コンビニで洋さんと会いました
麻さんが、コンビニで酒を物色していると、男に声を掛けられた。
「珍しいな。こんな時間に会うなんて」
振り返ると洋さんだった。
麻さんは洋さんに偶然会えて嬉しい。ウキウキしながら答える。
「本当だね」
洋さんが麻さんに聞いた。
「歩いて来たのか?」
「うんコンビニとか、スーパーとか何でも近いから。実家より便利なんだけど。実家は繁華街から少しはずれてるじゃん?」
洋さんが少し考えて言う。
「確かにな。麻さんの実家は完璧住宅地だよな。静かで良いけど……」
麻さんが頷いて言う。
「この辺のコンビニは、駅近で駐車場ないから。自転車買った方が良いよね?」
麻さんの住む街は大型地方都市で、駅近はそこそこ車なしで生活可能だ。バスや地下鉄もある。それで洋さんも同意する。
「確かにな。あれば楽だよ。電動自転車にしたら?」
「電動いいね」
麻さんが同意しながら、酒やビールを、篭の半分くらい入れたので、洋さんが気になって聞いた。
「ビール?焼酎?そんなに買うのか?」
麻さんが重そうにカゴをぶら下げて言う。
「兄が家に来ていて、飲みたいと言うから」
「なるほど、じゃ俺も、麻さんの兄に会いに行こう。久しぶりに一緒に飲もう」
「いいけど。うちの兄、今、面倒な男になっているけど良いの?」
「面倒ってなに?」
麻さんは即答した。
「いえぬ」
「なして?」
「我が家の恥ぞ」
「なるほど」
「兄に直で聞いてくれ」
洋が、麻さんのもつカゴを奪って言う。
「了解。これ俺が払うわ」
「いいの?」
「ああ、その代わり、おつまみ作ってくれ」
「それでいいの?でも大したもの作れないよ。それに結構これ、レジで金をとられるのでは?やっぱり、私も半分出すよ」
洋さんが笑顔で言う。
「良いよ。酒で済むなら安い。俺、麻さんの料理好きだから。なかなか食べさせてもらえないからな」
麻さんは真顔になっていう。
「マジですか……。私の料理が好きっていうの」
「マジよ」
麻さんは少し泣きそうになる。それで洋さんが聞いた。
「どうしたぁ?」
「いつもママに料理が下手だって言われてたから。私は料理の自信がない」
「ふーん。まぁ好みの問題だろう。麻さんの料理はあっさり系だからな。麻さんのお母さんは、案外こってり系だろう?」
麻さんがうなづく。
洋さんがあっけらかんと言う。
「どっちの味が悪いんでもない。単にどっちが好きかってだけの問題だ。気にするな」
「洋さん……」
麻さんがちょっと黙る。
黙られて、洋さんは困って聞いた。
「なんだ?その間は」
「……私さぁ、いつもママにさ。ダメ出しされてさ。自信がないんだ」
洋さんがしんみりと言う。
「ねぇ麻さん、麻さんはそのままが良いんだから、ママがなって欲しい麻さんなんかになる必要はないんだぞ」
麻さんが言う。
「私ね、料理だけじゃなくてさ。性格も地味で暗いじゃない?兄みたいに人気者でもないしね。もう外見は仕方ないと思うんだけど。性格とか、料理の味とか、直さなきゃ、直さなきゃって思ってしまうんだよ」
「麻さんのママは、兄さんが好きだよな。兄さんは人たらしだからなぁ。あんなふうにはなかなか成れないぞ。アレは特殊だろう」
麻さんが納得したように言う。
「だよね」
「でもさ。麻さんは、俺はそのままが良いんだ。だから直すなんてしないでくれよ」
麻さんは少し黙って、それから言った。
「洋さん、ありがとう」
麻さんがキラキラした目で洋さんを見上げた。
洋さんが照れて言う。
「もう、照れるだろう」
そして二人は馬鹿みたいに笑った。
「あははは」
「あははは」
会計が終わって、店の外に出ると、2人は、並んで歩く。洋さんは自分が乗って来た自転車を押して歩いた。二人で麻さんの家に向かった。