やっぱり、ボイラー壊れてました
兄を交えて、母親と話し会った週末に、麻さんは引っ越した。母親の機嫌が悪くて、一緒に住んでいられなかったからだ。引っ越しと言っても、実家から持ち出す持ち出す私物は、たいした量ではないから、麻さんの軽自動車で2回も往復したら終わった。
そして引っ越したその日のことだった。
麻さんが洋さんに電話した。
「洋さん、ちょっと悪いが、うちに来てくれないだろうか?」
洋さんが理由を聞いた。
「どうして?」
麻さんが心細そうに言う。
「風呂のボイラーが壊れていて。修理呼んだけど。たぶん男性が来るから。少し不安。1人だと不安で……。兄や香菜さんは仕事だし」
「やっぱり壊れてたのか?行く。すぐ行く」
そして本当に洋さんはすぐ来た。
麻さんが感心して言う。
「早かったね」
得意げに洋さんは言う。
「そりゃそう。流石俺!」
「ありがとう。来てくれて」
「いつでも呼びたまえ。友達だろう」
麻さんが笑顔で言う。
「そうだね……。ありがとう」
洋さんは、笑顔の麻さんを、嬉しそうに見つめた。麻さんの笑顔には、ちょっとだけ寂しさが混じっていた。でも洋さんはそれに気が付かない。
程なくして修理の男がやってきた。そして見積もりを出してきた。
「ボイラーとコントロールパネルで、15万から20万ですね」
麻さんはビックリして、つい言ってしまう。
「高っか!」
修理の人が済まなそうに言う。
「でも、作業込みなんで、これでも安いほうだと」
麻さんは、悪いことを言ったと思いながら、指差す。
「あ、そうですよね。じゃ、これで」
修理の人が言う。
「では、修理を始める前に、前払いでお願いします」
麻さんが困ったように聞いた。
「カードで良いですか? 現金で、今16万も置いてないので……」
「あ、はい、大丈夫ですよ。じゃ、カードリーダー持ってくるんで、待っていてください」
作業員が家の外の作業車に戻って行く。
洋さんが心配して聞く。
「大丈夫なのか?金はぁ。家電やら、事前の台所の修理で、だいぶ金が飛んだんだろう?」
暗い顔で麻さんが言う。
「まぁね。明日からもやし生活だな」
洋さんが財布を出した。
「俺が払ってやるよ」
麻さんが、驚いて、そして遠慮した。
「いいよ」
「いや払う」
そう言われて、麻さんは洋さんの顔をみる。
洋さんが本気で言っていると、麻さんは思う。
「じゃ、貸して。後で返すよ」
「別にいいよ。返さなくて良いんだ」
麻さんは力を込めて言う。
「ボーナス出たら、全部返すから。絶対だから」
そこまで言われて、洋さんも金は貸すことにした。
「分かった。じゃともかく立替るよ」
「ありがとう。本当はかなり苦しかった」
「そっか、良いんだ。辛い時は頼れよ」
「うん、ありがとう。必ず返すから」
そこに作業員が戻ってきた。
「じゃぁ、旦那さん。支払いお願いします」
そう言われて、洋さんがカードを差し込んだ。