香菜さんは自分の立場を表明しました
南央美さんが現れた日の、夜だった。
香菜さんは、お店を早上がりして、麻さんの家に来た。
麻さんは事情を聞いて驚く。
「え?南央美さんがお店に来たの?」
「来た」
「お兄ちゃんは、その時どんな感じだった?」
「困っていた様子だったけど……。南央美さんを、受け入れてる感じだった」
お兄ちゃんらしいと麻さんは思う。それでため息をつく。
「はぁ……。お兄ちゃんらしいね。南央美さんには何も言えないから」
香菜さんが通帳と印鑑を出した。
「なにこれ?」
「南央美さんが私に、店から手を引くように言って、私にくれたんだけど。お兄さんに返しておいて」
通帳を受け取りつつ、麻さんが聞く。
「え? 返すの?このお金受けとって、共同経営を辞めるんじゃないの?」
香菜さんがキッパリ言う。
「私は共同経営者も出資者も辞める気がないし。それに出したお金は900万じゃないし。もっと出資しているし」
麻さんには理解出来ないので聞いた。
「え?もっと出しているのに、嘘ついたの? なんで?」
香菜さんが苦しげに言う。
「南央美さんが持ってる1000万より、兄さんの私へ借りが多いって、南央美さんにバレると、兄さんが可哀想でさ」
麻さんは意外な理由に驚く。
「香菜さん、お兄ちゃんを気遣ったんだぁ」
香菜さんの表情がしずむ。
「ともかく。お兄さんが家を担保にして借りたお金を、この通帳の金から返してもらったほうが良いと思って。兄さん個人の借金が軽くなれば、少しは兄さんの気持ちも、楽になるでしょう?」
麻さんが心配して言う。
「南央美さんはどうするの?」
香菜さんが吐き捨てるように言う。
「そもそも、南央美さんは店には無関係な人だし。私には関係ないわ。私はお兄さんと男女関係はないし。ビジネスの関わりだもの。何もやましくなもの」
麻さんには南央美が納得するとは思えない。
「その理屈は、南央美さんに通じるかな?」
香菜さんはきっぱりという。
「通じても、通じなくても、どうでもいい。私はお兄さんの側にいるし、世話をする。絶対兄さんから離れない! 美容室は私と兄さんのものよ。南央美さんは全く関係ないもの」
香菜さんは意固地になっているようだった。
麻さんが一応言ってみた。
「でも、お兄ちゃんは南央美さんとよりを戻すなら……。それは結構無理がある気がするよ」
香菜さんが言う。
「でも……。兄さんは、私と仕事の話もすごく合うの。私は、今まで一人で決めて、一人で実行して、仕事をしてきたの。毎日胃が痛くなるくらい不安になりながら、本当にこれで間違いがないのか自問しながら、仕事をしてきたの。金の勘定ばかりして。こっちのお金を、あっちに回して。あっちのお金をこっちに回してみたいな。でも兄さんなら相談できて、的確な意見も言ってくれる。その上優しくて、強くて……。失いたくないの」
麻さんは、今まで知らなかった香菜さんの苦労を知った。
「分かった。渡しておくね」
そこに麻さんの電話がなった。
携帯の画面には洋さんの名前が表示された。
麻さんが電話に出る。
「うん、うん、うん、あっ……うん。じゃまたね」
「どうしたの?」
「今日電話しようって言われてたけど、何か用が出来て今から出掛けるから、やっぱり明日電話するって言っていたの」
「何の用事?」
麻さんは用事の内容を知らない。
「さぁ……」
香菜さんは呆れ顔で言う。
「ちゃんと聞かなきゃ」
「でも……」
今度は香菜さんが、麻さんを心配する。
「最近、洋さんドタキャンばっかじゃない?大丈夫なの?」
「何が?」
「洋さんと麻さんの関係よ。一度洋さんにちゃんと会って話て来た方がいいよ。ここ1月会ってないんでしょう?」
「そうだけど……。私もお兄ちゃんが入院したりしたし……。お互い様で会えなかった部分あるし」
香菜さんの第六感が働いた。
「ありえないと思う。あの洋さんだよ」
香菜さんの瞳がキラキラ輝く。
「絶対変だよ。一度洋さんに会って来なよ。どう考えても変だと思う。いつもの洋さんじゃないよ」
それは確かに麻さんも思っていた。




