共同経営者になりませんか?
何度目か、香菜さんが見舞いに来たときだった。
この間会った男たちと違うメンバーが見舞いに来ていた。
香菜さんが会釈をした。
香菜が男たちを見回す。
香菜は数を数えた。すると7人いた。
すると、男たちが挨拶する。
「ちーす」
「こんちわ」
「こんにちは」
「いやぁ、美人だなぁ。良輔さん、南央美さんとは偉い違いですね? 美人だなぁ」
「おい、南央美さんの話は、香菜さんの前ではやめろよ」
「あ、ごめん。ごめん、良ちゃん」
「香菜さんが来たんだ、帰るぞ。お邪魔だろう?」
兄が言う。
「良いんだよ。香菜さんとはそんな関係じゃないんだ」
男の一人が笑う。
「今はだろう? そのうちそう言う関係になるんだろう?」
男たちは、何が面白いのか、大爆笑した。
「じゃ、良ちゃん。元気そうで安心したわ。今度の大会は出られないだろうけど、打ち上げは出てよ」
兄が尋ねた。
「何処でやるの?」
「それがさぁ。50人も入って、そこそこ美味しい店がないのよ」
「俺等普通の体型じゃないでしょう?嵩張ってるから。いま探してるから待っていて」
兄が言う。
「駅前のスポーツバーは駄目なの?」
「俺たちこれから本気出すチームに、先に予約を入れられちゃったんですよ」
兄が嫌な顔をした。
「ああ、俺だ。ごめん。この間そのチームの奴らに、良い店ないか聞かれてさぁ」
「まぁ、いいですよ。探しますよ。じゃ、香菜さん、良ちゃんを宜しくね」
「よろしくね」
そう言って男たちは病室を出ていく。
香菜さんが兄に言う。
「友だちが多いんですね」
兄が言う。
「ああ、俺は子供ころから、柔道やって、空手して、スイミングやって。今はフットサルもしているでしょう? だからじゃない?」
香菜さんが言う。
「そうなんですか?」
「そうそう」
そこに看護師がやってきた。
「良ちゃん、はい、今日の分の薬だよ」
「ありがとう。のんちゃん」
「あ、それとこれ、美味しいやつね」
のんちゃんが飴を置く。
「いいの?くれるの?」
「いいのよ。じゃ、行かないと。また夕方検温にくるから」
「ああ、またね」
「あの件、お願いね」
「はいはい。分かった」
「じゃぁね」
看護師が病室を出ていく。
香菜さんが兄に聞く。
「あの件って何ですか?」
「え? ああ、合コンだよ。なんかさ、俺の見舞いに来てたチカラ君が気に入ったらしくてさ。合コンして欲しいんだって」
香菜さんがチカラ君を思い出す。
「ああ、あの中で一番カッコ良かったぁ……」
兄が不満げに言う。
「え? 香菜さんもそう思うの? なんでチカラはモテるのかなぁ? 筋肉が少ないのになぁ。弱そうだし」
香菜さんが吹き出す。
「兄さん、女にモテる基準がズレてますよ」
「そうなの?」
「そうですよ」
それから、多少回復した兄が、申し訳無さそうに言う。
「なんだか、もうだいぶ回復してきているのに、こさせて申し訳ないよね」
ベッドで点滴を打つ兄に、香菜さんが言う。
「元々、私が原因だし。面倒くらい見させて欲しいから。気にしないで大丈夫です。何か必要な物ありますか?」
兄は、香菜さんが買ってきて揃えてくれた品々を、思い浮かべて言う。
「もう充分だよ。もう気にしなくていいから。それに……」
兄が、言いよどむ。
言いよどむ兄に香菜さんが「何ですか?」と、言い淀んだ続きを聞いた。
「俺は、もともと香菜さんのファンだろう?康ちゃんを山へ捨てた日に、ちらっと話したけど。だからさ。あんまり親切のされると俺は誤解しちゃうだろ。俺は香菜さんに本気なってしまうよ。ああ、分かっているんだ。謝罪の意味で親切にされてるくらい。でもぁ、やっぱり期待しちゃうだろう?だからもういいよ。このへんで充分だから。明日からもう来なくていいよ。麻さんに頼むから」
香菜さんが、寂しそうに言う。
「そんなぁ。私まだ充分お礼をしていないんです。私はお兄さんのお世話をしたいんです。側にいさせてください」
兄には香菜さんの気持ちが重い。
「側にって……言われても……」
香菜さんは、もうこの話はしたくない。だから話題を変えた。
「ところで、お兄さんは本当に、私のファンなんですか? それって、私を好きって事ですか?」
兄からそんな素振りを感じたとこはまったくなかったので、香菜さんは不思議でしょうがなかった。
「俺と香菜さんは、中学高校と、同じ学校だったでしょう?香菜さんは、俺等男子の憧れの存在だったんだ。香菜さんは、タレントもしてたしさ。ご多分に漏れず俺も香菜さんファンだった」
「でもそんな素振りは全く感じなかったですよ」
「うん。だってあり得ないでしょう? 俺と香菜さんが付き合うなんて。絶対にないから、好きになっても仕方ないだろう?ただ見たら、綺麗だなとか。その程度よ。でもこうして傍にいつもいられちゃって、面倒まで見られて、その気になってしまうだろう? 実際もう好きになりそうだよ」
香菜がそれを聞いて言う。
「私の事を好きになって、私と付き合っても、意味なんてないんですよ」
「意味がないってどういう事?」
「私は、都合のいいペットみたいな男の子と、その場しのぎに付き合うだけでいいんです。深く男性と関わりたくないし、結婚もしたくない。子供も欲しくない。出来たら仕事を優先させたいんです。お兄さんはそんな女と、付き合っていけますか?」
「ちょっと、今の話は、俺には想像を遥かに超えていて、よく分からなかった」
「私は男性と深く付き合えないんです」
兄の思考回路では、もはや香菜さんの言い分が理解できない。兄は絞り出した答えが正しいか聞いた。
「セフレって事なの?」
香菜さんが寂しそうに言う。
「セフレよりは、深く。恋人よりは浅い関係でしょうか?」
兄は頭を抱えてしまう。
「駄目だ。難しい。香菜さんの話がさっぱり分からない」
香菜さんが言う。
「ところで、実家で美容室をする話はどうするんですか?」
「あれは、無理だろう。金が無いからな。実家を担保に金を借りるだけじゃ、金が足らないんだ。南央美が1000万を持っていったからな。運転資金がどうしても足らない。もうそろそろ俺も雇われ店長は辞めたんだけどさ。人を儲けさせるのもここら辺で終わりにしたかったよ」
香菜さんがスッパリ言い放つ。
「私がお金出します」
「金をだすって、どうして?」
「今回の感謝の気持です」
「それは、感謝し過ぎだろう?やりすぎだ」
「元カレの事で助けてもらったし。それで命の危機になったわけだし。それで、私も何か出来ることがないかと考えて。考えて、思いつたんです。私がお金を出して、共同で美容室を経営したらいいんじゃないかって思って」
「共同経営?」
「そう、共同経営です。それに私、あなたと何か一緒に出来たらいいなって思ったんです」
「何か一緒にって……。ちょっと意味がわからないけど?」
「助けたいんです。私、お兄さんを助けたいんです。お金を貸すことも考えたけど、それじゃ、結局返してもらうことになる。だったら出資の形を取ったら良いんじゃないかって思って」
兄は思ってもみない提案に、どうしたら良いか迷った。
「出資かぁ」
「そう、貸したら、私はお兄さんにお金を貸した人になってします。それは嫌なんです。お兄さんとは対等な関係でいたいんです。そうしてくれたら。わたしのクラブの女の子の出勤前の髪型を作る美容室を、兄さんの美容室に指定します」
「え?本当?それだけでもありがたい。でも俺が失敗したらどうする?金をドブに捨てるようなものになるよ」
香菜さんが微笑む。
「私はこれでも10年クラブ経営してきたんですよ。お兄さんの事はもう調べました。お兄さんは大手チェーンの美容室で働いてらして。ここ6年で4店舗の店長をされた。赤字2店舗を同時に店長を任されて、両店舗共に黒字に変えた。今後採算のとれない地区の1店舗は、店じまいさせる事が決まってから店長で出向き、しっかりと店じまいの処理をして終わらせた。その時の手際が大変良かったと評判です。最後の1店舗はオープンから任されて、今順調に数字を伸ばされていると……。オープンは採用含め既存店とは違う苦労がありますからね」
香菜さんが調査書類を見せた。香菜さんの探偵気質はビジネスにも活かされいた。
兄が驚く。
「よく調べたな。つまり香菜さんは俺の能力も買ってくれたわけか……」
香菜さんが言う。
「もちろんです。私はビジネスには厳しいんです。お金さえ払えば、調査してくれる会社はあるんですよ。私は数字しか信用しないんです。どうです。一緒に、資金を出し合って、美容室を経営しませんか? 私なら、お金以外にも色々してあげられる」
そして兄は考えさせてくれと言った。




