香菜さんが出て行きました
ママが来てから1週間後だった。
香菜さんが2階から、荷物を運んきて言う。
「家が見つかったから、出ていくね」
「急だね。もしかしてママのこと気にして……」
香菜さんが明るく否定して言う。
「違う。違う。店のそばにいい物件見つかってさ。夜の商売でも、賃貸の保証人の保険に払えば入居させてくれるって言うから」
麻さんは悲しそうに言う。
「そうか……」
麻さんの悲しい気持ちを打ち消すように、香菜さんが明るく言う。
「大丈夫、遊び来るし。麻さんも来て」
「ママが何時も、迷惑かけて……」
「いいんだって。仕方なじゃない。親子の縁は切れないし。でも麻さんもやっとママから離れて暮らせたし。良かったと思うよ。絶対ママの家に帰ったらダメだよ」
麻さんは少し考えてから言う。
「大丈夫だよ。ママは兄たちと住むだろうし。もう私は用済みなんじゃないかな?昔からママは兄が好きだし。私のことは、たぶん、都合よく利用した時に、居たら良いだけなんだと思う」
落ち込んだような麻さんに、香菜さんが言う。
「そう言うわけじゃないだろうけど……。親って厄介だよね」
麻さんがうつむいて黙ってしまう。それで香菜さんが更に言う。
「嫌いでも、好きだから、スッパリと切れないよね。じゃ、タクシー待たせてあるから、行くね」
大荷物を抱えながら香菜さんは出ていく。
その後を追って麻さんも玄関を出て、香菜さんを見送った。
見送って、家に入ると、猫が足に絡まって来て。
麻さんが独り言を言う。
「猫と二人になってしまった……」
麻さんが猫に向かって言う。
「猫。君は一緒に卵焼きでも食べるかい?香菜さんが出ていくの知らなくて、卵を2個も使って、卵焼きを焼いてしまったよ」
猫が麻さんを見上げて鳴いた。
「ナァァ……ァァァ……」
麻さんが猫に向かって、ちょっと笑った。