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38/82

香菜さんは自分の立場を表明しました

 南央美さんが現れた日の、夜だった。

 香菜さんは、お店を早上がりして、麻さんの家に来た。

 麻さんは事情を聞いて驚く。

 「え?南央美さんがお店に来たの?」

 「来た」

 「お兄ちゃんは、その時どんな感じだった?」

 

 「困っていた様子だったけど……。南央美さんを、受け入れてる感じだった」

 お兄ちゃんらしいと麻さんは思う。それでため息をつく。

 「はぁ……。お兄ちゃんらしいね。南央美さんには何も言えないから」

 

 香菜さんが通帳と印鑑を出した。

 「なにこれ?」

 「南央美さんが私に、店から手を引くように言って、私にくれたんだけど。お兄さんに返しておいて」

 通帳を受け取りつつ、麻さんが聞く。

 「え? 返すの?このお金受けとって、共同経営を辞めるんじゃないの?」

 

 香菜さんがキッパリ言う。

 「私は共同経営者も出資者も辞める気がないし。それに出したお金は900万じゃないし。もっと出資しているし」

 麻さんには理解出来ないので聞いた。

「え?もっと出しているのに、嘘ついたの? なんで?」


 香菜さんが苦しげに言う。

「南央美さんが持ってる1000万より、兄さんの私へ借りが多いって、南央美さんにバレると、兄さんが可哀想でさ」


 麻さんは意外な理由に驚く。

「香菜さん、お兄ちゃんを気遣ったんだぁ」

 

 香菜さんの表情がしずむ。

 「ともかく。お兄さんが家を担保にして借りたお金を、この通帳の金から返してもらったほうが良いと思って。兄さん個人の借金が軽くなれば、少しは兄さんの気持ちも、楽になるでしょう?」

 

 麻さんが心配して言う。

 「南央美さんはどうするの?」

 香菜さんが吐き捨てるように言う。

 「そもそも、南央美さんは店には無関係な人だし。私には関係ないわ。私はお兄さんと男女関係はないし。ビジネスの関わりだもの。何もやましくなもの」


 麻さんには南央美が納得するとは思えない。

 「その理屈は、南央美さんに通じるかな?」

 香菜さんはきっぱりという。

 「通じても、通じなくても、どうでもいい。私はお兄さんの側にいるし、世話をする。絶対兄さんから離れない! 美容室は私と兄さんのものよ。南央美さんは全く関係ないもの」

 香菜さんは意固地になっているようだった。

 

 麻さんが一応言ってみた。

「でも、お兄ちゃんは南央美さんとよりを戻すなら……。それは結構無理がある気がするよ」

 香菜さんが言う。

 「でも……。兄さんは、私と仕事の話もすごく合うの。私は、今まで一人で決めて、一人で実行して、仕事をしてきたの。毎日胃が痛くなるくらい不安になりながら、本当にこれで間違いがないのか自問しながら、仕事をしてきたの。金の勘定ばかりして。こっちのお金を、あっちに回して。あっちのお金をこっちに回してみたいな。でも兄さんなら相談できて、的確な意見も言ってくれる。その上優しくて、強くて……。失いたくないの」


 麻さんは、今まで知らなかった香菜さんの苦労を知った。

「分かった。渡しておくね」

 

 そこに麻さんの電話がなった。

 携帯の画面には洋さんの名前が表示された。

 麻さんが電話に出る。

「うん、うん、うん、あっ……うん。じゃまたね」

「どうしたの?」

「今日電話しようって言われてたけど、何か用が出来て今から出掛けるから、やっぱり明日電話するって言っていたの」

「何の用事?」

 麻さんは用事の内容を知らない。

「さぁ……」

 

 香菜さんは呆れ顔で言う。

「ちゃんと聞かなきゃ」

「でも……」

 今度は香菜さんが、麻さんを心配する。

「最近、洋さんドタキャンばっかじゃない?大丈夫なの?」

「何が?」

「洋さんと麻さんの関係よ。一度洋さんにちゃんと会って話て来た方がいいよ。ここ1月会ってないんでしょう?」

「そうだけど……。私もお兄ちゃんが入院したりしたし……。お互い様で会えなかった部分あるし」


 香菜さんの第六感が働いた。

「ありえないと思う。あの洋さんだよ」

 香菜さんの瞳がキラキラ輝く。

「絶対変だよ。一度洋さんに会って来なよ。どう考えても変だと思う。いつもの洋さんじゃないよ」

 それは確かに麻さんも思っていた。

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