表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/82

元カレの逆襲に合いました


 香菜さんの彼氏を山に置き去りにして、10日も経った頃だった。

 それは唐突におきた。

 夕闇の中、兄が美容室の勤務を終えて、帰宅するために店の外に出た時だった。


 兄は何か黒いモノが、自分に突進してくるのが見えた。

 兄は、それが何か分からなかった。

 何かが、前のめりになって、兄に向かって、勢いよくぶつかってきた。


 兄は空手を長年やってはいたが、まさかこの町中で、こんな事が起こるとは思っていなかった。

 だから、避けなかったのだ。

 ぶつかって来るものを、受け止めてしまった。


 そして悲劇は起こった。

 兄が、黒い何かを受け止めた瞬間。

 音がした。


 プサッ!


 兄は音がした場所を見た。

 腹に何かが刺さっていた。

 どうもナイフのようだった。

 ナイフは2本の手でしっかり握られていた。

 両手には軍手もはめられて、ナイフについた血で滑らないようにされている。用意周到だった。


 ナイフを握るモノは、まるでバレーボールをレシーブするような低い姿勢で、顔を上げた。

 兄が、そのモノの顔を見た。


 香菜さんの彼氏の康ちゃんだった。

 兄が言う。


 「あぁ、なんだ康ちゃんかぁ」

 康ちゃんが、ナイフを兄から抜いた。

 ナイフを抜くと、同時に兄の腹から血が吹き出す。

 兄は腹を抑えた。

 それを見て、康ちゃんはニヤニヤ笑った。


 それから思いをぶちまけた。

「死ね。お前のせいで、金づるを無くした。お前に取られた! 許せない! その上、足を怪我していたのに、山になんか捨てやがって!」

 

 兄が言う。

 「無事帰って来られたんだから、良いでしょう?」

 「うるさい! バカ! 凍死するかと思ったんだぞ。獣の気配はするし……」

 「それは大変だったな」

 のんきに兄が言うので、康ちゃんは余計旗が立つ。

 それでもう一度刺そうとした。

 

 その時。

 兄は康ちゃんのナイフを持った二の腕を、傷を押さえてない方の手で抑えつけ、康ちゃんの頭に頭突きをした。


 バコーン!!!!


 鈍い音がなり響き、康ちゃんはナイフを持ったまま、倒れた。

 そこに後から出てきた、美容室の従業員が、驚いて兄に聞いた。

 「ああ。店長! どうしたんですか? 血が……。血が……。何があったんですか?」

 「悪いが、救急車を呼んでください。後警察も。こいつに刺されました」

 従業員が携帯で電話し始めた。

 

 兄も電話した。

 「ああ、香菜さん。俺、もしかして、死ぬかも。康ちゃんに刺されちゃって。でも香菜さんのせいじゃないから、気にしないで」


 そこまで言うと、兄の気は遠のいて。

 血まみれの携帯が地面に落ちた。

 

 従業員が叫ぶ。

「大丈夫ですか! 店長! 店長!」

 必死で血が流れ出すのを、従業員が押さえて止めた。

 

 通行人の誰かが、私は医療従事者だと言って兄の怪我を確かめた。そして叫ぶ。

「気持ちをしっかりもってください。ああ、ちょっとぉ! ちょっとぉ! 頑張れ! こんな時は、気持ちが大事なんだ!」


 サイレンの音が、遠くで鳴り響いていた。


 兄の意識は夕闇に彷徨った。


 その全ては香菜さんの携帯に、実況中継されていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ