香菜のクラブで、洋さんが高い酒を奢られました
香菜さんは、高級クラブで、ママをしている。その高級クラブで、香菜さんが働いていると、客に呼ばれた。それでテーブルに行くと、洋さんだった。香菜さんが洋さんに言う。
「珍しいね。お店に来るなんて」
洋さんが、店の中を物珍しそうに見回しながら、答える。
「香菜さんの店は高級店だろう。俺には縁遠いからね。ここってクラブなの?キャバクラなの?」
香菜さんが答える。
「強いて言えばクラブよ。洋さんも私の名刺があったから、入店出来たんでしょう?でも東京の高級店に比べたら、全然安いもんよ」
洋さんが香菜さんを見て言う。
「ふーん。俺はこう言う店に基本来ないからなぁ。でもやっぱり香菜さんは、ちゃんとするとめちゃ綺麗だな。さすが高級店のママだな」
香菜さんが心外そうに言う。
「ちゃんとしなくても私は美人で綺麗なのよ」
洋さんが頷く。
「そうだよな。中学の同級生では1番綺麗だったよな。一時期タレントやモデルもしてたもんな。モデルしてたくらいだから、背も高いし、手足も長いよな。ヒール履くと俺と身長かわんないだろう」
香菜さんが自分の靴のヒール部分を見る。
「身長は168センチしかないから、ヒール履くと175センチかな。私は背が低いのがコンプレックスなんだよ。モデルは170センチは欲しいよね」
洋さんはホッとする。
「俺174センチだから。ギリ俺の方が高い。でも、あの頃だいぶかせいだだろう?」
香菜さんが寂しげに言う。
「でもそのお陰で、ママとパパが離婚したんだよ。私以外の家族の事まで、ある事ない事ネットに書き込まれて。あの時寄り添ってくれたのは、麻さんだけだった。私、同級生の女に、意味なく嫌われてたから」
洋さんが昔を思い出す。
「あの時は麻さんがいてくれて、香菜さんも救われたよね」
香菜さんが頷き聞く。
「それで洋さんはわざわざ店に何故来たの?」
洋さんが言う。
「今日は別れを言いに来た。俺、明後日引っ越すから。挨拶に来た」
香菜さんが不貞腐れる。
「明後日引っ越しなんて、聞いてないよ」
洋さんがメニューを見ながら言う。
「言ってないから」
「そんなぁ。何処行くの」
「東京。会社のそばに住むよ」
「そうなんだ。寂しくなるね。麻さんには話したの?」
洋さんがぶっきらぼうに言う。
「話たよ」
香菜さんは興味深々だ。
「なんか言ってた?」
「何も言われてない」
香菜さんはガッカリする。
「ふーん、そうなんだ。それで、何を飲む?」
香菜さんに聞かれて、洋さんが指さす。
「一番安いの酒。これが安いかな?」
「ケチね」
「引っ越しで金がかかったから。ここ座るだけで10000円だろう?俺には身分違いの店だからな」
探偵香菜さんの取り調べが始まった。
「ふーん。貧乏なんだぁ。それで、明後日何時に出発すんのよ」
「明後日は、家出るのが12時くらいかな。新幹線が13時位だったかな。もう最低限の荷物は送ったし。必要なものは、東京でほとんど買うから。ゆっくり出ても平気……。何?」
香菜さんがテーブルに投げてあった、洋さんの携帯を手にとり、洋さんの顔に翳して、顔認証を通す。
「チケットみせて」
顔認証が通って、携帯画面が開く。
洋さんが香菜さんから携帯を奪い返そうとして言う。
「なに?え、ちょっと。やめて。俺の携帯で何するの?」
香菜さんが、洋さんの手を巧に避けて、洋さんの携帯画面を操作しつつ言う。
「見送りに行くかもでしょう。だから新幹線のチケットみせて。メールに入ってるの?チケット何処にあるの?」
洋さんは携帯を奪い返すのをやめて、その代わりチケットの場所を教えない。
「嫌だよ。教えない」
香菜さんが携帯画面を、食い入るように見る。
「いいから。ここの今日の代金は、私が払って上げる。だから見せて」
洋さんは教えなかったが、香菜さんはあっさりチケットの場所の到達した。
香菜さんが、洋さんの携帯で何かした。
洋さんが焦って言う。
「あ。新幹線のチケットのスクリーンショット画像をとって、麻さんの携帯にラインで転送しただろう!」
洋さんの携帯のメールアプリ内の、新幹線チケットの情報画面をコピーして、麻さんのラインに、洋さんの乗る予定の新幹線の情報を流したのだ。
なのに、香菜さんがキッパリ言う。
「何もしてない」
香菜さんが、洋さんに携帯を返した。
洋さんが自分の携帯を確かめながら言う。
「したじゃないか……」
その隙に、香菜さんが黒服を呼んで指示した。
「あ、黒服君、酒持ってきて。ヘルプの女の子はこの席にはいらないから。良いの。私の客だから。酒は、あれが良い。そうそうあれ」
洋さんは、香菜さんの選んだ酒がどのくらいかと思い、冷や汗が出る。
「酒って。一体いくらの奴選んだの?俺高いの無理だから」
「大丈夫、奢るから。洋さんはチャージだけ払えば良いよ。周りに示しつかないから、チャージだけは払って。さぁ、もう黙れ。黙って飲んで去れ」
黒服がブランディボトルとフルーツ盛を持ってくる。それを見て洋さんが驚く。
「奢りって……。その豪華なフルーツ盛りと、ブランディボトル代は高いんじゃないの?」
香菜さんは男気のある女だ。
「問題ない。さぁ飲んで」
どんどん洋さんは飲まされた。一気に飲まされて、洋さんは直ぐ酔ってしまう。
香菜さんが、酔って頭の回らない洋さんに聞く。
「麻さんの何処がそんなに良かったの?」
酔った洋さんが、テーブルにへばり付きながら答えた。
「小ぶりで、小さくて、リスみたいで可愛いだろう?目がクリクリしていて。抱きしめたらすっぽり俺の中に収まりそうなのも萌える。抱きしめてぎゅーぎゅーして、スリスリしたい。麻さんの少年みたいな声もいい。あの声にゾクゾクするんだ。あの声で洋さんって呼ばれるとたまらない。あと太ももの付け根とお尻かな。プールで見てから頭を離れない。なんかエロくて……」
香菜さんが呆れる。
「洋さんは爽やかに見えて、ちゃんと変態男だったんだね。あーキモぃ」
香菜さんは男の本音など聞くもんじゃないと思った。
酔い過ぎた洋さんは、香菜さんの言葉が耳に入らないらしく、話を続ける。
「素直だし、気が利くし。料理や家事も得意だし。優しいし。ほんわかした雰囲気も良いし。一緒にいると癒やされる。一緒にいると楽しいんだ」
要するに、ベタ惚れじゃないかと香菜さんは思う。
「ふーん、じゃあ何で告らなかったの?」
洋さんが落ち込む。
「麻さんの好みって俺と反対だろう?」
意外な理由に香菜さんが驚く。
「え!そこ?」
洋さんが悲しげに言う。
「麻さんの歴代の彼氏とか、好きになった男は、俺とはタイプが違うから……。甘えん坊で、可愛いタイプばかりだったから」
香菜さんは、洋さんのしょうもない理由にガッカリした。
「そんな理由だったの?そんな理由だったなんて……。その程度の理由で、二の足踏んでたなんて……じゃ、事ある事に麻さんに、俺たち友達だって言ってたのはどうして?」
洋さんが今にも寝そうな顔をしている。
「麻さんに警戒されないようにだよ。俺が麻さんを好きだって分って、警戒されたらまずいだろう? 家に入れてもらえなくなる。そしたら麻さんの美味しい料理も食べられなくなって。新婚夫婦プレイも楽しめなくなるだろう?新婚夫婦プレイがめちゃ楽しんだよ」
そう言いながら、洋さんがニタニタ笑う。
香菜さんは白い目で洋さんをみる。
「洋さん、かなりキモい発言しているよ。洋さんは脳内で何してんのよ!」
洋さんが言う。
「えー。そうだな。色々してる。本当色々してる。言って良いのかな?女性に言っても大丈夫?」
洋さんにギリギリの理性が働いた。
香菜さんは開いた口が塞がらない。
「洋さん、そんな人だったの?」
洋さんは悲しげだ。
「香菜さん、俺、ダメなヤツなの。ヘタレなのよ。麻さんにフラれるのが怖すぎて、ただ側にいる事しか出来なかった。麻さんに彼氏出来ると、俺に気のある女を唆して。間に合わせの女と付き合って、その女を雑に扱って、怒らせてフラれてさ。その度やっぱり麻さんが好きだって認識を深めるわけよ」
香菜さんが軽蔑して言う。
「洋さん、最低だね。洋さん、それってクズ行動だよ」
「香菜さん、男なんてみんなクズなんだよ。俺、麻さん以外の女には最低なのよ。それに、基本俺って、女から告られてきたから、自分から告るなんて無理だよ」
洋さんは酒に酔って、本音がダダ漏れだった。
香菜さんがそんな洋さんを見て言う。
「あーぁ、良い男いないかなぁ。洋さんまでこんなじゃ、絶望しかない。洋さんは、思ってたんと違う」
そして、洋さんはそのまま酔い潰れて、タクシーで帰って行った。