お兄ちゃんが家出してきました
11月も一週過ぎた頃。酔っ払いの兄が、麻さんの家に、夜の10時頃やってきた。
「麻さん、泊めて」
大柄な兄が酔うと、麻さんは扱いに困ってしまう。
「お兄ちゃん、どうしたの」
兄は玄関に倒れ込んで言う。
「家出して来た」
「何故に?」
兄は興奮している。
「俺さ、とうとう聞いちゃったのよ。南央美にさ。浮気してたのかってさ」
麻さんも、その行動にはびっくりだ。
「マヂですか?」
兄は力いっぱい言う。
「マヂ、マヂ、マジ、マジですよ。そしてお腹の子は俺の子ですか? ってさぁ」
麻さんは南央美を思い出す。そして南央美が怒った顔を想像して、身震いした。
「で、なんだって? 南央美さんはなんだって言ったの?」
兄が玄関の床を叩いて言う。
「あ――――――――――――ッ!やってられね――――――――ッ」
麻さんには兄の行動が、激しすぎて理解出来ない。兄ながら怖い。
「何?何?何?」
麻さんは、兄の奇行に動揺して、何? を連呼した。
兄は悔しげだ。
「逆ギレされた。あなたは私を信用していない。だからそんなこと聞くんだ、だとよ。どう思う?」
麻さんが冷静に戻って言う。
「答えになってないね」
兄の興奮は収まらない。
「あ――――――――。だろう?だろう?だろう?しかも、私のことを信じているなら、そんな事聞かないでしょう? あんたはクズだって言われたんだ。頭弱いんだから、余計な事考えているんじゃないよって言われてさ。俺が反撃しないの知ってるから、箒の柄で殴るんだぜ」
麻さんは、前々から、南央美さんは只者ではないと感じていた。
「それで、どうするの?」
「やっぱ、俺ダメだわ。南央美とは別れるわ」
麻さんは赤ちゃんが心配になる。
「赤ちゃんどうするの?」
冗談交じりに兄が言う。
「麻さんにやろうか?」
麻さんが兄をたしなめる。
「赤ちゃんは、猫じゃないんだよ。お兄ちゃん」
兄は力いっぱい言う。
「あ――――――――。だよな。でも俺の子じゃないんだよ。多分、違う」
「だったら、それ以上に、私の子でもない」
兄がくだを巻く。
「酒くれよ。酒、酒、酒。もう飲まずにはいられないよー」
「もう飲んでるじゃん。飲んできたんでしょう?」
「足らぬ」
麻さんは諦めた。
「さようか。仕方ない……」
もう飲ませる他ないと思った。
麻さんは財布を持ち、玄関で靴を履き初めた。
兄が麻さんを目で追う。
「何処に行く?」
「直ぐそこのコンビニで、酒を買ってくるよ」
「ありがたい。大好きな妹。俺の麻さん――――!」
麻さんは時々、兄が恥ずかしい。




