洋さんを尾行してみました
日曜日の朝に香菜さんが、洋さんのアパートを訪ねてきた。
洋さんが聞く。
「あれ香菜さんも来たの?」
香菜さんが満面の笑みで言う。
「そう、なんか久しぶりに東京で遊びたくなったから。洋さんや、麻さんと一緒に東京見物でもしようかと思って」
洋さんがにこやかに言う。
「そうだな。3人で東京を回ったことないな。行くか」
その時だった。
洋さんの携帯電話がなった。
病院からだった。
洋さんが電話に出る。
そして電話が終わると洋さんが、暗い顔で言う。
「病院で友達が暴れている。リハビリ室で暴れているみたいで……。俺これから病院に行くよ。悪いけど、観光は2人でしてきて」
香菜が頷いて言う。
「分かったわ」
洋さんが悲しげに言う。
「後で落ち合おうよ。病院で用事済ませたら、電話するよ」
香菜さんは洋さんが着替えている間に言う。
「私達も、洋さんが出かけたら、すぐ出るわよ」
麻さんが不安げに聞く。
「どこに行くの?」
香菜さんが言う。
「追うのよ、洋さんの後を追うわよ」
麻さんが戸惑う。
「そんな事……。なんか疑っているみたいで……」
香菜さんが力強く言う。
「でも、行くわよ。はっきりさせないで、もしもの事があったらどうするの?取り返しがつかなくなるよ」
洋さんは着替え終えて言う。
「じゃ、行ってくるよ。2人は観光を楽しんで来て。後で連絡するからさ」
香菜さんがニッコリ笑って答える。
「分かったわ。友達によろしく伝えて」
そして、麻さんと香菜さんは、洋さんの後をつけた。
大体の行き先は、追跡アプリのお陰で、分かっていた。
香菜さんが麻さんに言う。
「しかし、こんな変態アプリをよく入れさせたよね?」
麻さんが困ったように言う。
「う……ん、だって心配だって言うから」
香菜さんがアプリを見ながら言う。
「でもお陰で、洋さんの居場所も分かって良いけど。昨日も太平総合病院にいたんでしょう?」
麻さんがうなづく。
昨日と同じく、洋さんは太平総合病院に入っていく。
香菜さんがワクワクしたように言う。
「友達が誰なのか、楽しみね」
麻さんの顔は、香菜さんと違って、不安げだった。麻さんはその友達が男であってくれと願った。
そしてその答えは。
すぐそこだ。
麻さんに不安が襲う。
麻さんは思う。
(まさかそんなはずはない。洋さんに限って、浮気なんかするはずがない)
麻さんは元カレの浮気を思い出す。元カレの碧は言った。
『麻さんが悪いんだよ。俺を浮気させて、麻さんのせいだ』
碧はこうも言った。
『だから、許して。俺の浮気。所詮浮気で、本気じゃないんだよ。本カノとセフレは全く違うんだよ。麻さんはセフレじゃないんだから、セルレの事なんか気にしちゃダメだ』
麻さんが訴えた。
「見たくない。見てどうするの? 香菜さん」
香菜さんが言う。
「決まっている。ちゃんとするのよ。じゃないと皆んなが不幸になる」
麻さんが聞く。
「不幸って……。何で? 現実を見たほうが不幸になるんじゃないの?」
香菜さんが断言した。
「それは違うよ。麻さん。これを放置したら、皆なが不幸になるよ。麻さん」
麻さんが言う。
「それにさ。本当に、洋さんの単なる親切だったら……」
香菜さんが言う。
「そう思うの? 麻さん。それに、洋さんには単なる親切でも。相手がもし女なら、そう思うと思う?」
麻さんは答えられない。
香菜さんが言う。
「もし、洋さんが面倒を見ているのが、身寄りもなくて、まだ若いのにリハビリが必要な女性だったらだよ。私がその女性の立場なら、洋さんを絶対に手放さないよ。洋さんだって、その女との時間が過ぎるほど、関係も深くなって情も沸くのよ。どうするの、洋さんがその女とも、麻さんともズルズルになったら」
香菜さんが言う。
「さぁ! 行くよ!」
麻さんは思った。
(もう自分にはどうしていいかわからない。ただ状況に流されるだけしかできない)
麻さんは香菜さんの勢いに押されて、洋さんの後を追った。




