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元カレ再びやってきて、やっぱりクズでした

 洋さんが去って、1月が経とうとしていた、土曜日の夕刻時だった。玄関ベルが鳴って、麻さんが玄関を開けると、元カレだった。


 麻さんが呆れて言う。

「また来たの?」

「だって、俺たち復縁したじゃんか?」

 元カレが玄関の内側に入ろうとする。

 麻さんが阻止する。

「復縁なんてしてないよ。やめて。入らないで」

 

 腑に落ちないと言う顔で、元カレが言う。

「どうして? 洋さんとは結局何でもないんだろう?」

「……。何でそう思うの?」

「あれからお兄さんとライン交換して、2度一緒に飲んだんだ。奢ったら上機嫌で色々教えてくれた」

 

 麻さんは兄に絶望する。可愛い顔で元カレが言う。

「ネェ、立ち話もなんだろう?入れてくれよ」

 麻さんが嫌がる。

「いやよ。入れたくない。彼氏でもないし、家族でもない男は、家に入れられない」

「洋さんは来てたって聞いてるぞ。なんで俺はダメなんだ」

 

 麻さんはそう言われて思う。

 ――何で洋さんは、家に入れたんだろう?――


 麻さんが言う。

「ともかく帰って!」

 元カレが甘えて言う。

「なぁ、やり直そうよ。今度は俺も麻さんに優しくするからさァ」

 元カレは、前回付き合った時、麻さんに優しくなかった事を知っているんだと、麻さんは思った。


 元カレの説得は続く。

「俺だって、あの頃よりは成長して、だいぶ大人になった。これでも仕事も頑張っているんだ。彼女ともちゃんと別れた。彼女以外の女も精算したし。麻さんだって洋さんとは、あれっきりなんだろう? 俺は麻さんと別れてから、3人と付き合ったけど、全然ダメだった。あいつら使えない女でさ。気が利かないんだ。文句ばっか言うんだよ。結局俺には麻さんなんだよ」

 

 麻さんが真剣に聞いた。

「それ、本当? 本気で言っているの?」

「冗談でなんか言えないだろう?好きなんだ。麻さんじゃなきゃ俺ダメなんだ。ダメな俺の世話を焼いてくれよ」

「それって、本当に私が好きだからなの?」

 酔いしれる様に元カレが言う。

「本当だよ。愛してるのは麻さんだけだ」


 麻さんは確認する。

「他の付き合った女は好きじゃなかったの?」

「その時は好きだと思ったけど、結局お互いに顔と体だけの関係だったな。でも麻さんは違う」

 

「何が違うの?」

「だって、俺の事を一番に考えてくれるだろう? つまりさぁ。俺に対して心があるだろう?」

 麻さんの脳裏に、前回付き合っていた頃の記憶が蘇る。

「私の事、カビ臭いって言ってた。愛してるはずないよ」

 元カレは優しい口調で言う。

「そんな事間に受けたのか?馬鹿だなァ。そんなはずないだろう?あれは麻さんのお母さんが俺に酷い事言うから、つい、言ったんだ。本気じゃなかったんだよゥ」

「本気じゃないって……」

「そう、本気じゃない」

 どさくさ紛れに元カレが麻さんを抱きしめようとした。


 麻さんが体をずらして、元カレをすり抜ける。そして麻さんが言う。

「あなたの気持ちは、よく分かった。私の事を……」

 元カレは麻さんに、再び接近して言う。

「ああ、麻さんが好きだ。俺の気持ちを分かってくれたの?じゃぁ、やり直してくれるの?」

 麻さんが弱々しく言う。

「……考えさせて」

 

 元カレの声は荒々しい。明らかにキレていた。

「はぁ! 今更何を考えるんだよ! 俺がこんなに誠意を示しているのに! 彼女以外の女も全部切ったんだよ! 今後は俺、麻さんだけを大事にするって言っているんだよ! 何が不満なの!」

 元カレは彼女以外にも女がいた事が、悪いと思っていない。


 麻さんは元カレの彼女たちに同情しつつ言う。

「私を大事に思うなら、時間くれても良いと思う」

 元カレはかなり不満だった。顔が怒っている。でも折れた。

「ふーん、分かった。来週クリスマスだろう? 実は麻さんと行こうと思って、イブにいつもの店に予約入れておいた。時間は18時だ。クリスマスに返事くれよ」

 麻さんは俯いたままだった。

 麻さんは思っていた。

 

――結局以前と同じだ。勝手に行きたい場所を決めて、勝手に予約を取る。そして喜ばないとキレる――

 

 元カレは怒ったまま、帰って行った。


 帰って行った元カレを思い浮かべて、麻さんは思った。


 ――私は、自分に自信がなかったから――


 ――付き合ってきた男たちに。

 浮気を許したのも。

 なんでも許したもの。

 言われたらなんでもしてあげたのも――


 ――あんなどうしようもない元カレと付き合ったのも――


 ――自信がなかったから――


 麻さんの自分への自信のなさから、ダメな男が麻さんにはちょうど良いと思えたから、麻さんは元カレと付き合い。


 麻さんは自信のなさから、全てを許して、何でもした。


 麻さんは、ダメな男に尽くして、ダメな男に感謝されて、麻さんに価値があると思いたかった。


 あのダメな男には、麻さんがいなきゃダメだって、思う事が、麻さんの価値だって思ってしまった。


 麻さんは思う。


 ――元カレくらいが、無価値な私にはお似合い。元カレも優しくしてくれると言っていた。だったら……。だったら……。もう一度……。いやでも、それは……――


 麻さんの心は、定まらない。


 弱った麻さんには、それがたとえ、藁であっても、しがみつきたいと思わずにいられなかった。


 ――物事にはいつだって、つり合いってもんがある。私につり合うのは……――


 そして麻さんは、せっかく落ち着いてきていた掃除を、また始めてしまった。

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