表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/82

会いに来ないので、会いに来ました


 兄が美容室の朝のオープン準備をしていると、香菜さんがやってきた。

 香菜さんが兄に言う。

 「南央美さんと私が美容室で揉めて以来、兄さんは、ずっと会いに来てくれないし。メッセージも未読無視だし。私から、会いに来たよ」

 「香菜さんと、俺が会うの、気不味いだろう?」

 「なんで?」

 「南央美のことがあってさ。迷惑かけてさ」

 「別に良いよ。それで、南央美さんはどうなったの」

 

 「消えた」

 「消えたって?」

 「またいなくなったんだ。俺が南央美に、お前はもう女に見えない。セックスはしたくないって言ったんだ。それに南央美が怖いと言ったら。次の日消えてた」

 「それは、なんとも。すごいことを言ったわね」

 「だよなぁ。そう思う」

 

 香菜さんが聞いた。

 「ところで、私たち、これからどうするの?」

 香菜さんは南央美が現れる前に、戻れることを期待して聞いた。

 しかし兄の答えは違った。

 「これからは距離を取ろう。おかしいだろう?入院以来、香菜さんとは、一緒にいすぎたよ。俺の世話をしすぎだ」

 更に、兄が言う。

 「俺たちはそもそもビジネスパートナーだろ。俺は、今まで通りに美容室を営んでいく。儲けが出たら、香菜さんに取り分を渡す。それだけの関係だろう? もちろん共同経営しているんだから、ビジネス部分で意見があれば言い合うだけだし、協力するけど」

 

 香菜さんは、そんな話は聞きたくなかった。それで話題を変えた。

 「通帳と印鑑はどうなったの?」

 「南央美と共に、消えたから。南央美が、持って出たんだろう」

 「子供は?」

 「子供も消えた」

 「全部なくなったんだね」

 「ああ、全部なくなった。さぁ、帰って」

 「え? 私のことを追い返すの?」

 

「入院してから南央美が現れる前まで、ずっと香菜さんといただろう。俺はあの時の幸せな時間が忘れられないんだ。香菜さんには単なるお礼の気持ちだったのは分かるけどさ」

 

 香菜さんは、今度は兄の話を、黙って聞いている。


 「南央美と暮らして、香菜さんとの楽しかった日をと、比べちゃって。香菜さんとの日々を思い出しては、悲しくなってさ。俺やっぱ、香菜さんが好きみたい。だから期待させないで欲しいんだ。俺単純だから、すぐその気になちゃう……。俺単純だから。香菜さんの複雑な、恋愛に対するスタンスも、俺はやっぱり理解できないし。だったらビジネスだけだって割り切りたいの。それにビジネスの関係なら、距離置いて付き合った方が良いでしょう?」

 香菜さんは、ただ立ち尽くし、出ていく様子がなかった。

 兄が立ち上がる。

 「香菜さんが出ていかないなら、俺が出ていくよ」

 「なんで?」

 「一緒に二人きりでいたら、どんどん好きになって、そのうち自分を抑えきれなくなる。香菜さんにその気がないなら、もう俺の世話は焼かないでくれよ。俺の気持ちを持て弄ばないで欲しいんだ。俺たちの関係が、半端な状態でずっと続いていくのは辛いんだよ。はっきりしない状態が延々と続くのは勘弁して欲しい」

 

 兄は香菜さんを見ようとしない。そして兄は美容室を出て外に行ってしまう。

 香菜さんは、兄の後ろ姿を見送った。


 すぐに従業員の男の子がやってきたので、香菜さんはその男の子に店をたくして、美容室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ