傷心の洋さんは東京に旅立っていきました
引っ越しの日。
洋さんはつい、あたりを見回してしまう。
家を出ても、道を歩いても。バスに乗っても。
香菜さんがスクショまで撮ったから。
駅に向かう何処かに麻さんがいて。
何か洋さんに言ってくれるのを、洋さんは期待していた。
最後に香菜さんに会いに行ったのも。何か麻さんとの間に、奇跡を起こしてくれるかもと期待したからだし。
香菜さんが麻さんに送ったスクリーンショット画像を、送信取り消ししなかったのも。スクリーンショット画像を見て、麻さんが何か行動してくれる事を期待したからだった。
最後の希望だった。
洋さんは自分から電話する勇気も、ラインする勇気もなかった。
待つしか出来なかった。
スクリーンショット画像の送信取り消しをしないで、待つ事を選択してしまった。
待ったところで、麻さんの姿はなく。
洋さんは、ギリギリまで新幹線の改札で待っていたけど。
携帯の画面に、通知とか電話が来ないか気にし続けたけど。
新幹線の洋さんの隣の席に、麻さんが乗って来ないか期待したけど。
何も起こらず。
麻さんの姿はなく。
洋さんは、一人新幹線に乗って。
東京に向かった。
2時間ほどで東京だった。
東京駅に降り立って、洋さんは呟いた。
「遂にフラれたかぁ」
大きな東京駅の構内を、洋さんは歩く。
沢山の人並みの中を、泳ぐように洋さんは歩いた。
いつもより早歩きで、先に進んだ。
中央線に乗って、借りたマンションのある駅を目指した。
流れる景色は、田舎と違って、ビルが所狭しと立ち並び。
何処からそんなに湧いて来たのか、道を塞ぐほどの人が行き交い、人の群れが流れて行く。
一足早いイルミネーションの渦に、秋の終わりを洋さんは感じた。銀杏は色付き、木枯らしも吹き始めていた。
――――新しい生活始めて、新しく生きていかないと――――
人波に流されて、心に溜まった想いを、流してしまいたかった。
洋さんは無理やり、心をリセットしようとしていた。
洋さんは思う。
――このまま地元のいたら、いつまでも麻さんへの未練が断ち切れない――
――好きすぎて、麻さんの利用するコンビニやスーパーを、うろついてしまいかねない――
――呼ばれたら犬みたいに、麻さんのいるところに行ってしまう――
洋さんは思う。
――俺は、麻さん公認のストーカーになりかねない。そして麻さんを困らせてしまうんだ――
――不器用な俺は、麻さんと恋人や夫婦になるか、全く違う場所で他人として生きるしか、選択肢がない――
――もう、友達の振りは出来ない――
洋さんは呟く。
「婚活するか……」
電車の中で、洋さんは婚活アプリをインストールした。
洋さんは、新しい土地で、未来に歩き出す。