薄く笑った。
それから香菜さんが言う。
「もう、兄妹で情報が筒抜けで、怖い」
「でも、わたしと香菜さんも筒抜けだからさぁ。仕方ないよ」
すると香菜さんも言う。
「そうだね。私と洋さんも筒抜けだしね。仕方ない」
麻さんがもう一度いう。
「仕方ない」
麻さんと香菜さんが顔を見合わせた。
二人は大笑いする。
「あはははは」
「あはははは」
香菜さんが笑うのを唐突に止めて言う。
「笑い事じゃないって!」
麻さんが香菜さんに言う。
「だよね」
また揉めそうな予感を残して。
麻さんの一人暮らしは、まだもう少し続く。
――――――――第2章 fin――――――――
3章に続く。




