洋さんと麻さんの恋の行方
洋さんが麻さんに指輪を渡した後。
洋さんは消えてしまった。
全く音沙汰なく。
ライン1つ送って来なかった。
流石に麻さんも、今度ばかりは電話したり、ラインしたのだが、音沙汰がない。
麻さんには、指輪をくれた日の洋さんが、理解不能だ。どう接したら良いのか見当もつかない。
そして指輪を置いていった日から4日後だった。
麻さんは兄に、実家に呼び出された。
麻さんが実家に行くと。
洋さんがソファに寝ていた。
しかし洋さんは変わり果てた姿をしていた。
ヒゲが茫々で。
髪はボサボサ。
服はボロボロで、汚れていた。
いつもの清潔感漂う洋さんではなかった。
麻さんが驚いて言う。
「一体どうなって、そんな姿に……。しかもなんか臭いよ。お風呂入っているの?」
兄が洋さんの代わりに言う。
「熱が高いんだ。風呂に入るのは無理だろう?」
麻さんは洋さんが心配になる。
「熱って……」
兄が説明する。
「洋さんが公園のベンチで寝てたから、俺が拾って来たんだけど。体が熱くて、熱を測ったら38度8分だった。今解熱剤を飲ませたところだ。俺は今からまた店に出るから、麻さん、洋さんを頼む。洋さんの実家も行ってみたけど、誰もいないんだよなぁ。洋さんは、実家の鍵も持ってないし」
何でも拾ってくる兄は、洋さんも拾ったのだった。そして、拾ったが、面倒は見られないから麻さんを呼んだわけだ。他意はなかった。
そして兄は、自分が最も気になる美容室へ行ってしまった。
麻さんが洋さんをみた。
「なんで公園で寝たの?」
「さぁ。気がついたら寝ていて。昨日は、電話ボックスで寝たかなぁ。居酒屋で酒を飲んで、帰りにコンビニで酒買って飲んで、記憶を失ったら、公園のベンチだった……」
「そんな場所で寝るから、熱が出たんでしょう?」
しょんぼりとした顔で洋さんが言う。
「そうかも……」
麻さんが洋さんに聞いた。
「どうしてあれから連絡してこなかったの? 連絡しても出ないし」
「携帯はバッテリー切れて」
それを聞いて、こんな状況では、充電が出来なかったのだろうと、麻さんも納得した。
そして麻さんは立ち上がった。
麻さんが台所に行こうとした。
その様子を見て、洋さんが言う。
「何処に行くの?行かないで」
麻さんが答える。
「体を拭いたほうが良いでしょう?後お兄ちゃんの服を借りてくるよ。そのままじゃ汚すぎるから」
麻さんが、洋さんをゴミでも見るように言う。それで洋さんが言う。
「だったら、俺シャワー浴びるよ。綺麗にする」
麻さんが、洋さんをとめる。
「いやでも、熱がそんなに高くちゃ、お風呂は無理だよ」
「大丈夫、俺綺麗にするから。ねぇ、麻さんそんな目で見ないで。俺を嫌いにならないで」
そう言うと、無理やり洋さんはシャワーを浴びた。
洋さんがシャワーを浴びている間に、麻さんは思う。
――私は、一体何をやっているんだろう?――
そしてシャワーを浴びて、綺麗な格好に着替えた洋さんは、やっぱり爽やかな洋さんだった。
爽やかな洋さんが言う。
「もう、許して……」
麻さんが洋さんをみる。
洋さんの長い睫毛が揺れていた。
洋さんがくり返し言う。
「嫌わないで……」
麻さんは思う。
――ずるい――
爽やかな顔で、犬が怒られた時、可愛く飼い主を見るみたいな顔して、洋さんが麻さんを見つめていた。
その可愛い洋さんが言う。
「俺が悪かったんだ。好きなのは麻さんだけなのにぃ……」
洋さんがしょんぼりとしている。
麻さんが、その様子を見て言う。
「もう、洋さんは、ずるいんだから」
洋さんが言う。
「何が? 俺は、なにかずるかった?」
麻さんが言う。
「顔がずるい」
洋さんが驚いたような顔で言う。
「顔? 顔がずるいって言われても……。顔は直せないだろう? ねぇ。許してくれよ。俺を捨てないで。何でも直すし、何でも言う事聞くから」
麻さんが言う。
「なんだか、バカバカしくなってきた」
洋さんが聞いた。
「どう言う意味?」
根負けして麻さんが言う。
「もう、いいよ。全部飲み込む事にする。こう言うことがあった事実を、単に事実として、あったって事にする」
洋さんが尋ねる。
「どう言うことなの?」
麻さんが言う。
「洋さんが、晴海さんの世話をした事実はあった。でもそこに感情的な意味はなかった。だから、この件は、許すとか、許さないとかじゃないの。何もなかったんだから、ゆるしようもないでしょう?」
麻さんは思ったのだ。
多分、洋さんの話は、本当になのだと。
洋さんの捨て身の行動を見ていると、そうとしか思えなかった。
麻さんを洋さんは好きすぎて、おかしくなっているようにしか、麻さんには見えない。
だとしたら洋さんは本当に、晴海さんに対して、同情の感情しかなかったのだと、麻さんは思った。
洋さんは同情で、恋愛感情は一切なく、身寄りのない女性を世話しただけなんだと。
色々疑ったり、麻さんに非があったのではないかと、麻さんは思ったりしたが。
今日の洋さんの様子をみたら、たぶん、それは下衆の勘ぐりでしか無いと、麻さんは思った。
だから今回は、麻さんは、洋さんの言い分をそのまま受け入れることにした。
でも、そうだとしても、それでも、やっぱり麻さんは傷ついたけれど。
洋さんが考えながら言う。
「麻さんは難しいことを言うなぁ」
洋さんのこの一言に麻さんは、ムッとした。何故なら、先に難しい言い訳をしたのは洋さんなのだ。その洋さんの難しい言い訳を、そのまま受け入れると、麻さんが今言っているのだ。
なのに洋さんは、麻さんが難しい事を言うと、言い放った。
それで麻さんが、きつい口調で言う。
「でももう2度と同じことしないで」
洋さんが約束する。
「うん、もう絶対にしない」
麻さんの口調は厳しい。
「私を不安にさせないで」
「うん、絶対にさせない」
麻さんが訴える。
「洋さんの愛がないと、私は私じゃ無くなってしまう」
洋さんには意味がわからない。
「どう言う意味?」
「洋さんに愛されて、私は私でいられるの。洋さんが私を丸ごと愛してくれるから、私はこんな自分でも存在していていいんだって思えるの。でもそれを言うのは洋さんじゃなきゃダメなの。洋さんが言ってくれるから、私は信じられるの」
麻さんの訴えに、洋さんが頷く。
麻さんが続けて言う。
「私の大好きな洋さんが、麻さんを好きだよって言ってくれるから、私も私が好きになって行くの。洋さんが全力で私を愛してくれるから、私は私のままでいられるの。そして全力で私を愛してくるのは、洋さんじゃなきゃダメなの!」
洋さんが困って言う。
「わかった。もう分かったよ。麻さん」
麻さんが強く言う。
「洋さん、愛してる。もう他の女の人に同情でも優しくしないで」
洋さんは再び約束した。
「分かった。本当にもうしない。俺も麻さんを愛してる」
麻さんから洋さんに顔を近づけ、キッスをした。2人は、お互いの愛を確かめるように、唇を重ねた。
許しのキッス。
謝罪のキッス。
愛を確かめ合うキッス。
王子様とお姫様の魔法のキッス。
そしてそっと2人は唇を離す。
唇が離されて、麻さんは恥ずかしそうに俯いた。洋さんはそんな麻さんを、覗き込むように見つめて微笑んだ。そして満面の笑みを浮かべて。
倒れた。
麻さんが驚いて、兄を呼んだ。
兄が車を出して、病院に洋さんを運んだ。
そして洋さんは1週間入院する羽目になった。
肺炎だった。




