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19/82

傷心の洋さんは東京に旅立っていきました

 引っ越しの日。

 洋さんはつい、あたりを見回してしまう。

 家を出ても、道を歩いても。バスに乗っても。

 香菜さんがスクショまで撮ったから。

 駅に向かう何処かに麻さんがいて。

 何か洋さんに言ってくれるのを、洋さんは期待していた。


 最後に香菜さんに会いに行ったのも。何か麻さんとの間に、奇跡を起こしてくれるかもと期待したからだし。


 香菜さんが麻さんに送ったスクリーンショット画像を、送信取り消ししなかったのも。スクリーンショット画像を見て、麻さんが何か行動してくれる事を期待したからだった。


 最後の希望だった。


 洋さんは自分から電話する勇気も、ラインする勇気もなかった。

 待つしか出来なかった。


 スクリーンショット画像の送信取り消しをしないで、待つ事を選択してしまった。


 待ったところで、麻さんの姿はなく。

 

 洋さんは、ギリギリまで新幹線の改札で待っていたけど。

 

 携帯の画面に、通知とか電話が来ないか気にし続けたけど。


 新幹線の洋さんの隣の席に、麻さんが乗って来ないか期待したけど。


 何も起こらず。

 麻さんの姿はなく。

 洋さんは、一人新幹線に乗って。

 東京に向かった。

 2時間ほどで東京だった。

 東京駅に降り立って、洋さんは呟いた。


 「遂にフラれたかぁ」

 大きな東京駅の構内を、洋さんは歩く。

 沢山の人並みの中を、泳ぐように洋さんは歩いた。


 いつもより早歩きで、先に進んだ。

 中央線に乗って、借りたマンションのある駅を目指した。

 流れる景色は、田舎と違って、ビルが所狭しと立ち並び。

 何処からそんなに湧いて来たのか、道を塞ぐほどの人が行き交い、人の群れが流れて行く。

 一足早いイルミネーションの渦に、秋の終わりを洋さんは感じた。銀杏は色付き、木枯らしも吹き始めていた。


 ――――新しい生活始めて、新しく生きていかないと――――


 人波に流されて、心に溜まった想いを、流してしまいたかった。

 

 洋さんは無理やり、心をリセットしようとしていた。


 洋さんは思う。

 

 ――このまま地元のいたら、いつまでも麻さんへの未練が断ち切れない――


 ――好きすぎて、麻さんの利用するコンビニやスーパーを、うろついてしまいかねない――


 ――呼ばれたら犬みたいに、麻さんのいるところに行ってしまう――


 洋さんは思う。


 ――俺は、麻さん公認のストーカーになりかねない。そして麻さんを困らせてしまうんだ――


 ――不器用な俺は、麻さんと恋人や夫婦になるか、全く違う場所で他人として生きるしか、選択肢がない――


 ――もう、友達の振りは出来ない――


 洋さんは呟く。

 

「婚活するか……」


 電車の中で、洋さんは婚活アプリをインストールした。


 洋さんは、新しい土地で、未来に歩き出す。

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